●第五話 星神の巫女
「これは未知の物質だよ! しかも、物理的存在というより、空間の折り目に近い。間違いない、人工物だ」
「どれ」
拾ってみるが、不思議な白い光沢があるだけで、それだけだ。
金属ではなさそうだが、いや、温度変化がない? そんな馬鹿な。
「貸して」
クローディアも触って、すぐに気づいた。
「これ、熱を蓄積しないのね」
「うん。常識を変える断熱材だ。これを宇宙船の外郭に使えば、大気圏脱出も夢じゃないし、ワープドライブ装置だって作れるかも!」
「なに!?」「なんですって!?」
二人で顔を見合わせる。クローディアの瞳が、頬が、紅潮していた。
それは、永劫に閉ざされていた航路に初めて座標が灯る瞬間だった。
「村長、これはいったいどこで手に入れたんですか?」
すぐに村長の家に戻って俺たちは問い詰めたが。
「ワシは先代の村長から受け継いだだけじゃ。この村に古くから伝わる星神の巫女の証としてな」
「これは、他にはないのですか?」
「この村にあるのは一つだけじゃ。他の村にはなかったのぅ」
「ちなみに……これ、売ってくれたりは……」
「ならん! これはこの村のお守り、村人のよりどころじゃ。もぉええ、そんな風に見るのであれば、危なくてお前達には任せられん。ワシからフィーナ様に直接頼むわい」
老婆とは思えぬ素早さでつかみあげると、村長は家を出て行ってしまった。
「ミスった……。話の持って行き方を間違えた。すまん……」
「でも、仕方ないわ。村にとっては大事なものみたいだし。交渉では無理でしょうね」
「さすがに、殺してでも奪い取る! なんてできないしねぇ」
クロが笑えない冗談を言うのでにらみつけてから、俺は新しい考えを口にした。
「だが、この星に、同じ素材があるかもしれないし、ひょっとしたら、俺たちが知らないだけで、ここ文明惑星じゃないのか?」
「ハルト……気持ちはわかるよ? でもね、通信が一切ないんだ。まだ初期の電気や無線だって使えない中世レベルの星。それは間違いないよ」
「でも、別の大陸……いや、そうだな」
言いかけて、自分でもそれが成り立たないことはすぐに気づいた。
大陸を横断できるくらいの無線や通信が確立できない文明など、FTL文明ではありえないのだ。
「でも希望はあるわ。アレと同じ材質のものを探しましょう。他にも、ロストテクノロジーとして、超古代文明の遺跡があるのかも」
「ああ! なるほど、超古代文明か! それなら、今は通信が死んでても、つじつまは合うな!」
「うーん、まぁ、否定はしないよ。でも、あの材質は興味深い。他にも、魔法なんてものまでこの星にはあるし、アーシア観測隊としてはやることだらけだね!」
「ふふ、そうだな」
「ええ、そうよ」
昨日はちょっと暗い気持ちになっていたというのに、俄然やる気が湧いてきた。
「となれば、もっと大きな街に移動して、情報を集めた方がいいな」
「賛成。店で売っていたりしないか、確認しないと」
「よし、クロ、この近くに人口密集地がないか、探してみてくれ」
「簡単に言ってくれるけど、ハルト、現代文明の密集地を探すのとはわけがちがうよ。とはいえ、赤外線と大気分析だけはやってみないとね。さすがにどちらも遠くは無理だけど」
赤外線サーモグラフィは、人体熱や炎を検知できるだろうし、大気分析はおそらく二酸化炭素濃度の微妙な変化だろう。オナラだとメタンもあるか。
「あれ?」
「見つけたか!」
「いや、近場にはなかったよ。ただ、さっき、村の入り口のすぐ近くまで来た人間が、また離れていったんだ」
「そりゃ、お祭りの準備で忙しいんだし、狩りに出て肉を集める役割の人だっているだろ。クロ、そんなのじゃなくて、街だ、街!」
「ハイハイ。じゃ、ボクは全方位スキャンで遠くを探すから、ハルトとクローディアは、村人に街の情報でも聞いて回ったら? こうして熱烈な視線を浴びまくるヒーロースターも悪くはないけど、効率悪すぎだと思うんだ」
「そうだな」「ええ、わかった」
◇
「人が多い街? そりゃあ王都に決まってるべ」
「おお、王都はどこに?」
「ここから南に十日ほど行ったところだべ。そんなことよりちょっと巫女が立つ星壇を作るのを手伝うだよ」
「はぁ。じゃ、この木をここに運べばいいんですね? よっこらせっと」
「おおお!? なんちゅう力持ちじゃ、たまげたべ」
「兄ちゃん、力持ちだなぁ」
「お兄ちゃん、すごーい」
「まぁ、チート持ちなんで」
戦闘スーツの人工筋肉で増幅されてるし。ちなみに外骨格も自動調整されるので、重いものでも骨はへっちゃらだ。あと、スーツの無線を通して村人の言語はクロに自動翻訳させている。
「兄ちゃん、こっちも頼む。手伝ってくれ」
「はいはい。よっと」
「「「おおー」」」
村人達がいちいち驚いてくれるので、なんだかちょっと楽しくなってきた。
「そーれ、あらよっと! ほっ! はっ!」
周囲から口笛と拍手が鳴り響く中、星壇が完成に近づいていた。
思えば俺はこのとき、少し浮かれすぎていたのかもしれない。




