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双星の継承者  作者: まさな
■第三章 流浪の王女 ― The Currency of Trust ―
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●第二話 辺境の街バール

 日がちょうど中天にさしかかった頃、道行く先に、背丈ほどの石壁に囲まれた小さな街が見えた。

 白く乾いた石が陽光を受けて鈍く光り、ほとりの川では女たちが洗濯桶を並べてのどかに笑いながら話し込んでいる。


「良かった。無事バールに到着できましたね。これもルミエル様と皆さんのおかげです」


 フィーナが少しほっとした笑顔を見せる。


「俺たちは何もしてないよ。ただ、ムーンベアのような魔物が出る地域にしては、少し不用心じゃないか?」


 ムーンベアの俊敏さとパワーは、民間人にとって明らかな脅威レベルだったので、俺は心配になった。


「いいえ、大丈夫です。ムーンベアは森にはよく出没しますが、平原には滅多に出てきません。ここから王都まではさほど危険な魔物は出てきませんよ」


 ここに来る途中、スライムという、ぷるぷる動く透明なゼリー状の魔物にも出くわしているのだが、フィーナが自分の剣であっさりと倒した。

 全長一メートルほどもあるそれは見た目にも気味が悪く、クロが「遺伝子解析したい!」と言い出したが、俺は非接触による光学スキャンだけにしろと厳命した。

 メディカルポッドが使えない今、未知のウイルスに感染したら洒落にならない。クローディアもドン引きしていた。


「ならいいんだが……」


「それよりも、今のうちにその『戦闘スーツ』をお二人とも着替えてください。この田舎街では目立ちすぎます」


「おっと、そうだった」

「うん、それじゃ、ハルト、あっち向いててね」


「大丈夫さ、ボクがバッチリ、ハルトを見張ってるよ! 覗き見しようとしたら指向性ホロフラッシュだ!」


「しねえっての」


「どうでしょうね」「不安だわ」


 ……なんなんだこの信用のなさは。


 戦闘スーツをバックパックに収め、代わりに村長から借りた服を着る。


「これでいいかな?」


 着こなしは村人を真似ているが、あまり自信はない。


「はい、問題ありません。お二人とも、とってもよくお似合いですよ」


 良さそうだ。フィーナは顔を隠すため、フード付きのマントを羽織った。

 街の門に向かうと、門番をしている兵士が横柄な態度で呼び止めた。


「お前達、よそ者だな。入関税は一人小銀貨一枚だ」


「待ってください。私たちは商人ではありませんよ?」


「それがどうした。ここバールの街では誰であろうと、よそ者は小銀貨一枚を払う決まりだ」


「そんな……お父様が貧しい者への重税は禁じていたというのに」


 フィーナが眉をひそめてつぶやく。


「何をごちゃごちゃ言ってる。払わないなら、ここは通さんぞ」


「いえ、払います。三人分、これでいいですね?」


「よし、最初からそうやって素直に払えば良いんだよ。通って良し」


 街中は木の骨組みに石壁を組み合わせた造りの建物が多く並んでいる。だが、道は剥き出しの土で舗装すらされていない。電線や街灯の類いは見えないので、やはり、ここの文明水準は大航海時代より前の時代なのだろう。魔法という未知のテクノロジーがあるので、あまり油断はできないが。

 あとは衛生面がちょっと心配だな。


「では、いったん宿を取って荷物を置き、冒険者ギルドに行ってみましょう」


 フィーナが提案する。


「冒険者ギルド? この世界の――オホン、この大陸の情報屋みたいなところかな?」


「ええ、情報もありますが、冒険者の登録カードがあれば、入関税がたいてい免除になるんですよ。身分証としての役割も果たしますし、武具の購入もそれが必要なので、登録しておいたほうがいいでしょう」


「へえ」


「待って。フィーナ、その冒険者という職業は、何か義務が生じるのでは?」


 クローディアが確認する。


「そうですね……緊急時には強制クエストへの参加が義務づけられると聞いたことがありますが、十数年に一度、『スタンピード』が発生したときぐらいですから。それほど心配はいらないと思います」


「「『スタンピード?』」」


「ええ、魔物が大発生して、街を襲ったりすることをこちらでは『スタンピード』と呼ぶのです」


「ちなみに、イソギンチャクが大量発生したりなんてことは……?」


「イソギンチャク? どんな魔物ですか?」


「どう見ても地球外生物って感じの、おぞましい奇っ怪な姿をした魔物だよ」


「ええと……」


「頭にたくさんの触手があって、赤色なの」


「そうですか、この地方ではそういう話は聞きませんね」


 『ネクサス』がここにはいないようで安心した。


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