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つかの間の時間

 弁護士事務所から妻と娘と義両親で帰ってきたとき、改めて妻と義両親が床に土下座して謝ってくれた。こんなときの正しい対処ってなんだろう。


「やめてください」も違うし「もう終わったことですから」も違う。全てはこれからなのだから。


 3人の土下座に倣って娘も俺に土下座で頭を下げた。これで笑いが起きて空気が少し変わったと思う。子どもってやっぱりすごい。大人ができないことを平然とやってのける。


 義両親は「詳細はまた改めて」と言ってそそくさと家に帰った。家は妻と娘と俺の空間になってしまった。あからさまに「あとは本人たちで」ということだろう。家まで来たのは弁護士事務所を出たら急に俺の雰囲気が変わってしまわないか不安だったのかもしれない。


「あの……。コーヒー……飲みますか?」


 妻が遠慮がちに上目遣いで訊いた。俺は手紙に妻の料理はもう食べられないと書いて伝えていた。だから、遠慮がちなんだろう。


 いつの間にか昼はとっくに過ぎていた。


「あ、手は石鹸でちゃんと洗います。その上でビニールの手袋するし……インスタントにするから……」


 何を言い出したのか分からなかった。


「私が作ると気分良くないだろうけど……」


 ようやく分かった気がする。妻は自分が汚いものだと言っているんだろう。俺もかなりのことを言った。このままじゃ単なるいじめだ。俺は黙って妻の近くに行って、ゆっくり両手を広げた。妻は恐る恐る近づいてきたのでしっかりと肩を抱きしめた。


 また泣き出した妻を心配して娘も寄ってきた。俺も妻も少ししゃがんで娘の背の高さに合わせ、3人で抱き合ってしばらく泣いた。そこには加害者も被害者もいなかった。3人でお互いの関係を確かめあったのだった。


 ○●○


 翌日は3人で少し離れた大きな公園に行った。大きな芝生があって子どもも走り回れるような広場があるところ。


 ちなみに、昨晩は3人でファミレスに行った。妻の料理が食べられなかったのもあるけど、家の中に食材がほとんどなかったのだ。


 夜もベッドは一緒だったけど、「いたす」ことはできなかった。まだ完璧じゃない。それどころか、なんとかなるのかも分からない。


 公園に来て、太陽にあたって風に吹かれて。しばらくネカフェ生活だったから、外に出てなかった。これまでの昼間からネカフェでラーメンとビールの生活だったのが浄化していくみたいに感じた。


 アスレチックみたいな遊具で娘が遊び、俺も娘を追いかける。娘はクサリと木製の板でできた吊り橋の上も迷いなく走る。鉄の棒を見つけると、消防署員の出動のようにスルスルと滑って遊具から降りる。子どもは狭い穴にも入っていくけど、俺の身体では物理的に入らない穴もある。


 それでも飛んだり跳ねたりして遊んだらすぐにクタクタだった。娘には悪いけど、早めに引き上げて公園近くのスーパーで買い物をして帰ることにした。


 娘を中心に3人で手をつないでスーパーに行く。どこかの洗剤のCMみたいな一目見て分かる幸せ家族がそこにはあった。


 内情を見たら越えなくてはならない問題がいくつもあるけど、それは今じゃなくていい。


「花音、お昼は何が食べたい?」

「やきそばー」


 俺の問に即答する娘。なんの脈絡もなくて面白い。ただ、俺は焼きそばと聞いて広島のお好み焼きを思い出した。単にソースつながりだろうか。


 俺の常識では絶対に形にまとまらないと思った広島のお好み焼きも、店ではちゃんと形になってた。俺が想像する結果じゃなかったけど、きちんと食べ物として完成していた。


 我が家がまたちゃんと1つにまとまるかまだ俺には分からない。俺はそんなに心は広くない。妻が店長に抱かれたり、色々なことをされていたと思うだけで自分の胸を掻きむしりたくなる。壁に頭をガンガンぶつけたくなる。


 それでも、俺達は再構築を選んだ。また1つになるために。


 俺達は帰って妻の作った焼きそばを3人で食べた。もちろん、俺も食べた。吐き気なんかしなかった。


「うまい」って言って完食したら、妻が涙ぐんでた。娘も全部食べたって言って空になったアンパンマンのお皿を妻に見せる。俺と妻で娘の頭をなでた。


 大丈夫だ。俺達はまだやり直せる。

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