金貨の貯蔵
「ブライトも今頃大慌てでラグゥのことを調べているだろうな」
即興で考えた策にしてはここまでうまくいくとはな。
あとは、二人が戦いになるのを眺めているだけだ。
今のうちにこの城にためてある資源の確認をしておくべきだな。
さすがにちょっとずつ収入も入ってきているのと、ドジャーノから得た分も合わせると十分すぎる量になっているのではないだろうか?
確認がてら、城の金庫へと向かう。
すると中には山のように金貨が……なかった。
「あ、あれっ? どういうことだ?」
必要な分は使っていたものの、思った以上に金を使ってしまっていたようだ。
どんどんと国力は戻りつつあるものの、やはりまだまだ収入がしっかりと入る基盤が出来ていないようだ。
ただ、このあたりで打開できる策を使わないと厳しいままか……。
そんなことを思っていると巨大な袋を持ってシャロがふらつきながらやってくる。
「あ、アルフ様……。こ、ここにいたのですね……」
「シャロか……。どうしたんだ、やたら重そうな荷物を持っているみたいだが」
「は、はい……。国に納める分のお金を持ってきたのですが……。今までの分をかなり貯めすぎててとんでもないことに……」
シャロから袋を受け取ると、それは危うく落としそうになるほど重かった。
「ちょ、ちょっと待て! 一体どれくらいの金になるんだ……?」
「そ、そうですね……。マリーさんが言うには金貨三百枚……だったと思います」
「……ちょっと待て!! 一体どのくらい稼いだんだ?」
「えっと……そこまでだと思うのですけど、最近は来る依頼は全て受けてくれますし、夜はほぼ毎日宴会が起きているので、かなりの額が入ってきてますね」
「そうか……。よその国から来た奴からも金を稼げる訳か。特にシャロの冒険者ギルドの周りに……」
「えっと、アルフ様……? なんだかすごく怖い顔をされていますけど、どうしました?」
「いや、たいしたことはない。その調子でシャロは頑張ってくれ」
「……? はい、わかりました」
首をかしげるシャロ。
そして、金庫の中にそのお金をおいたら、そのまま冒険者ギルドへと向かっていった。
◇■◇■◇■
「ブライト様、このあとはいかがされますか?」
自分の領地へ戻ってきたブライトは深々と椅子に座り、ため息を吐いていた。
「まだ様子を見るしかあるまい。今の流れだとどう考えてもラグゥが何かぼろを出してくるはずだ。魔族が紛れ込まないかしっかり監視をしててくれ」
「はっ、かしこまりました。王都の方はいかがしましょうか?」
「アルフ様の方か……。そっちは当面は問題ないだろう。今の王都には魔族はいない。それと帝国の兵もまだ滞在しているようだからな。そちらで万が一にも魔族が発見されれば帝国兵が黙っていないだろう。帝国兵が動き出したタイミングで私たちも動けば良い。むしろ、そのタイミングで足並みをそろえないと我々も仲間だと思われて滅ぼされるからな」
「かしこまりました。では、偵察兵にはそのように伝えさせていただきます」
兵が敬礼すると、そのまま部屋を出て行く。
そのあとにブライトは改めて頭を捻らせる。
「何か手のひらに踊らせれている気がするな。……おそらくあのラグゥの態度か。目の奥で笑っているような、そんな雰囲気を感じた。ただ、今のまま攻めたのでは我が兵も被害が甚大。手を打てるなら何か打っておきたいな」
◇■◇■◇■
「くくくっ、私の演技の前にブライトも信じ切っていたようだな」
「お見事にございます」
ラグゥは酒を飲みながら、部下に鼻高々に話していた。
「ただ、後々の障害になることは間違いない。こうなれば先生に話をつけておくしかないか」
「先生……でございますか?」
「あぁ、ちょうどよい、お前が話をしに言ってくれないか?」
「は、はい。かしこまりました。それでどちらに赴けばよろしいのですか?」
「なに、この町の外れに位置する小屋だ。大したことはない。この手紙を届けてくれるだけで良い」
ラグゥから手紙を受け取った兵はそのまま一礼して部屋を出て行く。
そのあと、残っていたラグゥがにやけ顔を浮かべていたことには気づかずに――。
◇
「……この小屋ですか」
町外れへとやってきた兵士。
ラグゥから聞いた場所には本当に小屋が建っていたものの、外観はボロボロでとても人が住んでいるようには思えない。
周りの草もすっかり伸びきっており、人が通った痕跡すらなく、物音は一つも聞こえずに、遠くで鳴いている鳥の声が聞こえていた。
「本当に人が住んでいるのでしょうか?」
首をかしげながら、軽く扉をノックする。
「すみません、ラグゥ様の使いの者ですが……」
声を上げるが、中からは何も音が聞こえない。
(留守なのだろうか?)
再度扉をノックしてみたがやはり返事が聞こえてくることはなかった。
「仕方がない。留守なら日を改めるか」
諦めた兵士が小屋から背を向けると、ギィィ……という音と共にゆっくりと扉が開いていた。
しかし、誰かが開けた……と言うわけでもなく、元々この扉が開いていただけのようだった。
このまま日を改めて家主が帰ってくるのを待つ方法もある。
ただ、開いた扉から見える中の様子からその考えは除外されてしまう。
荒らされた内装。
机や椅子はひっくり返り、大きく鋭いひっかき傷のようなものが多数ある。
そして、極めつけは嫌悪を催すような血なまぐさい臭いと、どす黒く滲んでいる模様だった。




