交渉(武力)
「ラグワンド国王ですか?」
「いかにも。我がラグワンド王国国王、バリューダ・ラグワンドだ」
「これはご丁寧に。私はアルフ・ユールゲン。ユールゲン王国の執政官を務めております」
まずは外交の基本。相手を立てて丁寧に挨拶をする。
しかし、ラグワンド国王はすぐ首を横に振っていた。
「我に余計な挨拶は不要。あくまでも力こそが正義。それが我が国の掟だ。それはお前たちもよく知っているのだろう?」
「えぇ、存じております。だから私の代わりに戦ってもらう者を連れてきております」
「……魔王か」
「えぇ、そのつもりでしたが、その前にぜひ挑みたいという者がおりますので、まずはそちらから」
「ほう、してその相手は?」
「マリナ……」
よく考えるとこの場にはシャロもいるんだったな。その名前は口に出したらいけないか。
「マリーだ。新人冒険者兼ギルド職員の」
「かかかっ、その程度の相手を連れてきたか。よかろう、その程度の相手に我が負けるはずはない。もし負けるようなことがあればなんでも言うことを聞いてやろう」
自分から窮地へと追い込む。
正直俺からしたら考えられないことだが、ここラグワンド王国では常識なのだ。
そして、相手は新人冒険者であるマリナスのことを見下している。
よもや自分が負けるはずないだろう、と。
相手に本気を出されると少し危ないかもしれない……くらいの実力差だったのだが、油断しているならそれはあっさりひっくり返る。
◇
勝負を開始すると一瞬でラグワンド国王はひっくり返されて、その顔元に拳を突きつけられていた。
「これで勝負ありね」
「うぐっ、まいった。油断した、まさか新人冒険者ですらこれほどの力を持っているとは……」
「そういうことだ。約束だな、俺の願いを聞いてもらうぞ?」
「あぁ、我らはこれよりユールゲン王国に付き従おう」
「――アホか。そんなことを頼むと思っているのか?」
ただでさえ国内のことだけで資金が一杯一杯なのに、他国を支配している余裕は今はない。
それにこの国にそれだけ儲けさせてくれる金鉱等はなさそうだ。メリットがないのに従国として置く理由もない。
あくまでも帝国に対抗するための兵としてだけだ。
しかし、敗北したら国をとられると思っていたラグワンド国王は驚きの表情を浮かべる。
「し、しかし、それではどうしてこの我に挑んできた? 我は本気でお前たちを殺すつもりだったんだぞ?」
「簡単なことだ。せっかく力を持っていても今みたいに油断をしたら負けてしまう。まして相手は帝国だ。一人一人の力がラグワンド兵に及ばなくても数の暴力と策略によって攻め滅ぼされるだろう。だからこそ俺たちが来た。相手は帝国。決して油断するな! 一時の勝利に驕れるな! 負けたら滅亡が待っている。一敗もできないと思え! 今の敗北が最後の敗北だと思うんだ! このことだけを伝えに来た」
「それ……だけか? 魔王まで連れて、おそらく国の重要な兵力まで割いて、しかも帝国とにらみ合いながら、たったそれをするためだけに……」
「もちろんだ! 帝国の非道は許すことができない。そして、他国がみすみす滅ぼされることも、な。だから立ち上がれ。今言ったことを忘れなかったらお前たちが負けることは早々ないだろう」
それだけ言うと俺はラグワンド国王から背を向ける。
まだまだ帝国に向けるべき国は多い。ここに留まるわけにはいかないからな。




