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双星の継承者  作者: まさな
■序章 事象地平線の奇襲 ― Operation Horizon Strike ―
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●第一話 戦闘開始

 艦内の照明が赤に切り替わった。


「ワープエネルギー充填率、98%、99、100、完了しました! これよりワープドライブ始動フェイズに入ります」


 報告が響くと同時に、ブリッジの空気が一瞬で張り詰めた。

 艦の床下から低く唸るような振動が伝わってくる。窓の外は星が無数の軌跡を描いて細長く加速し――やがてあらゆるものが青白い光で飽和した。


「亜空間への位相を確認。すべて正常です」

「よし、次は通常空間へのワープと同時に全艦、重力制御を遮断し、慣性姿勢を維持せよ」

「了解。マザーボルバ、航行データを最終補正中」


 コンソールと自分の手のひらがぼんやりと()()()、二重に見える。亜空間へ突入した影響だ。


「補正完了。各艦、位相同期率99.87%、まもなく通常空間へ出ます」

「……転移完了!」


 世界が暗転し、にじみが直った。だが、重力制御を切っているせいか、重力酔いが酷い。視界がぐるぐるして、頭痛と吐き気がする。


「重力圧、上昇中。外殻にきっ、亀裂――いえ、耐久限界内です!」


 クローディアの声がかすかに震えていた。ブラックホールの引力が、艦体を引きずり込もうとする。もともと無茶な作戦だ。


「スラスター制御をマニュアルに切り替えて個別に対応しろ。各艦、そのまま地平線上で姿勢を維持!」


「了解、姿勢を維持します」


 次の瞬間、虚空の闇に無数の赤い点が浮かび上がった。

 それは、まるで機械化された要塞の群れだ。惑星規模の構造物が、蜂の巣のように規則的なエネルギーラインをびっしりと張り巡らせている。


「……これが、ネクサスの生産拠点……!」

「なんてデカさだ……」


 ブリッジの乗員が息を呑む。


「ミサイルハッチ開放、照準急げ」

「了解、ハッチ開放、目標ロック開始。マザーボルバ稼働率100%、全目標捕捉まであと十二秒」


 頼むぞ……


 急いでくれ。


「て、敵艦反応多数! 距離、二千! こちらの座標を察知されたようです」

「迎撃態勢」

「迎撃態勢に入ります!」

「しかし、早すぎます……それにこの数。艦長、まさか連中、待ち伏せを?」


 副艦長が緊迫した顔で艦長を見る。


「わからん。だが、前衛艦、レーザーで対応せよ。近いものに火線を集中して出鼻を叩け。時間を稼ぐだけで良い。同時に重力場に乗せて全艦旋回、防御は無用。巣の中心部だけを集中して狙え! このまま敵の本丸に突っ込むぞ」


「了解、ヴァルキリー艦隊、旋回して全速前進します!」

「目標照準ロックすべて完了しました」


「撃て!」

「ミサイル、第一波発射!」


 艦首から閃光が一斉に飛び出す。大量のミサイルが引力の渦を滑りながら、敵の要塞を目指して連なる弧を描いた。


「命中確認――て、敵防御層が分厚い! 想定の破壊率を下回っています!」

「構うな、第二波いけ!」


 連続して放たれた閃光が、事象の地平線すれすれを照らし出す。その光の向こうで、敵の巨大な赤い影が、ゆっくりとこちらに顔を振り向けたように見えた。それは、おびただしい量の生体兵器の群れだった。


「くそっ、ハイドラ級に取り付かれた。こちら護衛艦『ワルキューレ』敵が艦内に侵入しようとしている。救援頼む! ひっ、嫌だ、来るなぁあああ!」


 巨大な赤いイソギンチャクがすぐ隣の艦にくっつき、ウネウネとおぞましい触手を巻き付けているのが見える。不運な通信オペレーターの骨が砕ける音も聞こえてしまい、身の毛がよだつ。


「艦長、『ワルキューレ』が救援を求めていますが……」

「進路そのまま。対空砲火のみで対応しろ。以降、ワルキューレとの通信は遮断しておけ」

「りょ、了解、進路このまま維持します」


「ミサイル直撃多数! マザーボルバによる敵防御層の構造解析結果が出ました。コアはやはり中央です。本隊の攻撃も命中を確認。あっ、コアが、敵のコアが崩壊を始めています!」


 蜂の巣に巨大な亀裂が入り、半分がゆっくりとブラックホールに飲み込まれていく。


「おお」

「よし、全艦、追撃体勢だ! 残りを叩く」

「行ける……行けるぞ!」


 歓声がブリッジに上がる。敵の要塞が赤い光を撒き散らしながら、徐々に崩れていく。


「敵主砲沈黙、周辺の敵護衛艦も半数が沈黙状態!」

「前方の航路も確保できました。このまま押し切れます!」


 クローディアの声に、胸の奥が熱くなった。


 勝てる。


「マザーボルバによる作戦成功率が更新されました! 成功確率99.99%!」


 その言葉にブリッジの誰もが息を呑んだ。皆が高揚した顔を見合わせ、歓喜の気配が一斉に広がる。


「やった……! ハルト、これ、本当に……!」

「ええ、これで人類は――」


 助かった。そう俺が言おうとしたそのとき、巣の中心に黒い点が生じたのが見えた。



 何だ? あれは?



 見間違いかと思って瞬いてもう一度見るが、点はある。むしろ広がった?

 突如、艦内の明かりが赤に変わり、警告音が鳴り響いた。


「じゅっ、重力震! 距離100に、質量……こ、これは……」

「だいたいで良い、艦隊規模を言え」

「艦隊規模、不明――いえ、無限大! 特異点と思われます!」

「なに? 馬鹿な……連中、ブラックホールを扱えるというのか!」


「総員、衝撃に備えよ。回避行動!」


 衝撃のあまり、指示を忘れた艦長の代わりに、副艦長が指示した。


「ま、間に合いません! すでにブラックホールの重力圏内です!」

「か、艦長」


「重力制御最大! 武装とモジュールはすべて切り離し、艦を軽くしろ。総員、脱出の準備を」


 艦長はそう命じたあと、立ち上がった。


「……諸君、本作戦の目的は達成した。よくやった。これをもってヴァルキリー艦隊旗艦ブリュンヒルデの任務は完了とする。私からは以上だ。アーシアで会おう」


「はっ。総員ただちに脱出せよ!」


「ったく、最後の最後で滅茶苦茶になりやがったな。連中、生産拠点ごと自爆するつもりか?」


 ライアン中佐が頭を振り振り言う。おそらくはそうなのだろう。彼らは一片でも個体が残れば増殖できる。だとすれば……無理だ、人類にアレを倒すすべはない。


「おい、ハルト! ぼさっとするな、艦長の命令は脱出だぞ」

「ハッ! そ、そうでした」


 我に返って、俺は近場の脱出艇へ向かおうとする。

 だが、コンソールに座ったままのクローディアが見えた。


「ちょっと、クローディア先輩、なにやってるんですか、早く脱出しましょう。今ならまだ重力圏を抜けられるかもしれません」


「ダメよ。私は重力制御をやらないと」

「おいおい、そんなもん、AIにやらせておけばいいだろうが」

「それが中佐、二つのブラックホールで重力場が不安定になっていて、マザーボルバの計算結果が出ません」

「ははぁ、例の砂時計か。はっ、これだから機械は。よし、ならここはオレに任せておけ」

「ですが、それではライアン中佐が」

「ソフィア・クローディア中尉、上官の命令だぞ。口答えはするな。なに、心配せんでも頃合いを見てオレも逃げるさ」

「わかりました。でもそれなら私が」

「ったく。ハルト、こいつを拘束して連れて行け。上官への反抗と服務規程違反だ。中尉の権限を一時的に剥奪する。よろしいですかな、艦長」

「承認しよう。連れて行きたまえ」

「はっ!」

「横暴です! 私は最善と思える処置を――」

「はいはい、それは査問委員会で言ってくださいね、先輩」


「ハルト、コイツを持っていけ」


 ライアン中佐が小さな酒瓶を投げてきた。慌ててキャッチ。


「お前に預けておく。途中で飲んだりするなよ、そいつぁ帰還したときの祝い酒だ」

「了解!」


 俺はクローディアを引っ張るようにしながら脱出艇へと急いだ。

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