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あなたは言わなきゃ解らない



 アパレルショップに入ったきり出てこなくなった茉以を置いて、暇を持て余す私はブラブラとハッピーなひしめきに混じっていく。

 ネタTシャツでも物色しようかとキョロついていると、ふいに背後から声を掛けられた。


 保科(ほしな)さんだった。

 うげっ、ととっさに身構えてしまったあたり、これが素直な感情なんだろう。

 私は保科アレルギーを患っていた。


佐伯(さえき)さん。学内でもあんまり会わないのに、こんな所でバッタリ会うなんてね」


 そのむりくりな世間話の導入感がキツくって、ああ、無難に話を切り上げるにはどうしたらいいだろう?

 ただ、そんな苦手意識を抱く裏で私は無意識に彼女の姿に見とれていた。

 今日はメガネ姿だけど、以前までのイモ臭いものとはまったくの別物。

 丸形の細フレームが小顔から絶妙に愛嬌を引き出していて、小洒落た赤い冬用コートともよく似合っていた。


 正直言って可愛かった。

 保科さんは見るたびに可愛さに磨きがかかっていくなと、変に感心してしまう。


 彼女の手にはグレーを基調としたチェックのマフラーがあった。

 値札が付いたままだから売り物だろう。


「それ、カワイイね。買うの?」

「カワイイ……?」


 彼女は眉をひそめたあとで、クスリと笑った。


「これ、紳士用だよ」


 そうなんだ……。

 よく見ればそんな気もする。

 よかれと思ってした発言で、無駄にファッションセンスの無さを露呈してしまったようだ。


「それじゃあプレゼントかな。クリスマス近いもんね」

「うん。中辻(なかつじ)くんにあげるの」


 え? って、思わず声が詰まった。

 保科さんが、代行(だいこう)に?


 彼女はそんな私のリアクションを求めていたようだった。

 満足気に、


「イヴにね、デートするの。たぶん私たち付き合うと思う」


 ショックっていうのとは違う気がするけど、あの代行が保科さんを選ぶなんて。

 驚きで固まった。


「バドミントン部ね、先月に代替わりがあって、私は副部長になったの。中辻くんが部長でね。だからもう、代行なんてアダ名はいい加減おかしいよねって」


 話についていけない私の様子を顧みず、保科さんは次々と言葉を連ねる。

 そのストレートで赤裸々な喋り方に、なんだか敵意が感じられた。


「ねえ、佐伯さん。あなたがいなくなったときのまま、時間が止まったままだと思った? 部内も、私も中辻くんも、いろいろ変わったんだよ。変わらずにいるはずないよね」

「保科さん……」


 圧倒されたままでいちゃだめだって、思った。


「何が言いたいの? はっきり言ってよ」


 そんな私の切り返しを彼女も予測していたみたいだった。

 不敵に微笑んで、


「ずっと言わなきゃいけないと思ってたの。あなたは言わなきゃ解らないって」

「何を」

「中辻くんは、ずっと待ってた」

「え……?」


 雑踏が遠のいていく。

 視界に入る人込みの動きも、残像が掛かっているみたいに遅くなって見えた。


「彼だって、部員の中じゃあなたや宇野さんと特別親しかった。去年の秋休み明け、突然2人が来なくなって、すごく落ち込んでた。みんなの前では気丈に振舞ってたけど、私は気付いてたよ」


 微笑んでいるように見えて、保科さんの目はまったく笑っていない。

 まるで許さないとでも言われているような気がした。

 その証拠に、彼女は握力のすべてを込めるようにしてマフラーを握りしめている。


「中辻くんはあなたから説明を聞くのをずっと待ってたの。一年もね。それでようやく踏ん切りが付いた。……佐伯さん。覚えておいて。あなたにとっては過去のこと、終わったことでも、その振る舞いに傷つけられた人だっていたってこと」


 踵を返し、保科さんは店の奥に消えていった。


――――当然の報いだった。


 私は自分の中で名都のことを処理するために、他のすべてを放り出した。

 そうやって内にこもることでしか対処のしようもなかったから。


 代行だけじゃない。

 部活や学校だけじゃない。

 私はあらゆるものから全力で逃げた。

 いろんなものを通り過ぎて、そのあいだに取り返しのつかないことをしでかしていたとしたって、釈明できないくらい自業自得だった。


 やるせない。

 私を取り巻く光も、音楽も、人々の笑顔も、クリスマスの雰囲気を醸すすべてのものがカラカラと私の中を通り過ぎて、虚しさだけがいつまでも残っていた。




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