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双星の継承者  作者: まさな
■第一章 未開惑星の漂流者 ― Drifters of the Uncharted Planet ―
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●第六話 救出

 それから二時間ほど歩き続けていると、クロが反応した。


「生命反応が二つ。近いけど、これはボクらを狙っているわけじゃないかも。小さいサイズを大きい二メートル級が追いかけているよ」


「俺たちに関係ないなら、無視でいいぞ」

「そうね。でも、小さいサイズはさっきの、ええと」

「面倒だからあの緑色の肌のヤツはゴブリンと命名しよう。コードネームとして、以後、ゴブリンだ」


 軍人として違和感のない行動である。決して、自分の行動をあとから正当化しようなどと考えたものではない。


「ゴブリンね。まぁいいけど。そのゴブリンなわけ? クロちゃん」

「違うね。もっと大きい個体だよ。まぁ、あの個体が成人だったのか、成長途中だったのかは、もう少し慎重に別の個体のデータも集めたいところではあるんだけど、大人で間違いないと思うよ。つまり、今、追われているほうはゴブリンじゃない。身長からして、人間の女性か子どもじゃないかな」

 それを聞いて、俺もクローディアも顔を見合わせる。

 もし、人間の女性や子どもだとしたら、たとえ未開惑星であっても、民間人として保護すべきだろう。

 さらに、俺たちの行動を決定づける音がした。


 キィンという金属音。


「間違いない、今のは文明の音だ!」


 上手くすれば、通信設備がこの星にもあるのかもしれない。もっとも、クロがそれに関しては沈黙を守り続けている以上、ほとんど望みはないのだけれど。


「行きましょう。今度は私が先頭に立つわ」

「いや、クローディアは、支援だけでいい」

「ちょっと。どうしてよ。私は格闘評価Sで、あなたよりずっと上なんだけど?」

「今はそれは関係ない。というか、おそらくこの惑星なら俺でも格闘で楽に勝利できるさ。それより、保護条約違反の可能性があるなら、君を巻き込みたくないんだ」

「ハルト……いいえ、気遣いは無用よ。行きましょう」

「わかった」


 金属音のした方向に向かうと、大きなクマが人間の武装した少女と戦っていた。と言っても、少女の武装は剣と鎧の実に原始的なものだ。脇腹が血で赤く染まっており、今も出血が酷い。重傷だ。


「きゃっ」

 クマの一撃を剣でいなそうとした少女だったが、力の差は歴然としており、体勢を崩してその場に転んでしまう。クマは容赦なくそこに向かって飛びかかろうとしていた。


「クロ、指向性のホロフラッシュだ!」

「了解!」


 クロがクマに向かって強烈な閃光を浴びせた。


「GAHAAAAAA!」


 さらにハンドガンでクマの心臓を狙う。戦闘スーツが自動で照準を補正してくれ、一撃で心臓を打ち抜く。さらに、駆けつけたクローディアがクマを蹴り飛ばし、クマの突進の方向を変えた。

 今のは実に良い連携だった。


「早く止血を」


 俺とクローディアはウエストポーチから救急キットを取り出し、俺はiPS細胞芽、クローディアは止血・消毒スプレーを取り出す。


「消毒が先よ」

「ああ」


 クローディアがスプレーを吹きかけると、泡で傷口が見えづらくなった。


「クロ、ホロでガイドしてくれ」

「ここだね。内臓までやられちゃっているから、これはちょっと助からないかも」


 だからといって、フィルムを剥がしたiPS細胞芽を使わないなんてことはできない。迷いは一瞬もなかった。少女には悪いが、しっかりと傷口の奥まで押し込む。痛みで悲鳴が上がるかと思ったが、すでに気を失ったらしく、少女に反応はない。


「クロ、あとはどうすればいい?」

「もうボクらにできることは何もないよ。あとは彼女の生命力と運次第さ」


 脂汗を額に浮かべた少女は青白い顔で、明らかに出血性ショックを起こしている。


「いや、何かあるだろう!」


 いらだって問い詰めると、クローディアが俺の手を握って、首を横に振った。


「落ち着いて、ハルト。今はクロちゃんを信じて待ちましょう」

「……わかった」


 他に何もできないので、倒れている彼女を観察する。輝くような金髪に整った美形の顔。年齢は高校生くらいだろうか? 正直、女性の年齢を当てるのは苦手なので、判断は保留とする。ほのかに青白く光る不思議な鎧を身につけており、その鎧には驚くほど精緻(せいち)な装飾が施されていた。


「クロ、この鎧、ここに文字が彫ってあるようだが」

「そうだね。だけど、ボクのデータベースには該当する文字がない。やっぱりここは未登録の未開惑星だね。時代は大航海時代の直前ってところかな」

「そうだとすると、宇宙船や通信設備は絶望的ね」


 クローディアが小さく苦笑しながら言う。それほど落ち込んでいるように見えないのは、最初から期待していなかったせいだろう。

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