新たな国へ
アルフ達が出て行ったあと、ラグワンド国王は王座に座り、今の出来事を考える。
一方的に力で支配しようとする帝国。
力は求めず共存を図ろうとしているユールゲン王国。
もしどちらに付くかと考えると答えは簡単だ。
しかも、ユールゲン王国は既に魔族国も味方に付けている。
今だと、帝国に対抗できる唯一の国と言っても過言ではないかもしれない。
一時期は国内が衰退して、滅亡間際だと思っていたが、そこから速攻で立て直すとは。
周りにいた実力者達もさることながら、一番恐ろしいのはあの王子かもしれない。
何を考えているのか全く読めない。
果たして、今回のことであの王子が得るものはあるのか?
我々に本気を出させるためだけに動いているあの王子に……。
実際はただ自分の金を使いたくないがために支配せずに動くように促しているだけなのだが、そんなことだとは思わないラグワンド国王はアルフに対して末恐ろしさを感じていた。
しかし、当の本人たちは全く別のことを考えているのだった。
◇◇◇
「アルフ様、次はどこへ向かうのですか?」
俺の隣を歩くシャロがおもむろに聞いてくる。
ここからは時間の勝負となってしまう。あまり悠長にしているのは得策ではないだろう。
「ここからは時間の勝負となりそうだ。俺たちはこのまま北へ向かい、ミラメルク王国へ行く。シャロ、付いてきてくれるか?」
「もちろんです。私はアルフ様と行動を共にしますよ」
シャロが迷うことなく同意をしてくれる。
ただ、ここで戦力を分断させるということは、それだけ危険も増す……ということなのだが、それは理解しているのだろうか?
屈託のないその笑顔を見ていると、どこか不安になってくる。
ただ、今はそのことに意識を割いている場合ではない。
次に俺はポポル達の方を向く。
ただ、それだけでポポルは全てを理解してくれていた。
「はぁ……、わかったよ。私たちはドワーフが住む国、レンド共国へ向かえばいいんだね。でも、大丈夫? イグナーツと彼女を連れて行くことになるけど?」
敢えてこの場ではマリナスという言葉を濁すポポル。
ただ、その視線は完全に彼女を捕らえていたので、誰のことを言っているのかわかる。
「獣人たちと比べるとまだマシだが、それでもドワーフたちは気性が荒い。だから、ポポル達三人に任せたい」
「――わかったよ。アルフ王子、生きて帰ってきてよ。そうでないと国は滅びるんだからね」
「当然だ! 俺がこんなところで死ぬと思うか?」
「あのね……、人って簡単に死ぬの。私はその場面を何回も見てるんだから。だからこそ、手の届く範囲は守ろうと思うけど……。もちろん王子も例外じゃないんだからね」
「わかってる。だから俺たちが向かうのは、一番いざこざがないミラメルク王国なんだからな。メンバーをしっかり考慮している」
「王国単体で見るのは危険だよ。一番ユールゲン王国から遠いって事は、それだけ帝国の手が伸びる可能性があるわけだからね。そこも注意して、無理だと思ったらすぐに逃げてきてよ」
「あぁ、もちろんだ」
ポポルが凄く心配してくれる。
確かに今、ユールゲン王国が復興しつつあるのは、俺という旗印があるおかげだ。
それが失われてしまったら、王国は一気に瓦解してしまう。
それはポポルの望むことではないだろう。
「んっ、なに? 私はシャロちゃんに付いていけば良いの?」
話をぶった切ってくるように、マリナスが加わる。
「マリナスは私と一緒に来てもらうよ。文句はないよね?」
「あらっ、ポポルと二人っきりの旅なの? ご褒美? このままハネムーンとしゃれ込んじゃう?」
「そ、そんなわけないでしょ!? もちろんイグナーツも一緒に来るに決まってるじゃない!?」
「……ちっ、筋肉だるまも一緒なのね。途中で捨てようかしら」
マリナスが小声で何か恐ろしいことを呟いている。
その姿があまりにもいつも通りなので、俺は苦笑を浮かべていた。
ただ、ポポルの方は真剣に焦っていた。
「そ、そんなことしたらダメだからね!? それで何回大変なことになってると思ってるの!?」
「別に何かトラブルになったことないでしょ?」
「――迷子になって何日も帰ってこなかったでしょ」
ポポルがトオイメを見せる。
確かにトラブルにはなってないが、起こりそうな事態だな……。




