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貧乏国家の黒字改革〜金儲けのためなら手段を選ばない俺が、なぜか絶賛されている件について〜  作者: 空野進
第三章、国力を上げよう

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わずかな平穏

「そうか、聖公国が撤退したか」



 皇帝は楽しげに微笑んでいる。

 情報を報告したフルールはその様子を不思議に思い尋ねる。



「皇帝陛下、一つご質問があるのですか発言よろしいでしょうか?」

「許す」

「どうして聖公国が撤退したのがいいことなのでしょうか? かのユールゲン王国は着実に力を付けております。ここは少しでも戦力を削いでくれたほうが良かったのではないでしょうか?」



 フルールの質問は当然のもので、周りにいた兵士たちも同様の疑問を抱いていた。



「若いな」

「も、申し訳ありません」

「よく考えてみるがいい。そもそも帝国は強大になりすぎた。対抗できる国がない現状、内政に力を注いできたもののそれでも平和そのものの今では力の伸びは緩やかになって久しい」

「……平和なのは良いことではないのでしょうか?」

「この平和は恒久的に続くものか? 答えは否だ。ならば我が帝国にはそれに匹敵する敵が必要なのだ。魔王国がそれに値するかと思ったが、あの弱小国家がそれらをまとめて力を付けてきたのは嬉しい誤算であった。しかもシャロなる最強の戦士も要してると聞く」



 シャロの姿を知っているフルールは苦笑を浮かべるしかできなかった。



「最後の仕上だ。これより帝国はかの弱小国家に宣戦布告をする。我が国の敵になり得るならば、我が国の攻撃を防ぎきってみせるであろう」



 そう簡単に目論見通りいく相手だろうか?


 フルールは少し不安に思いながらも自分たちの力を信用してくれているからこそのその自信なのだろうと無理に納得することにした。



「軍備を整えろ。全てが揃い次第、兵を出す!」

「はっ!」




 ◇




 アルフとの話を終え、家宝をしまったクリスはその足でシャロのギルドへと足を運んだ。これもアルフの計らいで疲れを癒やすために今日の食事はタダで食べて良いらしい。詰まるところの宴会である。


 しかしどうしてだろうか。クリスはどうにも気が重かった。


 その理由は簡単で、ギルドの扉を開けた瞬間に目に飛び込んできた風景にあった。



「私の方が活躍したわよ!!」

「いや、俺の方が普段からシャロ様のために働いてるね!」



 マリナスとハーグがにらみ合っている。今にも手が出そうになっているので周りの面々は手を出せない。むしろ酒が入っていることもあり煽る節がある。


 あっ……、出た……。


 ハーグがマリナスに殴りかかり、あっさり返り討ちに遭う。

 しかし、吹き飛ばされ目を回しているハーグをイグナーツが受け止めていた。



「おっ、力比べか? 楽しそうだな」



 イグナーツは高笑いをしながらマリナスの前に進む。

 その姿はいつも通り全裸……ではなくなぜか白いシャツを着ていた。



「本調子の貴方なんて相手にしても楽しくもないわよ」



 手で追い返す仕草をするマリナス。

 そこでようやくイグナーツは自分の格好が未だにシャツを着たままな事に気づく。

 しかし、そこで首を傾げる。



「別になにも不思議なことはないではないか?」

「だからダメなのよ。はぁ……、もういいわ。昔よしみで何があったのか、話くらいは聞いて上げるわよ」



 マリナスは酒を二つ、テーブルへと持ってくると座るように促す。

 少し離れたところではリナとジャグラが二人、座って周りの状況など気にしていないかのように料理を食べている。

 少し年齢が近ければ恋人同士に見えたのかもしれないが、今の状況だとただの親子以上でも以下でもない。


 必死にナポリタンを頬張るリナとたまにその口を拭うジャグラ。

 周りから飛んできたものさっと掴み、リナを守るとそれを持ち主の方へと投げ返し、相手にぶつけて気絶させるので、場は更に混乱の一途を辿っている。

 こんな状況を収めることができるのはアルフ殿下やポポル様、魔王やシャロ様しかいない、とクリスは周囲を見回し、そこで該当する人物を発見することができた。


 聖公国からこの国へ降ってきた兵達に神と崇められるシャロの姿を……。



「シャロ様、どうか我々を導いて下さい」

「や、やめてください……。わ、私にそんな力は……」

「女神様……、いや、聖女シャロ様ならなんとかできるはずです」

「だ、だから私は……。あっ、く、クリスさん」



 シャロはクリスの姿を見つけた瞬間に小走りで近づいてくる。



「こんなところで呆けてどうしたのですか? どこかお体でも悪いのですか?」



 のぞき込むように見てくるシャロにクリスはタジタジになりながら答える。



「そ、そんなことありません。それよりも近すぎますよ……」



 少し青ざめながら一歩後ろに下がる。

 シャロは不思議そうに首を傾げていたが、周りからどす黒いまでの殺気が放たれていることにどうやら彼女は気づいていない様子だった。

 イグナーツの悩みを聞いているマリナスがこちらの様子に気づいていないだけマシかもしれない。

 自分で言い出した手前、こちらへ来ることができないのだろう。

 台拭きを噛んで悔しそうに血の涙を流しているのを遠めに見ることができた。



「そんなに近くないですよ。それよりもアルフ様から聞いてますよ。大活躍されたクリスさんを精一杯もてなしてくれって。それがこんなところに立ってたらダメですよ。ほらっ、こちらに来てください」



 シャロに無理やり手を掴まれるとなぜか一番目立つ席へと連れて行かれる。

 もちろん、それを周囲の人が許すわけもなく、更に一段と殺気は強くなっていた。

 しかし、シャロが側にいるために手を出してくることはない。

 隙を窺っている、という言葉が正しいかもしれない。


 思えばこんな仕事ばかりこなしていた。


 もしかするとこれからもこういった場面を任せるから鍛えておいてくれ、ということかもしれない。いや、きっとそうだ。


 情報過多すぎてクリスは次第に場に酔い始めていた。

 目を回しながら、自分ならこの場をどうにかできるとアルフ様に思われた、と妄想をして置かれた酒を口にする。

 その瞬間に顔が真っ赤に染まり、周りの人たちと共にクリスも騒ぎ出していた。



 いつもならこのような騒々しい場だと真っ先に騒ぎ出すイグナーツが妙におとなしいことを不思議に思ったマリナスは慣れた手つきで彼の前に酒を出していた。

 おそらく一杯でも飲めば他の連中同様にイグナーツも騒ぎ出すであろうと。

 しかし、その予想は外れ、イグナーツはちびちびと酒を飲んでいた。

 それを見たマリナスは思わず自身の頭を掻く。



「あー、もう。あんたがそんな様子だと調子が狂うのよ。いつもみたいに服を脱ぎなさいよ。ほらっ!」



 マリナスがイグナーツの服を脱がそうとする。



「えっと、お二人ってそういう関係だったのですね。そ、それなら奥の部屋でやってくださいー」



 側で料理を運んでいたシャロにイグナーツの服を脱がそうとしているところをバッチリ見られてしまい、シャロは顔を真っ赤にして逃げていく。



「しゃ、シャロちゃんーーー。もう、あんたのせいで変な勘違いをされたじゃない。あとで誤解を解いておかないと……」



 本来なら今すぐにでも向かいたいのだろうけど、マリナスはここに留まってくれた。

 そこまでしてようやくイグナーツが口を開く。



「……次は帝国、だろうな」

「えぇ、そうでしょうね」

「…お前は何も思わないのか?」

「私は私の敵を倒すだけよ。あなたみたいにね」



 マリナスはグッと酒を飲む。



「はははっ、お前らしいな」

「どうせできることは限られているのよ。なら楽しんだものがちじゃない?」

「それもそうだな。すまんな、わざわざ悩みに乗ってもらって」

「――いいわよ。私たちにとっても因縁の相手だからね。私も思うところはあるわ」

「はははっ、お前らしくもない」

「お前が言うな!!」



 ガシガシとイグナーツを叩くマリナス。



「痛いっ。痛いっ」



 それはまるで駄々をこねる彼女のようではあるもののその一撃一撃が常人だと軽く吹き飛ぶほどの威力を持っており、イグナーツは本気で痛がっているのだがそのことに誰も気づいてくれなかった。




 ◇




 ユールゲン王国宰務室



「…はやり攻めてくるか」



 俺は周囲の地図を広げ、相手がどのような行動をとるか予測していた。

 当然ながらそこに必要な守備兵を配置していたにもかかわらず帝国の進軍は止めることができずに徐々に王城へ迫られている。


 周囲には参謀であるポポルと魔王。


 シャロの店に行こうとしていたのを無理矢理捕まえてこの部屋へと連れてきたのだ。



「うーん、攻めてくるのは予想通りだったけど思ったよりも早かったね」

「それはあるな。まるで俺たちが帰ってくるこのタイミングに合わせて攻めてきたようにも思えるな」

「それでどうするのだ? まともにぶつかっては勝ち目はないだろう?」

「すでに周辺国家には報を入れた。全軍を俺たちに剥けると言うことはできないはずだな」

「――それは本当か?」

「何か思い当たる節でもあるのか?」

「いや、たいしたことではないが、この攻めは帝国らしくないなと思っただけだ。本来の帝国は圧倒的力と電撃的な進軍で援軍の間を許すことなく敵国を葬り去るはずだが、今回はそこまで圧倒的な力を感じない。まるで何かを図っているかのように…」



 魔王に言われ、再び地図を見る。



「もしそうだとしても俺たちの執れる手段はそれほど多くないな。当初の予定通り、冒険者ギルドで人員を募集するよりほかないだろう」

「そうなるとシャロちゃん頼みか。それならここにシャロちゃんも呼んだ方が良かったんじゃないの?」



 ポポルは当然のような疑問を呈してくる。



「いや、今日はギルドの方もとんでもないことになってるだろうからな。あとはもう一つ、ポポルと魔王にだけ相談したいことがあるんだ。今後のことを考えるとここで帝国は大きく叩いておきたい」

「そんな兵力が残っているの? 襲ってくる兵を追い返すだけで精一杯だよ?」

「いや、兵はそれほどいらない。俺と魔王、ポポル、あとはイグナーツとマリナスの五人だな」

「…!!」



 ポポルは何か感づいたようで驚きを見せていた。



「確かに魔王の情報と合わせても何かしらの一撃は与えられるかもしれないけどさすがに無傷とは行かないよ?」

「でもやるしかないだろう?」

「…そうだね。うん、いつかはやらないといけないことだもんね。わかったよ、ボクも覚悟を決めるよ」

「…シャロは連れて行かないのだな?」

「あぁ、シャロにはギルドの面々の指揮があるだろう? それに最悪ここにいたら魔王領に逃げることもできるだろう?」

「しかし、今だとシャロはこの国随一の戦力ではないのか? 今までもずっと行動を共にしてただろう」

「確かにシャロは俺の右腕だからな。謀略が張り巡らされる中、信用できる問答無用で信用できる数少ない人間だからな」



 シャロの雰囲気はまねしようとしてもできるものではない。



「でもそれは相手も同じことを思っているはずだろう?」

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