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やけに出番の多いモブ



 巽が車を走らせて私の要望どおりインドカレー屋に到着すると、生粋のインド人店員がカタコトの日本語と愛くるしい笑顔で迎えてくれた。

 店内はガラガラで私たちの貸し切り状態。


 この店は私の顔の面積より大きな手作りのナンが本当に美味で、しかもおかわりが無料。

 休みじゃなくてよかったと私はホクホク顔だった。


「別にいいんだけどさ、お前のチョイスには趣ってものがないな」

「趣?」


 巽は店内に設置されているテレビモニターを指差した。

 インドミュージックのPVが垂れ流しになっている。

 画面を埋め尽くす大量の男女が民族衣装をひるがえしながらキレキレのダンスで狂騒していた。

 今が日本の正月だということを忘却の彼方に葬ってくれるニクい演出。


「そんなことより、帰省しなくてよかったの?」

「なんで?」

「親御さん寂しがらない?」


 巽は鼻で笑った。


「関係ないね」


 巽は医者の家系であり、両親は彼を医学部に進学させようと本人の意思に反して一年間の浪人生活を強いたそうだ。


「あいつらまだ諦めてないんだぜ。口を開けばもう一回受験しろって煩いんだ。この学校は仮面浪人したことにすればいいとさ。ゲンナリするね」


 巽に言わせれば、両親は頭が固すぎるんだそうだ。

 代々続いてきた医者という仕事を子も継ぐのが当たり前と思っている。


「大学を出たら勢いのあるベンチャー企業にでも入って、医者よりよほど高い年収を稼いでやる。額面を見せりゃ黙るさ。あの手の輩には数字ってのが何より効果的だからさ」


 それが巽なりの反抗なんだろうけど、なんだろう……。

 もし私がそんなふうに将来への意気込みを親に聞かせたとしたら、手を叩いて応援してくれるんじゃないかと思う。

 まあ、それが巽の親だからこじれてるんだろうけどさ。


 気に入らないから迷惑を掛けてやろう、みたいな抵抗の仕方じゃなくて、正面切って振り払ってやるって姿勢に彼らしい底意地を感じられる。

 ひとりでだって生きてやる。そういう強さはうらやましいと思った。



 思えば巽の車の助手席に乗るのもこれで何度目だろう。

 こんなに仲良くなれるなんて、初対面の頃は考えも及ばなかったな。


「ねえ。巽にとっての眞輔って、どういう存在?」


 私の突飛な質問にも、巽も随分慣れたようだった。


「一年過ごしたけど、やっぱり第一印象のまま、主人公だよな。どこへ行ったって周りの奴らを惹き寄せてた」


 自分のことじゃないのに、私は少し誇らしい気分になった。


「それじゃ、私は?」

「んー」

「初めに比べればいくらか株上がったんじゃないの?」

「そうだな。〝やけに出番の多いモブ〟かな」


 はあ、モブ止まり?

 言ってくれんじゃん。


 そこから、巽は若干声のトーンを落とした。


「その様子じゃまだ聞いてないんだろうが、いずれは耳にするだろうから、俺から伝えとく」

「なによ? 改まっちゃって」


 なんか緊張しちゃうじゃん。


「先月の半ばくらいから、大学の一部で妙な噂が立ってるんだ。誰が目撃したのか知らないけど、キャンパスの近くで宇野(うの)名都(なつ)の姿を見かけたって」


 ……そうきたか。

 良いニュースではないんだろうとは思ったけど、さすがに予想付かなかったな。

 私は硬い顔の巽を笑い飛ばしてやった。


「心配してくれたの。ありがと。だけど、それデマだね」

「どうして言い切れるんだ?」

「あの子がここに戻る理由がない」

「お前がいるだろ」


 胸の奥がジクリとした。

 でも表情は崩さない。


「私のために戻るくらいなら初めから出てかないよ」

「危険運転で死んだクズどもとの関連を、もう警察は疑わないだろ。時効とは違うけど、ほとぼりが冷めたなら……」

「そういうレベルの話じゃない」


 ぴしゃりと払い除けるように言う私に、巽はそれ以上続けなかった。


「そうか。お前がそう言うなら、そうなんだな」


 気まずい空気。バツが悪くなった。


「詮索したかったわけじゃない。忠告だよ。とにかく、知っといた方がいい噂だ」


 私は黙って頷いた。


 そんな悪質な噂、誰が流すんだろう。何を面白がるんだろう。

 どうして今になって。


 沸々とした苛立ちが湧き上がる。

 けど、意識したらだめだと思った。

 今の私は孤独に引きこもっていた頃とは違う。

 隣に友達が、眞輔がいてくれれば、そんなものに惑わされずにいられるはずだって。

 そう心の中で言い聞かせていた。




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