●第四話 星の欠片
翌朝、村長が服を渡してきた。
「これは?」
「今夜のお祭りの間はその服でも良いが、街に行くなら着替えた方がええじゃろう。おぬしらは気づいておらぬようじゃが、悪目立ちしすぎじゃ」
「いや、気づいてますよ」
黒ずくめの戦闘スーツだもんなぁ。中世とはデザインが違いすぎる。
「なら、なぜ着替えぬ」
「いろいろあったんですよ。無一文だし」
「王女の従者、いや、客人ともあろう者が情けないの」
「ほっといてください」
「じゃが、路銀ならフィーナ様が持っておるはずじゃ」
「そうですね。でも、彼女は……」
「このままこの村でひっそりと暮らして行くという手もあるじゃろう。じゃが、あの御方はアルディアの正統な血筋にして、最後の希望の光じゃ。簒奪者ルートヴィッヒは脳筋馬鹿での。アレは戦のことしか考えておらん。先代の賢王陛下が頑なに戦を避けた理由もわからぬようでは、早晩、国は乱れるじゃろう。ひょっとするとアルディアは地図から消えてしまうかもしれん」
「……」
村長の気持ちやフィーナの立場も理解できるが、俺は一介の兵士で、しかもよそ者にすぎない。どうにもできないことだ。
「その点、フィーナ様は賢く人望がおありじゃ。領主の中にも慕う御方は多いはず。客人よ、一度助けた命なら、見捨てることもあるまいて」
「はぁ」
「煮え切らんヤツじゃのう。若いもんなら、甲斐性を見せてみぃ、甲斐性を」
どうしろと。いや、村長がフィーナを助けてルートヴィッヒを倒して欲しいと願っているのは分かっている。あるいは、フィーナを連れてもっと良い場所に逃げれば村長も納得するのかも。
「オホン、村長、服はありがとうございます。これは代金です」
硬い表情のクローディアがやってきて、村長に銀貨を手渡そうとした。フィーナからもらったのだろう。
「いらぬ。そのボロ服は娘夫婦のもので、ワシには不要のものじゃ。持っていくがええ」
「ありがとうございます。でも、タダというわけには……」
「タダでええ。ワシが娘夫婦の形見を売るとでも思うたか?」
「いえ……」
「クローディア、ここはありがたくもらっておこうよ。どのみち、服は必要になる」
フィーナがここに留まり続けるとしても、俺たちはそうもいかない。『アーシア観測隊』だものな。
「では、お借りします」
「まぁ、ええじゃろう。貸してやる。それと、フィーナ様にこれを渡し、今夜の巫女をやってもらえぬか、お前さんたちから頼んでくれぬか」
クローディアに村長がペンダントのようなものを渡した。紐に付けてあるのは、何かの骨か石の欠片のようだが……
「これは?」
「星の欠片じゃ。フィーナ様ならご存じじゃ。さすがに、いくら村の者が望んだところで、王女に巫女をやれというのもぶしつけ過ぎるでな。断られたなら、おぬしがやってくれぬか。なあに、焚き火の前で星に祈りを捧げるだけでええ」
「こ、困ります。村の人でそういうことはやっていただかないと」
「じゃが、一番の美人か、一番の魔力の持ち手でなければ、星神様は納得なさらぬ。ましてや今年は降誕祭の満月とヴァルプルギスの夜の両方が重なる日。これは百年に一度の巡り合わせ、大祭じゃ。本来なら、その服を着るワシの娘が執り行う予定だったのじゃが、ううっ、ううーっ!」
「わっ、わかりました! フィーナさんには私から頼んでおきますから!」
「おおっ、引き受けてくれるか、それは重畳。ではよろしくたのんだぞえ、ふぉっふぉっふぉ」
コロッと態度を変える老婆は嘘泣きだった。さすが年の功か。俺もすっかり騙された。
「ええ……?」
「クローディア、嫌ならキッチリ断っていいぞ。このばあさん、わざと泣き落としを使ってくるくらいには面の皮が厚いんだから、断られてもへっちゃらさ」
「でも、村の人が期待してるって……ハルト、あなた、まだ外をあんまり見てないでしょう。凄い飾り付けよ」
「ええ?」
言われて、外に出てみると、家の軒先に色とりどりの卵を吊り下げたり、箒を逆さまに立てて、そこに花や羽根を付けたりと、派手にやっている。極めつけは村の中央広場で、焚き火というにはデカすぎるキャンプファイヤーの木材が組まれていた。その手前に台を作っているが、あれが巫女が立つ場所であろう。
「うゎ、気合い入ってるなぁ……」
「当然じゃ。ここまで三年も凶作続き、今年はなんとしても豊作になってもらわねば」
「「……」」
理由がわかるとさらに痛々しい。
何も言えず、うなずいてその場を離れた俺とクローディア。
「ねぇ、クローディア、クローディアってば。そのペンダントをスキャンさせて!」
クロが焦ったように言う。
「おい、クロ、村人の目があるんだから、あまり大きな声で話すな」
「それどころじゃないよ、それ、いいからさっさと見せて」
ぴょんっと跳んでクローディアから、カプッっと奪うクロ。
「あっ、返しなさい。それは大事なものよ」
「別に喰ったりしないっての」
そう言って地面へ吐き出し、スキャンの測定を始めてしまうが、端から見ると目から光線を出すトンデモ猫だ。俺は慌ててクロを服で隠した。
「やっぱり!」
「何がやっぱりなんだ、クロ。お前、人目を少しは気にしろよ」
ちっちゃい村の子どもが不思議そうにガン見してるし、ああもう。




