本当に馬鹿じゃないの
回想で無心になっているうちにそうめんを平らげ、シャワーを浴びて髪を乾かすところまでが終わっていた。
悲しいかな、このルーティーンを完全な自動運転でこなせるまでに私の日々は真新しさというものを失っていた。
ドライヤーを片手になんとなしに鏡の中の顔を眺めて、不思議と寂しさを感じないと思った。
人と接さない孤独な暮らしなんて春休みの頃には覚悟していたことだったと思い出す。
玄関のベルが鳴る。
どうせ宅配だろうと油断した私。
インターホンの画面を確認するために洗面所から居間に戻る手間を惜しんでそのままドアを開けてしまった。
扉の前に立っていたのは、眞輔。
「なんですか。化け物でも見るような目」
まさにそんな顔をしていたかもしれない。
「な、なによ……」
「なにって、ここ最近まったく携帯に反応しないから」
携帯なんか見なくたって、君と会わなくたって、私は生きていけますから。
「あの日先輩、帰り道で巽と会ったらしいね。なんか様子がおかしかったからフォロー入れとけって言われたんです」
巽が?
あんな奴、心配してくれなんて頼んだ覚えもない。
「でもこの1週間、ゴタゴタしてて。遅くなりました」
「何があったってのよ、この1週間」
この際だから全部聞いてやろうって、私は腹を決めた。
眞輔曰くあの晩、私がコンビニに買い出しに出た直後に部屋ですっ転んで、ビールを頭から被ってしまったらしい。
とっさにシャツを脱いで、大笑いする茉以に許可を取ってシャワーを借りた。
でも着替えがないことに気付いて、どうしたものかと考え込んだ末に再び濡れたシャツに袖を通したんだという。
居間に戻ると茉以は眠りこけていて、戻っているはずの私が見当たらない。
今日はもうお開きでいいだろうと、玄関を施錠して鍵をドアポストに放り込み、そのまま夜の街へ私を探しに出たんだそうだ。
湯上がりに濡れた体で当てもなく街中を徘徊していると偶然巽の車を見かけたらしい。
『何があったか知らないけど、今日の内はそっとしとけ。機嫌激ワルだったから』
忠告を受け取ったはいいけど、その日の無理がたたって翌朝から38度越えの熱。
メールは打てても身体はまるで動かない。
「頑丈な方なんだけど、今回はちょっと長引きましたね。部活の夏練、まるまる欠席ですよ。主将に合わせる顔がないな」
私は呆れかえってしまった。
眞輔の間抜けさに。
茉以の間抜けさに。
2人とも、本当に馬鹿じゃないの。
そして自分自身の間抜けさにも。
あれだけ心掻き乱された出来事、すべてがつまらない妄想の取り越し苦労だったって。
眞輔はおそるおそる私に訊いた。
「先輩、怒ってる? よくわかんないけど、なんか言うこと聞きますから、できれば笑ってもらえません?」
眞輔のこと、急にいじらしく思えた。
全部笑い話にしてしまってもよかったんだけど。
せっかくの申し出を使わない手はないかなって悪戯心が湧く。
「言うこと聞くって?」
「できる範囲でね」
前々から密かに試してみたいと思っていたワガママ。
「君の原付に乗ってみたい」




