いよいよもってメンヘラかな
シャワーを浴びたあと、やることがなくて乱雑に置かれた食器を並べ直したり洋服を丸めてみたり。
グダグダと時間を潰したけど、眞輔は一向に帰ってこない。
そのまま時刻は0時を回った。
窓の外は深々と雪が積もり、アスファルトの地面は真っ白に様変わりしている。
「帰るか……」
せっかくだからここまで待ち続けたって痕跡を残したいと、欲が出た。
目に留まったのはアロマキャンドルの付箋。
書き置きに書き置きを返すことを閃いた。
さて、何とメッセージを残そうか。
シャーペンを握りながら初手で躓いた私は、とりあえず頭の中に眞輔を思い浮かべてみる。
見慣れた顔はすぐに出てきたんだけど、なぜだか想像上の彼はなかなか笑顔を見せてくれない。
無表情で淡々と降りしきる雪の中を歩いていく光景。
そんなものしか浮かんでこない。
どうしてだろう。
空白のスペースに、よれた字で、
【好き】
私、いよいよもってメンヘラかな。
消そ。ってケシゴムを探していると、玄関先でガタガタと音がした。
帰ってきたんだ。
居間のドアからひょいと顔を出すと、廊下にはビショビショに濡れた上着が脱ぎ捨てられたまま。
浴室の電気が点いていてシャワーの音も聞こえてくる。
風呂場に直行したらしい。
「眞輔?」
眞輔はズボンの裾を捲り上げて、剥き出しの両足に懸命に温水を当てていた。
「ああ、ただいま。やっぱり来てたね」
少し疲れた笑顔を私に向ける。
「どうしたの?」
「脚が……。凍傷寸前かな、これ。まったく感覚が戻らない」
私は濡れた服を片付けて静かに居間で待機した。
しばらくして、ペンギンみたいなひょこひょこ歩きで眞輔がやってきた。
「切断はしなくてもよさそう」
物騒なこと言わないで。
仰向けに寝転がった眞輔の両足を膝枕するようにして抱いて、さすってやった。
さっきまで湯を浴びていたとは思えないほど芯から冷えきっていて、まるで血が通っていないみたい。
事情を聞くと、例に漏れず今夜も原付で徘徊していたらしい。
大雪を見て気分がアガり、そのまま街を一望できる高台に上って銀世界を堪能していたそうだ。
何時間も、あの雪の中を独りで……。
「楽しかったのはそこまでですよ。問題は帰り道。高台から麓までの細い路面に20センチは雪の層ができてて、二輪じゃどうにもスリップして進めない」
苦肉の策で、補助輪のように両足を地面に着けて車体を安定させながら滑り下ったという。
「両足を雪の中に突っ込んで?」
「まるで氷水に漬けられて、高速で引っ掻き回されてたみたい」
新手の拷問かなにか?
眞輔は笑い話にしたかったみたいだけど、私は素直に笑えなかった。
ちょっと、普通じゃないと思った。




