●第二話 緑の惑星
見上げたまま、二人とも目の前の光景に息を呑んだ。ハッチを開いて小型艇の外に出た俺とクローディアだったが、しばらく豊かな自然の緑に圧倒されていた。もちろん、銀河同盟にだって自然や国立公園くらいはある。子どもの頃に、両親に連れていってもらった記憶があった。だがそれきり、自然というものを忘れていた気がする。クローディアも士官学校時代から寮生活で勉強に打ち込み、そこから艦隊付きの軍隊生活だ。なので俺と似たり寄ったりだろう。
「綺麗……! 私、森の景色が綺麗だなんて、生まれて初めて思ったわ」
クローディアが感嘆したように言う。
「俺も。しかし、ずいぶんと大きな木だなぁ」
俺の知っている木はもっと真っ直ぐだったが、目の前の木は左右にうねり、根は大地を押し割るほどに逞しかった。ざあっと、静かな風が木々の枝葉を撫でると、緑のグラデーションの間から木漏れ日が宝石のようにこぼれ揺らめく。このまま眺めていると、森に吸い込まれそうだ。
「クロ、あれは高さ何メートルあるか、計測してくれ」
「平均十三メートル。だいたい三階建てくらいの建物の高さだね。樹齢は種類にもよるけど、あっちのオークの木が200年くらいで、こっちのブナは600年くらいだね」
「600年! ってことは、ここは人の手が入っていない森のようだな」
「……それは良くない傾向ね。私たちは一刻も早く首都惑星アーシアに戻って任務を続行しなければならないわ。ネクサスの大規模拠点の破壊に成功したと言っても、あのブラックホールが彼らの兵器だったら、人類は厳しいことになる」
「まぁ、そうだが、本当にあれは彼らが意図的に操作して作り出したものなんだろうか」
俺はその点を疑問に思い始めていた。
「違うっていうの? あのタイミングで出現したミニブラックホールよ?」
「でも、さすがに技術的にかなり難しいし、あんなものが出せるなら、わざわざ自分の生産拠点の近くじゃなくて、最初からアーシアを狙っても良さそうなものじゃないか?」
「……一理あるわね。でも、違うとも断言できないし、そうだとも断言できない。ハッキリしない以上、私たちは戻った方が良いと思う」
「そこは反対しない。でも、実際問題として、宇宙に戻る手段は、今のところ俺たちにはないだろ?」
「ふぅ、そうね。まずはこの惑星がどういう場所なのか、調査しないと。クロちゃん、あなたのデータベースには載っていない星なのね?」
「うん。空に青と赤の月が観測できるんだけど、この大きさの惑星で重力がピッタリなところがないんだよねぇ。ちなみに大気組成は窒素78.08%、酸素20.95%、アルゴン0.9%、二酸化炭素0.028%、そのほか微量元素が微量に。あと、未知の組成が0.03%ほど存在しちゃってるね。科学の大発見さ。ハルト、君が名付け親になれると思うよ」
「いやいや、やめとこう。そこで名前なんて付けてみろ、あとで副艦長から何を言われるか」
想像しただけで俺は震えてしまった。
「ああ、絶対に、詰められるわね。真顔で三日間くらい。じゃ、報告書だけにして、名付け親はやめておきましょう。クロちゃん、レポートをまとめておいてくれる?」
「アイマム。ま、もう作成してあるんだけどね」
「へぇ、賢いわね。電波や通信はどうなの?」
「今のところすべてのチャンネルで沈黙だね。定期的にスキャンしているから、何かあればちゃんとボクのほうから教えてあげるよ」
「通信ゼロって、はぁ、文明ゼロの未開惑星かぁ。ますます絶望的だなぁ。くそう、こんなことならアニメをクロのデータベースに録画しておくんだった!」
俺は頭を抱えて嘆く。アニメ成分が摂取できないと生きていける気がしない。
「そう悲観的にならなくても、捜索隊が拾ってくれればなんとかなるわよ。そうだ、ビーコンを発信しましょう!」
「待った、クローディア。ネクサス側に察知されたらまずい」
「でも、暗号化していれば……うーん」
彼女も迷ったように、暗号化したからといって信号が見えなくなるわけではない。解読できないだけで、発信源は簡単に突き止められるのだ。
「ボクもそれは賛成しかねるね。それに、言っちゃあなんだけど、別にクローディア中尉が戻らなくたって、銀河同盟軍の戦力はさほど、んーん、ハッキリ言って全然変わらないと思うよ。あまり結論を急ぎすぎない方が良いと思うな」
「ええ? 私はそこまで自分が無能で役立たずだとは思わないわ。もちろん、戦局を変えられるとまでうぬぼれているわけではないけれど……」
「ま、戻るにしても、今は方法が見つからない。ビーコンを打つにしても、脱出艇の修理と再起動が必要だから。それより、俺たちにはもっと深刻な問題があるんだ。時間制限付きのね」
俺は言う。
「それは?」




