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俺の決断

 思わぬ新事実発覚と妻の不倫の理由を知って、俺は激しく動揺していた。同時にすごい頭痛にさいなまれていた。


 弁護士と別室に移ったタイミングで弁護士から再度打ち合わせをしたいと言われた。俺としても願ったり叶ったりだ。


「風間さん、奥さんかわいいですね」


 打ち合わせと言ってもビルの非常階段の踊り場で立ち話だった。


「ありがとうございます」


 これは返事として合ってるのか? もうすぐ離婚だぞ? でも、まだ妻か……。いいのか……。


「奥さん、風間さんのことをかなり好いてますね。なんか守ってあげたくなりますよねー」

「まあ……」


 この弁護士何を言いたいのか。踊り場の手すりに肘をついて遠くを眺める弁護士。ここは7階だから割と見晴らしもいい。


「弁護士の仕事って依頼人の最大利益を考えることなんですよ。多くの場合はお金です」

「はあ……」


 まあ、今回も最大限よくやってくれてる。


「風間さん……あの奥さんとやり直しませんか?」

「は……?」


 弁護士はくるりとこちらを向いて訊いた。俺からは間抜けな言葉しか出なかった。


「いやね、あの奥さんから慰謝料取ることはできますよ。ゴネても最悪裁判したら100パーセント勝てる自信があります。証拠だってそろってる」

「……はい」


 弁護士は手すりにお尻をあずけて自分の爪のささくれでも見ているみたいに手元を見つつ手遊びしながら話し続けた。こんな弁護士いないだろう。もしかしたら、「プライベートモード」なのか? ぶっちゃけトークのつもりなのかもしれない。とにかく俺の目を見ずに話し始めた。実は、これまで彼は俺の目をじっと見て話す人だった。俺は困っていたし、その視線は安心感があったのだ。


「でも、あの奥さんと再構築しませんか? 僕だったらあの奥さん手放さないですよ」

「……」


 まただ。妻はどこに行っても周囲の人間から好かれる。なにも頼まなくても勝手に周囲が彼女のために動いていく。


「でも、不倫ですよ? 店長とやりまくってたんですよ? もう……」

「店長は徹底的に潰しましょう。奥さんの画像とか動画もあるなら全部取り上げます。セックスライフはなんとも言えませんが、寝とられプレイだったと思うとか……。僕は個人的に寝とられ嫌いじゃないですよ?」


 こいつは何言ってんだ……。


「僕としては慰謝料もらった方が儲かりますけど、風間さんの幸せを考えたらあの奥さんとは再構築をお勧めします」

「でも……」


 そんなこと考えられない。


「知ってますよ。店長からの慰謝料……。僕の報酬分引いて振り込みましたけど、あれって風間さんの名義だけど奥さんとの共通の通帳ですよね? そして、その通帳は置いたまままた蒸発するんですよね?」

「……」


 俺の無言を「肯定」と取ったのか、弁護士は続けた。


「今度は二度と帰らない……。行き先は富士の樹海ですか? それでも、奥さんと娘さんにお金を残していく……。今でも大事なんじゃないですか?」

「……」


 弁護士が俺の目を見ているのが視界に入るので分かる。俺は彼と目を合わせることができないでいた。


「休憩時間はもう少しあります。別室の娘さんの顔を見てから決めても遅くないと思いますよ? 娘さんはお隣の部屋です。カギはかかってないから自由に入ってください」


 そこまで言ったら弁護士は先に建物に入ってしまった。


 俺は急いで建物に入り、娘のいる部屋に走った。ドアを開けるとタブレットで動画を見る娘と横で一緒に画面を覗き込む強面の義父がいた。


「パパっ!」


 娘はタブレットを義父に渡すと俺の方に走ってきた。俺はしゃがんで娘を抱きしめた。そこになんの迷いもなかった。


 一度は自分の子じゃないと思って憎もうとした我が子。自分の子じゃないと思っているときも、この子の将来を考えていた。


「花音ーーー」


 娘を抱きしめて泣いた。娘もそのまま大泣きしていた。義父は黙って見守ってくれていたが、やっぱり泣いてた。


 ○●○


 俺は顔を洗って打ち合わせ室に戻った。弁護士は先に座っており、妻も義母もおとなしく座っていた。まあ妻は泣いてたけど。しゃくりは止まらない。それでも収束に向かってる感じ。


 今度は妻が話し始めた。


「娘の泣き声を聞いて、私はとんでもないことをしでかしたと痛感しました。パパとあの子を引き離すのはいけないことだと思います。離婚は……受け入れます。お金は全部要りません。慰謝料は払えないから、私が死にます。保険金で払います」


 妻のあの顔は本気のときの顔だ。言い出したら絶対にやる顔だ。


 お義母さんが横から「またそんなこと言って! 風間さんがはい、そうですかって言えない言い方してっ!」と肩をガクガク揺さぶっていた。


 俺は頭を抱えた。汗がダラダラ出てる。すごくみっともない。全然スマートじゃない。それでも俺は顔を上げて妻の顔を見た。


「俺……と、……やり直しませんか?」


 その言葉の後、部屋はしばらく音がなかった。


「……え?」


 妻が泣きはらした目で俺の方を見た。言われたことが理解できなかったのか、聞き逃したのか。それとも信じられなかったのか。


「浮気は許せない。正直、これからも許せるか分からない。相手がイケメンだったし、一生俺は自分の中の劣等感と付き合っていかないといけない……」

「……」


 妻は黙ったまま俺のことを見てる。


「俺は由紀……のことをいつも周囲の人から好かれて、ちやほやされて……いつも羨ましいと思ってた。俺みたいなデブでメガネで冴えない男ときみが結婚してくれた理由が分からなかった。だから、俺は俺のできる最大で返そうと思ってた……」


 妻は首をふるふる左右に動かす。


「要らない! なんにも要らなかった! パパがいてくれたら! 好きなの! 見た目も中身も全部! こんなに人を好きになったことなんてないの! パパ以上に好きになる人なんて一生いない! だから、もっと好かれたかった!」


 また号泣。ここ数日で俺も彼女もどれだけ涙を流しただろう。


 妻は机に額をこすりつけて言った。


「パートは辞めます! もちろん、店長とはもう会いません! 失った信用を少しでも取り戻します! あなた以外の男の人と出かけないし、話しません! お化粧もしないし、嘘も隠し事もしません! 毎日パパのことがどれだけ好きか伝えます! もし、1つでも破ったら死にます! 死んでお詫びします!」


 多分これも本気だ。声色で分かる。俺はふーーーっとゆっくり息を吐いてから落ち着いてしゃべった。


「店長とはもう会わないでほしい。これからぶっ潰すから、きみに泣きついて来るかもしれない。パートはあそこで働けなくなると思うので、働きたいなら他で。話し合って決めよう。化粧はまかせるけど、いつも最高にきれいにしていてほしい。きみは……俺の……自慢の奥さんなので」

「……」


 彼女は驚いた顔をしていた。


「あと、なにかあったら、一緒に死のう。1人では逝かせないよ」

「……はい」


 少し呆けたような表情の妻と頭を下げまくる義母。後は茶番みたいな時間。


「風間さん、話がまとまったらかわいい奥さんとご両親を連れて帰ってください。こっちは後の予定が詰まってんですから。弁護士は高いんですからね!? 後で請求しますからね!」


 弁護士はそんな軽口を言った。当初は1日空けときますとか言ってたし。多分本気じゃない。急なツンデレとか要らないんだけど。請求も終わってる。このまま弁護士事務所にいるんじゃなく、家で関係修復を図れってことだろう。


「あと、店長をぶっ潰しますから、明日一日空けて明後日打ち合わせしましょう。10時にお越しください」

「分かりました」


 俺達は弁護士事務所を追い出されるようにして出た。お義父さんが車で来ていたのだが、家まで送ってくれた。車の中ではまだギクシャクとした空気で誰もしゃべらない。そんな空気を察して娘もおとなしい。


 きっとこの空気が嫌だったんだろうな、あの弁護士。とにかく、みんな俺達の家に向かった。


 ちなみに、お忘れかも知れないが、召集したのは俺の両親も含まれていた。時間差で来てもらうことを予定していたのだが、嫁の様子を見て弁護士が俺の両親に連絡してくれて、後日にと言ってくれたようだった。俺の無事も伝えていたので、両親もしぶしぶ来るのを見合わせたらしい。


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― 新着の感想 ―
el personaje de la esposa claramente no será nominada al premio novel de la inteligencia!
ざまぁやらは一旦置いておいて、再構築って相手に愛情が残ってるなら地獄だよ。何かあったら(もしくはなくても)相手を疑い、そんな自分を卑下し自己嫌悪に陥る。 いっそ無関心になれればいいのにね、ただ娘の父親…
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