●第七話 祈りの果てに
制圧は数分とかからなかった。
隣村――名前はタール村だそうだが――の男衆三十数人は武装こそしていたものの、全員痩せこけており、満足に動ける状態ではなかったからだ。
だが戦いの跡は、生々しかった。
焦げた草の匂いと血の鉄臭さが、冷えた空気にそのまま漂ったままだ。倒れた男たちの近くには、刃こぼれした鎌や錆びた鍬が落ちていた。本来は武器ではなく農作業に使われるもので、俺には、これが生への執着の証のように見えてしまった。
ヴィント村の村人に協力してもらい、タール村の人間を全員縛り上げた。
「ハルト、負傷者の手当は済ませたわ。重傷者が四名。うちヴィント村の人間が二人、タール村が二人よ。この人たちはiPS細胞芽を使わないと助からないと思うけど……どうする?」
残るiPS細胞芽は五つ。この惑星Xで再入手はできないから、ここで使ってしまうと残り一つだけとなってしまう。
「私の意見を言わせてもらえば、タール村の人間に使う必要なんて無いわ」
確かに俺も心情的に、同感だ。
「全員、使うべきではないよ、ハルト」
「なぜだ、クロ」
俺は少しいらだって聞く。
「iPS細胞芽は銀河同盟の標準装備ではあるけれど、こちらの科学技術の差や、入手難易度を考えれば、自明じゃないか。機密情報扱いとして、村人達にその効果を見せない方が良い。トラブルに発展する可能性が87%もあるよ」
「クローディア、二つだけ使ってくれ。こっそりな」
「ええ、わかった。それから死者数だけど、合計十二名。ヴィント村が四名、タール村が八名よ」
「わかった。あとは村長に任せよう。村長はどこだ?」
あのかくしゃくとした老婆がやけに静かだなと思いながら探す。
「そのことだけど……村長も亡くなったわ」
「ええ?」
「あそこよ」
すでに村人達が村の端っこで墓を掘っており、手前に並べられた遺体の一つに、村長がいた。村の重要人物で間違いないから、念のため、iPS細胞芽が使えないかと、俺は確認しにいく。
遺体の一つに、まだ幼い子どもが交じっているのが視界に入り、俺は足が止まってしまった。
「ババ様、死んじゃったの?」
村長の側に屈んでいた女の子が振り向いて聞く。その純朴な瞳に見つめられ、思った以上に動揺した。耐えきれずに、俺は目をそらす。
「! ……すまない」
「アンタのせいじゃねえべ。凶作が悪いんだべ」
穴を掘っていた村人が言う。
「クロ、治療可能か?」
「残念ながら、無理だよ。バイタルサインが完全に停止してる。君も分かっているだろうけど、iPS細胞芽は万能じゃないんだ。個体の生命力にも効果が大きく左右されるし、ある程度の時間がかかってしまうから、心臓の再生は困難だ。一度失われてしまった命は、ボクらの科学技術をもってしても取り返せない」
治療が成功したフィーナは運が良かったようだ。
俺ができることは、村長に土をかけてやることだけ。
「では、死者への祈りを捧げましょう。――万象を統べる光の御子ルミエルよ。仮初めの肉体より解き放たれしこの者らの魂が、滅びの闇を越え、再び星の巡りに還るとき、永劫の光庭に導かれんことを。アイ・オーン」
「「「アイ・オーン」」」
同時にフィーナの体が輝きはじめたので驚いたが、それは朝靄と差し込んだ朝日によるものだった。
光景の中、俺は悟った。
今、目の前にある命は、決して仮初めや仮想のものではない。
そこにしか存在しない一度きりで、唯一無二のもの。
だからこそ、何が大切で、どう選ぶかは、他人の言葉なんかじゃなく、自ら踏み込んで決めなければならないのだということを。




