復興対策
さて、ブライトの状況はどうなったのだろうか?
時間を作るためにラグゥとぶつかるように仕向けたが、あまり長時間そちらに意識を向けることができない。
密に情報を仕入れておく必要があるだろう。
そう感じた俺は兵にブライトを監視するように指示を出していた。
しかし――。
「アルフ様、今戻りました」
「あぁ。それでどうだった?」
「それが突然ブライト領を魔族が襲い、町を半壊。それに気づいた冒険者のマリーさんが魔族を倒しておりました」
「……んっ? どういう状況だ? マリナ……マリーがわざわざブライト領へ出向いていたのか?」
そんな依頼が来たのだろうか?
でも、マリナスは常にシャロと一緒に動いている。
つまり、シャロもブライト領に……?
側にマリナスがいるなら危険はないと思うが、魔族を嫌っているブライトのすぐ近くまで行くのは危ないだろう……。
「いえ、それが――」
兵が言いにくい表情を浮かべる。
「実はかなり遠方より何か小さいものを投げられたみたいなんですよ。私も慌てて確認しに行かないとマリーさんがされたことだって気づきませんでした……」
「なるほどな……」
マリナスの力を考えるとそのくらいできるか……。
でも、どうしてブライト領に魔族がいたんだ?
しかも、襲いかかってるところを見ると魔王が関係しているとは思えない。
一度確認しておかないといけないか……。
俺は魔王が現れる魔方陣の部屋へと向かう。
ただ、今日はシャロがいない……はずなので、この国に来るかどうかはわからない――。
そう思った瞬間に魔方陣が輝きだし、そして、魔王が姿を現していた。
「んっ? アルフか? こんなところでどうしたんだ?」
「いや、魔王に少し聞きたいことがあるのだが、時間は大丈夫か?」
「これからシャロの飯を食おうとしたのだが――」
「今日はシャロは出かけているぞ?」
「なっ!? わ、わかった……。お前の話に付き合ってやろう」
露骨に落ち込んだ様子を浮かべながら、言ってくる魔王。
「実は例の貴族がいる領地で起こったことなんだが、その領地を半壊した魔族がいるらしい」
「ほう……」
魔王は興味深そうに顔を上げてくる。
「まだ我に隠れてそのようなことをしでかすやつがいるのか……」
「……ということは、魔王国がしたわけじゃないんだな?」
「当たり前だろう? シャロがこの国にいる以上、我は手出しはせん。滅ぼされそうにならない限りな」
きっぱりと言いきる魔王の姿を見ると、これは本心からの言葉なんだなと理解できる。 でもそうなると一体どこの魔族が襲いかかったのかという疑問が浮かんでくる。
「いや、ちょっと待て。一人だけ心当たりのある魔族がいるな」
「……一体誰だ?」
「ザッシュという魔族だ。元々我が国の兵を務めていて、それなりに力のあるやつだったのだが、鼻持ちならないやつでな。余計な行動をしたときに国外追放したんだ。領地を半壊できそうなやつで思い当たるやつは他にいないな」
国外追放されたあとも色んなところで破壊活動をしていたのだろうか?
いや、それならばもっと耳に入ってきてもおかしくないだろう。
つまり、意図的に情報を遮っているやつがいるわけだ。
――まぁ、ラグゥだろうな。
このタイミング……ということを考えるとそれ以外に考えられない。
「半壊で終わったと言うことは誰か倒すことに成功したのか? やつはジャグラよりも力がある……、いや、マリナスか。そんなことができるのは」
「あぁ、遠方から何かを投擲したらしい」
「それがマリナスの強みだからな。我も初めて相手にしたときは驚いたくらいだ。賢者と言われているやつがいきなり大岩を投げてきたら――」
「とにかく、魔族に関する後始末をしないといけない。俺の国を壊してくれた補償はもちろんしてくれるんだろうな?」
「……致し方あるまい。ここをきっちりしておかないとシャロに嫌われてしまうからな。領地の復興にかかった費用は我の方で見ておこう」
「あぁ、頼んだぞ」
これで俺もいくつか対策が取れるな。
それなら今はブライトと会った方が良さそうだな。
俺は一度頷いたあとにイグナーツを共にして、ブライト領へと向かっていった。




