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貧乏国家の黒字改革〜金儲けのためなら手段を選ばない俺が、なぜか絶賛されている件について〜  作者: 空野進
第三章、国力を上げよう

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最終決戦その1

 帝国軍進行の報を受けたのはそれからすぐ後だった。

 シャロ達を集めると皆おおよその事態は察しているようで、いつものようなふざけた雰囲気はなかった。



「よく集まってくれた。皆も知っていると思うが帝国が攻めてきた」

「…ついに来たのですね」



 シャロは息をのんでいた。



「大丈夫よ、シャロちゃん。あなたは私が守るから」

「いや、その役目は俺のためにあるだろ!」



 自信たっぷりに言うマリナスに対して、ハーグが自身の胸を叩いて言う。



「け、喧嘩はダメですよ!?」



 会議中に言い争いになりかけ、シャロが止めていた。



「まぁシャロにはいろいろと協力してもらいたいがそれはあとからだな。だからそこも喧嘩をするのはあとからにしてくれ」

「ちっ、仕方ないな。今日はこのくらいに…ごほっ」



 ハーグが殴られて吹き飛ぶ。



「このくらいにしておいてあげるわ。シャロちゃんに感謝するのね」

「はぁ…、話を続けるぞ。というかここはポポルに説明してもらった方がいいな。頼めるか?」

「そうだね。それじゃあボクから説明するね」



 ポポルが広げてある地図に指差していく。



「まずはすでに友好関係を結んでる三カ国にはすでに連絡を入れてるよ。さすがにこの状態だと帝国も全軍をボクたちに向けることが出来ないからね。厳しい戦いには違いないけど戦えないことはないと思うよ」

「我のおかげだな」



 この辺りは魔王に協力してもらって転移魔法で使者を送ってもらった。

 シャロの食事券で手を貸してくれるのだから本当にありがたい限りだ。



「もう時間がないから第一波の防衛にはすぐに出向いてもらわないといけないんだけど、その隊長はシャロちゃんに頼みたいんだけどいいかな?」

「えっ、私ですか!?」



 シャロが驚き思わず俺の方を向いて聞き返していた。



「あぁ、シャロならギルドの面々もついて行くだろうから防衛にはちょうどいいんだ。行ってくれるか?」

「えっ? あっ…、も、もちろんアルフ様も一緒に――」

「いや、今回俺は別行動になる。代わりにシャロの側にはクリスについてもらうつもりだ。クリスはそれでいいか?」

「シャロ様の側なら安心できますね。もちろん構いませんよ」



 クリスは安堵した様子だった。

 前回はイグナーツとマリナスと魔王という三人もの癖の強い面々を任せたのだから、今回暴走しないシャロの補佐という役目はまさに天国とも言えるだろう。



「それなら私ももちろん…」

「いや、マリナスは今回、遠慮してもらうぞ」



 マリナスににらまれるが、今回は彼女の存在も重要なものなのでここは折れてもらわないといけない。

 だからこそ俺はマリナスだけに聞こえるように小声で言う。



「今回、一番の手柄をお前に任せようと思ってるんだが? それほどの手柄を上げたらきっとシャロも喜んでくれると思うんだけどな。それにポポルとは共に行動してもらうつもりなんだけど、マリナスが嫌がるなら代わりにハーグにでも頼むかな」



 それを言った瞬間にマリナスに肩を掴まれる。



「いたたたっ…」

「あんな奴に大事なポポルを任せられないわ。その代わりシャロちゃんを怪我でもさせる配置をしたら…殺すわよ」

「そんなことするはずないだろ。とにかく任せておけ。すでに策は弄してある。あとはシャロが加われば負けることもないだろう」



 なんとかマリナスと話を付けると時間もないので次へ行く。



「じゃあシャロ達とは別に動く遊撃隊なんだが――」




 ◇




 全員に指示を出し終えたあと、俺はため息をはく。

 するとそれを察していたのか、ポポルが声を掛けてくる。



「やっぱり心配?」

「シャロとはほとんどずっと二人でいたからな。こうして別行動をするとなると…やっぱり不安だな」

「大丈夫だよ。あの子もしっかりギルドマスターとして働いてるからね。結構みんなから慕われてるんだよ」

「そうだな。もちろんそれはわかってるんだけどな」

「あとはもうなるようになるよ。それにアルフ様にも大切な役目があるでしょ。それに危険な役目なんだから信頼できるシャロちゃんに任せるんでしょ」

「あぁ、シャロがどれだけ戦線を維持できるかで俺たちの動ける時間も変わるからな。一応戦場予想地には罠を仕掛けてはあるが――」

「少人数でしか動けないから戦力として数えられるボクたちが直接出向くわけだもんね。本当ならマリナスとか防衛に回したいところだけどね。その方がボクが安全だし

……」

「それは……諦めてくれ。必要な事だからな」

「わかってるよ。今回ばかりはマリナスの力が必要だからね。どんな危険でも対応できるように」

「確かにな。敵地に乗り込むわけだからいくら戦力があっても足りないほどだ」



 ポポルと二人笑い合っていたらシャロが扉から顔を覗かせる。



「あっ、アルフ様。ここにいたのですね。ポポルさんも。これからギルドでお食事でもと思ったのですが――」

「そうだな、行かせてもらうよ」

「うん、そうだね」




 ◇




 翌日からそれぞれ別行動を始めていた。

 そして、当然ながらシャロもギルドで冒険者達を集めていた。



「皆さん、集まっていただいてありがとうございます。皆さんに集まってもらったのには理由があります。あの…、その…、私からのお願いが…、ちょっと危険があるのですが…」

「俺たちに任せておけ!」

「クエストか!? 当然受けるぞ!」

「ふふっ、俺が一番乗りだ」



 すべてを言い切る前に賛同の声を上げてくれる。

 それを見たシャロは不安に思っていたのが馬鹿らしく思えて、笑みを浮かべる。



「ありがとうございます。その…、今帝国がこの国を攻めてきてまして、私が先遣隊の隊長として出向くことになりました。それで皆さんが一緒に来てくれたら頼もしいのだけど…」



 シャロの上目遣いを見た瞬間にギルド内がより一層強い歓声に包まれていた。



「ありがとうございます。では、この緊急クエストを受けてくれる人は名前を書いてください。あの…、多くの報酬は渡せないので無理はしないでほしいです。代わりに依頼中のお食事は私が作って――」

「俺が一番に書く!」

「待て! 俺が先だ」

「ぐっ…、ポポルがいなかったら私も――」

「はははっ、この俺がしっかりシャロ様を守るからマリーはせいぜい特別な仕事を頑張るんだな」



 ハーグが嬉しそうに意気揚々と依頼書に名前を書きに行く。



「それなら我も書いておくか」



 ハーグに続くようにどこからともなく魔王が姿を見せる。

 ただ、ギルド内では頻繁に姿を現すこともあり、すっかり慣れてしまっていたから騒ぎになることもなかった。



「えっ、お父さん!? 何でここにいるの!?」

「なんでってアルフから頼まれているからだあ。シャロを守ってくれとな」



 確かに個の戦力で考えるなら魔王は唯一無二の存在である。

 いくら帝国軍とは言えそう簡単に敗れないであろう。

 それだけ自分のことを心配してくれているのだろうと少し嬉しく思っていた。




 ◇




 人数が定まったらすぐにシャロ達はすぐに出発していた。

 メンバーはシャロ、魔王、ハーグ、クリス、ジャグラ、リナと冒険者が数十人。兵士たちも引き連れている。



「アルフ様、大丈夫かな…」

「さすがに絶対に大丈夫とは言えないな。しかしあやつなら大丈夫だろう」



 魔王の頼もしい言葉にシャロは苦笑いで返す。

 今回の作戦で一番の要となるのはアルフ達だった。

 シャロがここで相手先鋒を追い返したとしてもアルフ達がうまくいかないとじり貧して結局負けてしまうだろう。

 総合的な戦力差は覆せるものではないのだから。

 でも、そちらをいつまでも気にしていられる状況でもない。

 すでに目の前には帝国兵が隊を組んで控えていた。



「あれは…フルールさん?」



 帝国軍を率いてるのはどうやら彼女のようだった。

 知り合いである彼女が相手だとどうしてもやりにくいところはある。



「やはり其方がきたか。王国最強のシャロ」

「はい。…ふぇ!? さ、最強なんてそんなわけないですよ」

「謙遜するな。すでに其方の武功は帝国にも広まっている。正直この程度の兵でも足りないと思うが、力の限り当たらせてもらおう」

「えっと…、そ、そこは手加減してくれると…嬉しいです」

「ふふっ、その声を聞くと思わず手を抜きたくなるな」



 フルールは笑いながら指示を出す。

 最初は冒険者達の指揮が高く、拮抗した勝負をしていたが、次第に押されていく。



「やっぱり帝国はつよいです…」



 悔しそうに見守るしか出来ないシャロは口をかみしめていた。

 すると、魔法の一発がシャロの方へと飛んでくる。



「えっ!?」



 反応が遅れ、すぐ眼前まで魔法が迫っていた。

 とても避けきれずに手を前にして直撃だけはしないようにして、恐怖から目を閉じてしまう。

 しかし、いつまでも衝撃は襲ってこずに突然甲高い何かが割れるような音がする。



「な、何が?」



 目を開けると敵も味方も驚愕した目でシャロのことを見ていた。



「やはり最強。この程度じゃ傷一つ与えられないか」



 フルールは当然のように頷くが、シャロは一人蚊帳の外で苦笑を浮かべるしか出来なかった。

 その表情を見たフルールははっとなる。



「待て、これは罠だ! 皆下がれ!!」



 その言葉を皮切りに大きな爆発音が鳴り、帝国兵達がいる場所に大穴があく。



「えぇぇぇぇぇ!?!? な、何が?」



 シャロは本当に何が起きているかわからずに声を上げるがその手は先ほど身を守ろうとしたときのまま上げたままだった。

 そして、手のひらはちょうど大穴があいている方へと向いている。

 その姿と散々噂になっている前評判からこの大穴も含めてシャロがしたものと勘違いしてもおかしくはなかった。



「くくくっ、アルフから頼まれていたがまさかここまでうまくいくとはな」



 シャロの後ろで笑い声を上げる魔王。



「お、お父さん!?」



 シャロが魔王をぽかぽかと叩く。

 その微笑ましい光景とは裏腹に帝国兵達はシャロに怯えてしまっていた――。

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