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幽霊役でもやろうって



 春、夏、冬に大型休暇があるのは一般的として、秋休みなんてフレーズ、普通は聞き慣れないよね。

 三学期制の大学では中期と後期を区切るために無理矢理に連休を挟み込む。

 その期間に教授たちが期末テストの採点やら、新規の講義の準備やらを済ますって寸法。

 ただし、与えられる休みは土日を入れて一週間ほど。

 あって困るものじゃないけど、こんな中途半端なものに仰々しく秋休みって名前を付けられても、なんだかな。


 去年の秋休み、やることも無いし帰省すると伝えた私に名都(なつ)が提案した。

 南関東の実家まで車で送ってあげるから、大きく遠回りでもして一泊挟みつつ、女二人の気ままなドライブに繰り出そうって。

 もちろん断る理由なんてなかった。


 道すがらのスーパーで食料品をしこたま買い込み、ラジオから流れる適当なBGMに身体を揺らしながら、目的地とは明後日の方角へ成り行きの舵を取った。

 秋うらら。

 遠く山並みを覆う色彩は、常緑樹の暗い緑よりも鮮やかな紅や山吹の方が勢力を増していた。


 車窓を流れるなんてことはない風景。

 でも二人で見れば無限に話題が沸き上がってくるみたいで、私たちは呆れるくらいにはしゃいでいた。


『前の車種、見てみなよ』

『ゴツイ車体に八王子ナンバー?』

『ゲッ! しかも数字がゾロ目だよ』


 名都はゾロ目ナンバーを異様に警戒していた。

 そういうのは車好きが度を越して、自分の技量を過信するあまり見せつけるように無謀運転をして悦に浸る迷惑野郎に違いない、というのは彼女の持論にして狂言だった。


 観光地に立ち寄ってみるわけでもなく、私たちはチョコやスナック菓子を肴にソフトドリンクを煽りながら、ひたすら車を走らせてバカ話を続けるだけだった。

 そうしていつも通りの私たちでいることが何より楽しかったし、あの頃の、どことなく歯車が狂い始めていた二人には必要な時間だったんだって、思えていた。


 特別なことない、ありふれた日常のひとコマがやけに脳裏にこびりついて残ってるって経験、誰しもがあるよね。

 あの日の出来事のひとつひとつが、今も私の記憶に生き生きと息づいている。

 思い返すだけでまたあの時間に戻れるんじゃないかってくらい鮮明に。


 まだらに紅葉した小山と、その奥から長く差し込むオレンジの夕日。

 気が付けばこんなにも日が短くなっていたねって。

 無性に切なくなる気持ちを吹き飛ばすように、私たちはずっと笑い続けていた。



『こっちのバーベキューソースも気に入った』

『ちょっと小ぶりだけど、その分ヘルシーってことよ』


 辺りが暗くなって、通りがかった知らない街で、私たちは小腹を満たすためにハンバーガー屋に寄った。

 普段よく行くのとはまた別のチェーン店。

 馴染みのない土地の不慣れな系列店に入るってだけで、ちょっとした冒険をしてる気分だった。


『ねえ、この先に心霊スポットがあるんだって。古いダム』


 厚めにカットされたフライドポテトを口に放り込みながら、名都は携帯で近辺の情報を漁っていた。


『ここで肝試しをして無事に帰れたら、そのカップルは未来永劫に結ばれる、だってさ』

『行きたいの? 私たちが結ばれてどーすんのよ』


 シェイクに突き刺さった太めのストローを咥えながら、私はガタガタと揺れるチープなテーブルの下で名都の脚を軽くつついた。


『冗談言わないでよ。虚しくなるでしょ』

『じゃあ何しにダムへ登るの。私たちが幽霊役でもやろうって?』

『そのまさか』


 名都はニタリと笑う。


『こんな都市伝説を信じてノコノコやってきたバカップルの間抜けヅラ、拝んでみたくない?』


 本当に、私たちは可愛くなかった。




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