暗殺者
「魔王、頼みがある」
やってきた魔王に対して、俺は速攻で頭を下げていた。
すると、その姿を見て魔王は慌てていた。
「ど、どうしたんだ、急に。と、とにかく一旦落ち着け。まずは話を聞いてからだ」
今までの俺とは全く違う態度に困惑する魔王。
つかみは十分だ。
ここから俺は魔王に頼みたいことを説明する。
「これからいくつかの国を回って説得したい。一緒に来てくれないか?」
「そんな面倒なことを私がするとでも……?」
「シャロも一緒に付いてくる予定だが?」
実際にそんな予定はない。
でも、シャロに頼んだら断ったりはしないだろう。
それがわかっているからこそ、魔王に提案してみる。
すると、魔王は即答しようとしたものの、すぐに口を閉じる。
「んっ? どうかしたのか?」
いつもと違う魔王の態度に俺は首を傾げていた。
すると、魔王は窓に付けられたカーテンの方を向いて、鋭い視線を送る。
「おいっ、そこのやつ! 出てこい!」
低く威圧ある声を発する。
すると、飄々とした態度の男が姿を現す。
「これはこれは魔王様にアルフ様。お二人がそろい踏みで、えぇ、私の仕事も楽になります」
そういうと男は懐からナイフを取り出していた。
――もしかして、暗殺者か!?
俺は武器を構えようとする。
しかし、その瞬間に魔王が突然俺に対して斬りかかってくる。
「ちっ……」
攻撃を外した魔王が舌打ちをしてくる。
辛うじてそれを躱すことができたが、下手をするとそのまま命を落としていたかもしれない。
そんなことを魔王がしてくるとも思えないが、まさか!?
「お前……、一体誰だ?」
「くくくっ、もうバレてしまいましたか」
それだけいうと魔王だった人物が全く違う人間に姿を変えていた。
「アルフ王子、あなたには死んでもらいます」
「……なるほど、暗殺者か。今、俺を殺して利点があるとなると……帝国の奴だな」
「それをあなたが知ることはありませんよ!」
男たちは二人がかりで俺のことを襲ってくる。
それをなんとかいなし続けるが、段々と壁際に追い立てられる。
「くくくっ、これで終わりだ。死ね!!」
追い詰められた俺に対して、暗殺者二人がかりで襲いかかってくる。
すると、その瞬間に壁が壊れ、本物の魔王が姿を現す。
そして、暗殺者の一人が吹き飛ばされていた。
「なんだ、ピンチだったか?」
「いや、そうでもない。魔王が来ると思っていたからな」
「そうか……」
「それよりもあとで壁代は請求させてもらうからな」
「そ、それはツケで……」
「そんなことをしているとまたシャロにどやされるぞ」
「うっ……、か、必ず払うからシャロにだけは……」
このシャロという言葉に過剰に反応する所を見ると今度は魔王に間違いないようだ。
そして、魔王が現れたことによって形勢が逆転する。
「ぐっ……、さすがに魔王ごと相手にするのでは割に合わん。ここは引かせて――」
「そんな隙を与えるとでも思ったか?」
魔王が一気に詰め寄り、全力で男を殴る。
すると壁にもう一つ穴が空いて、男は吹き飛んでいった。
そして、ちょうどその壁が壊れたタイミングでシャロが戻ってきてしまう。
「アルフ様、少し聞きたいことが……。って、お父様!? な、何をしてるのですか?」
シャロが大足で魔王に近づいていく。
すると、魔王はあたふたとして俺に助けを求めてくる。
「こ、これはその……。お、おい、アルフ。説明しろ!」
「仕方ないな。これは魔王が勝手に開けた穴だ!」
「ち、ちがっ」
俺の答えに魔王は慌てふためく。
それと同時にシャロの目が少し光る。
「お父様! しばらくご飯抜きにしますよ! アルフ様、申し訳ありません。この壁の修理代金は責任を持ってお支払いしますので」
「いや、シャロがそこまで言ってくれるならもう大丈夫だ。それに魔王も反省しているようだからな。俺も暗殺者から助けてもらった恩もある」
慌ててシャロに伝える。
「そうですか。アルフ様がそう仰るのでしたら良いのですけど……」
「そ、そうだ、我はただ、アルフを守っただけで……」
「お父様は黙っていてください!」
「はい……」
さすがにかわいそうに思えてくる。
……っとそうだった。さっきの魔王が偽物だったのならもう一度説明しないといけないんだな。
俺は苦笑をしながらシャロと魔王の二人に他国を説得しに行く話をする。
ただ、暗殺者に聞かれていたことなので、なにか対策は必要になりそうだが。




