探していた姿
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1年越しに訪ねた東北の田舎町。
あの無人駅は去年と変わらずいろんなものが不足していると思えたけど、小春日和の陽気に包まれてひどく暖かな場所に思えた。
こうも印象が違って見えるのは、単純に訪れた月がひとつ違うからだけではないとも思う。
野鳥のさえずりだけが響く閑散とした並木道を、私と恵子さんは肩を並べて歩く。
高木の影が浮き彫りにする陽だまりの中で、その日差しの存在感には安心するものがあった。
「正直に言うとね、花帆ちゃんのこと、ずっと気掛かりだった。でもこうして会えて安心したわ。なぜだろう。でも、もう大丈夫って顔をしてる」
電話ボックスから掛けた無言電話のこと、わざわざ口に出して謝らなくても、この人は解ってくれていると思えた。
「あの子の母親のことを、私は未だに許せずにいるの。我が子の背負っている苦しみをいくらか担いでやることもせず、他人事のようにして今もどこかでのうのうと生きている。そんな人が許されて、どうしてなっちゃんが……」
名都と私との別れでさえあれだけ突然だったんだから、当然恵子さんには予測のしようもないことだった。
でもいつの日かこうなってしまうことは心のどこかで感じ取っていたという。
大学への進学に併せて遠い街に下宿したいという名都の希望を聞いたとき、彼女は自分の役目を悟った。
名都が生きるには恵子さんが必要だったけど、母親や居場所になることとはまた違う。
当時、恵子さんはそれを理解した上で黙って名都を送り出した。
私は単刀直入に訊いた。
「名都はいつか、自分を縛り付けるものから逃れられると思いますか」
「……何を悩むことがあるの。もちろんじゃない。だってそれは、花帆ちゃん自身が証明しているでしょう」
恵子さんは改めて私に向き直った。
「忘れもしないわ。あの子がいなくなったと連絡を受けて、警察署へ行って、あなたと初めて会ったわね。私は心底驚いたのよ。なっちゃんが友達を作った。それもただの遊び仲間じゃない。こんなにも心を通い合わせた……」
人って、独りでは生きていけない。
でも絆を作ることは思うほど簡単じゃない。
私と名都のあいだに起こったことって、実は本当に、簡単なことじゃなかったんだよね。
「嬉しかったわ……」
恵子さんの頬にいくつもの細い線がつたった。
「あの子は私に、ずっとずっと大変なことをこなしてみせたんだと、あなたの姿を通して教えたのよ。私の心配なんて、もういらないんだと思えたの」
これから先、時間はかかるだろう。
途方もない時間が、私が立ち直るのに必要としたものの何倍もの経験が。
残念だけど私たちが名都にしてあげられることは無い。
でも名都は、私との関りの中でとっくに答えを見せていてくれた。
どこかの違う場所でも、私のときと同じように人と繋がっていくことができるなら、きっとあの子は大丈夫。
伝えなくたってちゃんと自分で解ってる。
もう追わなくても、待たなくても、いいんですよね。
そう問い掛ける代わりに、私は思い付く限りの2人で過ごした日々を語った。
オチも中身も無いくだらないエピソードを延々と。
そういう出来事の中にこそ、探していた姿が隠れていた気がした。
「私の隣にいたときの名都は、名都だったんですよ」
これ以上ないってほど自然体だった、あの子らしいあの子を語った。




