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古臭いディスコミュージック


 ◇



 3日続く学園祭初日の朝。

 お祭りの始まりを告げる空砲花火の炸裂音が地域一帯の空に鳴り響く。


 事前に眞輔に言われたとおり、衣装ケースの奥から昔使っていたウインドブレーカーを引っ張り出して羽織った私。

 その下には防寒として冬用の厚手のトレーナーを着込んで。


 向かいのアパートに向かうと、その駐輪場で既に眞輔が待っていた。

 実際のスクーターを前に扱い方の再確認を受ける。


「慣れるまで車線変更は厳禁です。右折したいときは無理せず一度バイクから降りて、横断歩道を押して渡った方がいい。キープレフトが基本ですよ」


 丁寧すぎるくらいに何度も言い聞かす。

 当然だ。無免許の人間にスクーターを貸し出そうっていうんだから。

 普通なら問答無用で断ってるって。


 それでも無理を聞き入れてくれたのは、今の私にとってわずかなあいだでもこの街から離れることが単なる気晴らし以上の意味を持つってこと、汲んでくれたからだろう。


「どこまで行くんです?」

「とりあえず、南の方」


 眞輔は呆れたように笑って、腹巻を一回り小さくしたような布を差し出した。

 ネックウォーマーっていうらしい。


「この時期の冷え込みは油断できないから。遅くても日没までにはこの辺りに戻ってください」

「眞輔は、今日は一日拳法部の出店?」


 彼は遠慮がちに頷いた。


「楽しんでね」

「お互いに」


 眞輔に見送られながら私はヨタヨタと発進する。


 天候はまずまず。

 澄んだ10月の空気と爽やかな日差しの中で、時速30キロにも満たない速度で進む小さな冒険が始まった。


 ……なんて颯然(さつぜん)とした気分も早々に急降下。

 本当に、ひどい目に遭った。


 片側3車線の大通りをいくつもの鉄の塊が怒涛の勢いで滑り抜けていく。

 暗黙の速度が支配するレールの上で、ド素人の駆るウスノロバイクの浮くこと浮くこと。


 私はガチガチに突っ張った腕でなんとか舵を取りつつ、正面とサイドミラーを交互に見るため、狂ったメトロノームのようにエンドレスで首を振り続ける。

 これじゃとても敵わないと、見つけたファミレスに脱兎のごとく逃げ込んだのだった。


 洗礼を浴びるって、こういうこと。

 交通カーストの中で原付のヒエラルキーの低さというのを嫌ほど思い知らされた。


 首と肩の凝りがひどくて、まだ大学から5キロと離れてないのにもはや満身創痍だ。

 だからってアパートに引き返すのも格好が付かないし。

 で、ダラダラと携帯を弄りながら時間が過ぎるのを待つ。


 はあ、ダサすぎて泣けてくる。

 学園祭という青春イベントを満喫している学友たちと同じ時間軸にいながら、この惨めさったらない。


 ようやく重い腰を上げたのは、昼時を過ぎて店内の混雑ピークが収まった頃だった。

 意を決して停めていた原付の座席を開け、格納していたヘルメットを取り出す。

 そのときに、ふと下敷きになって使い古された音楽プレーヤーがあるのを見つけた。


 ……眞輔のだよね。

 アイツってどんな曲を聴くんだろう。

 無断借用は気が引けたけど、好奇心には勝てない。


 再生してみると、流れ出したのは古臭い洋楽のディスコミュージック。

 時代遅れ甚だしい70時代の懐メロだ。

 耳に飛び込む想定外の軽快なリズムに思わず吹き出してしまったけど、飛びぬけて陽気な音律になんだか胸が弾んできた。


 イヤフォンのコードを隠すようにネックウォーマーをまとって、曲を流したままで原付を発進させる。

 違反なんだろうけど、そもそも無免許運転かましてる時点で大したオプションじゃないでしょ。




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