会議

　帝国の執務室にて皇帝は、ユールゲン王国の調査結果を聞いて興味深そうな表情をみせていた。

「ほう……、すでに国内をまとめ上げたか――」

「はい、この報告によりますと、あれだけぼろぼろだった国内は一つにまとめ上げられて、アルフ王子の下、国を整えているようです。我が国の兵も冒険者として協力しているようなのですが、大丈夫ですか？　放置しても――」

「問題あるまい。所詮弱小国家だ、捨て置くと良い。適当に協力しているふりだけでもしていたら尻尾を振ってくるであろう。フルール、中々良い采配だ。あとは情報収集だけつつがなく……な」

「はっ、かしこまりました」

　フルールが頭を下げると部屋から出て行く。

　そして、一人残った皇帝は口をつり上げて笑みを浮かべる。

「どうせユールゲンはすぐに攻めてくることはあるまい。今は国内を落ち着かせることが定石。今まではほとんど滅びかけで魔族国からの防衛のために兵を割かないといけなかったが、それもなくなる。せいぜい防波堤として使ってやろう」

◇■◇■◇■

　ユールゲン王国の応接間では現在、主要メンバー全員を集めて打ち合わせを行っていた。

「本当にやるつもりなのか？　さすがに時期尚早ではないのか？」

　ジャグラが不安そうに聞いてくると、マリナスは鼻で笑っていた。

「その程度のこともできないの？　軽く捻って領地を広げるだけでしょ？」

「うーん、私もジャグラに賛成かな。さすがにうちの戦力が整っていないうちは攻めるべきではないと思うよ」

「ポポルが言うなら私も反対よ！」

　くるくると手のひらを返すマリナスに苦笑をする。

「まぁ、お前たちの言いたいことも分かる。もちろんつい最近まで滅びかけていたんだから簡単にできることではないだろうな。ただ、我が国が一つに纏まったことで帝国の皇帝はなんて考えると思う？」

「それは……『国が纏まったんだから、襲ってこないように警戒しよう』じゃないの？」

「いや、それは簡単に見抜いてくる。もう一歩先を見る必要がある。なぜ帝国は今まで俺たちを滅ぼさなかった？　帝国が恐れるのは誰だ？」

「帝国が警戒していたのは魔族国だから……そっか、帝国と魔族国の間にちゃんとした一国ができるわけだから、警戒を緩めることができるんだね」

　ポポルは少し考えた後で答えを出してくる。

「そういうことだ。更にもう一歩行くとユールゲン王国が魔族国に滅ぼされる前に危険な他の国の対処ができる……というわけだ。つまり、ここ数日中に今までよりも兵が手薄になる。この期を逃す理由はないだろう？」

「でも、問題がいくつかあるよ。まず、この国に帝国の兵がいるよね？」

「それなら大丈夫だと思います」

　ポポルが不安そうな表情を出すとシャロが小さく手を挙げて答える。

「どうして？」

「えっと、その……。帝国兵だった方は大使さんを除いてみんな冒険者になっていますので――」

「……はぁっ！？　な、なんでそんなことに？」

　まぁ、驚くよな。これは俺からしても予想外の出来事だったわけだからな。

「えっと、それがちょっと困っていたときにサポートしてくれまして、気がついたときにはみんな冒険者に――」

「……ちょっと待って？　良くわからなかったんだけど、シャロが困っていたら兵士達が助けてくれた……？　マリナスみたいな連中ね」

「……？　そのマリナスさんは兵士さん達みたいに優しい方だったのですか？」

　シャロが首を傾げるとマリナスは頬を赤くして「はぅっ！？」という声を漏らしていた。

「……マリナスが優しいかは置いておくわ。確かに帝国兵が味方なら一つ目の関門はクリアしてるわね。でも、本当にその兵がユールゲン王国に仕えてくれる……というのならよ。簡単に寝返ってしまったら、一気に窮地に陥るわよ」

「えっと、この国には仕えてくれないそうです……」

「やっぱりね」

「でも、私には仕えてくれるそうです……」

「どういうことなの！？」

「言葉の通りみたいです。えっと、私のお父さんみたいになった……といえばわかりますか？」

　シャロの父、魔王はシャロの食事がないと力が出ない……と言い張るほど、シャロのことを溺愛している。

　確かにその言い方なら良くわかる。

「なるほどね。つまり行軍しているときもシャロが食事を作れば、喜んで付いてきてくれるのね」

「そういうことだ。これで問題は一つクリアしているだろう？」

　テーブルに肘をつき、ニヤリと笑う。

「で、でも、まだまだ問題はあるよ。次は戦争をするには凄くお金がかかる。もちろん今この国にそんなお金はないよね？」

　確かに金はこの国の急所に当たる部分だ。

　今はほぼ尽きている国庫をどうにかするのは急務になる。

「だからこそ、今回は攻めるんだ。敵の金鉱を――」