交渉(聖女)
俺たちはラグワンド王国へとやってきた。
大森林の中。
周りが獣人たちしかいない場所を歩いていると嫌でも目立ってしまう。
その結果、町にいた獣人たちはヒソヒソと小言を吐いていた。
いや、今この場には魔王もいる。
冷静に考えると小言を言われるのも当たり前だった。
むしろ、怯えられているのだろう。
「あぁ、なんだ、お前たち! 何か文句でもあるのか?」
「ひ、ひぃぃぃ、命だけはお助けを……」
ジャグラが睨むと近くにいた獣人をにらみ付けると彼らは慌てて大樹に穴を開けて作られた家の中へ逃げ去っていった。
「ちっ、雑魚が!」
「おい、ジャグラ。余計なことをするな」
面倒ごとを起こしそうなのでジャグラを注意する。
ただ、当然ながら相手はジャグラ。
俺の言葉を聞く素振りは一切ない。
「ふんっ、俺に命令できるのは魔王様だけ――」
仕方ない、魔王に頼もうかと思ったのだが、俺より先に動く人物がいた。
「だめ。他の人をいぢめたら……」
ジャグラの服を掴んで少し頬を膨らませながら言葉を発する幼女、リナ。
聖女である彼女はなぜかジャグラに懐いて一緒の宿に泊まっていた。
そして、今回はジャグラが長期間出かけると言うこともあって、一緒に付いてきていた。
もちろん危険な旅。
ジャグラは反対したのだが、リナが目に涙を浮かべて必死に抵抗してきたので仕方なくこうして一緒に連れてきていた。
もちろん途中でぐずったり、歩けなくなったら置いていくぞっと強く言い聞かせていた。
ただ、そう口で言いながらもリナが疲れないように馬車の手配をしたり、歩かないと行けない場所だとたまに背負ったりして、細心の注意を払っているところがジャグラらしい。
そんな大切にしている幼女から注意をされるとジャグラも言葉に詰まらせていた。
「うっ、し、しかしだな、リナ。俺は魔王様の威光を知らしめるために……」
「だめ!」
「わ、わかった。次からは気をつける」
「うん、それでいいの」
リナがにっこり微笑むと、ジャグラは苦笑を浮かべていた。
そして、俺たちの方を見てくる。
もちろん俺たちは二人のやりとりを微笑ましく見ていたので、ジャグラは顔を真っ赤にして、反発してくる。
「な、なんだよ! 何か言いたいことでもあるのか!?」
「いや、なんでもないぞ」
ジャグラにものを頼むときはこれからリナに言えば良いんだな。
「ぐっ……、今に見てろよ。お前なんて魔王様の許可があれば――」
「ジャグラさん、そんなこと私が許しませんよ」
シャロが強い口調で告げると魔王もそれに同調する。
「あぁ、そんなことは我が許さない。(シャロの飯のために)こいつに手を出すな!」
「ぐっ、か、かしこまりました」
俺としては楽で良いんだけど、こうやって見ると魔王軍ってろくな人物がいないんじゃないか?
娘に甘い魔王。
幼女に甘いジャグラ。
「あれっ? 魔族の男たちってロリ……」
俺の考えを否定するかのように魔王が言葉を発する。
「断じてそれだけはない! 我が甘いのはシャロに対してだけだ。他の有象無象のことなどどうでもよい!」
「お父様! そんなこと、私が許しませんよ。私の大切な人たちを傷つけると一生お父様のことを恨みますから――」
「シャロの大切な人たちは除くぞ……」
慌てて後から付け加えてくる魔王を見ていると俺は再び苦笑を浮かべてしまうのだった。
◇
ようやくラグワンド王のいる王宮へと辿り着く。
ただ、そこも他の住居と同じで、ひときわ大きな大木に空いている穴が王の住んでいるようだった。
そして、俺たちの来訪は予感されていたのか、すぐに中へと案内される。
中は中央に階段があるくらいでそれ以外には特に部屋らしい部屋はなかった。
「階そのものが部屋って考えなんだよ」
あぁ、全てがワンフロアなのか。
確かにかなりの大木だったからな。
ある程度の部屋数は作れそうだ。
でも、階段を上るのは大変そうだな。
王となるとやはり一番上の階か……?
階段を見上げながら苦笑を浮かべていると突如として声を掛けられる。
「待って追ったぞ、ユールゲン王子よ」
少し圧のある威厳たっぷりの声。
そちらの方に視線を向けると、そこには魔王にも引けを取らないくらいの体格を持った、獅子の獣人がいた。
中々更新できなくて申し訳ありません。
かなりリアルの方がバタついておりまして、ウェブの方の執筆時間をほとんど取れておりません。
本日、貧乏国家の黒字改革一巻発売日になります。
ほぼ全改稿させてもらった本作、ぜひ手に取っていただけるとありがたいです。
どうぞよろしくお願いします。




