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黒い霧  作者: 民間人。
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退屈しのぎの一団の話 9

 さぁて、みなさん、ご注目!旅は出会いと別れの繰り返しですよ!こんな陰気な時に出会ってしまったもの同士、陰気な一日も笑い飛ばしましょう!気持ちを切り替えますよ?いいですね!マルガレーテさん、その笑顔、とても美しいです!嗚呼、輝く宝石のようだ!ピョートルさんもそんな顔せず、是非是非話を聞いてください!先ほど述べた通り、旅は出会いと別れの繰り返し、一期一会でございます。私も散々旅をしてまいりましたから、よく女に騙されたものです。ヤン君、君も他人事ではないよ?今から教訓を話すから、しっかり聞いておくように。



 さて、男の一人旅というものはひどく寂しいものでして、私も干し肉を齧りながら枕を涙で濡らした時もありました。そんな時は人肌が恋しくなるものでして、何でも抱きたくなるものです。連れの馬車馬だって、何だってです。町に着くまで暫くある、ちょっと寂しい草原での出来事です。


 私はその日、ある都市を目指して旅をしておりました。目指すは明礬。川沿いの道を歩いていると、途中、羊飼いに出会いました。それはもう珍しい女の羊飼いでして、逞しい犬と共に、羊を連れて歩いていました。羊たちにすれ違うと、女は手を振って、私に挨拶をしてきました。


「こんにちは」


 私はニコニコと彼女に話しかけました。彼女は少し赤面して、嬉しそうにこんにちは、と返した。


 町の中なら金のことばかり考えている私ですが、実は中々ロマンチストでして、町の外では女性との出会いを待ちわびているのです。お恥ずかしいばかりですが、人との出会いを求めている私にとって、羊飼いの女に興味を惹かれない筈がありません。


 愚かな男は彼女に他愛ないはなしをして、羊飼いとのしばしの談笑を楽しみました。羊飼いは鈴を鳴らして、羊達を誘導します。私は欲望のままに彼女の身の上話を聞き、馬車に共に乗るようになりました。男と女はゆっくりと何もない草原を進んでいきます。羊飼いをさりげなく咳覗き込むと、その何とも儚げな横顔に心の高揚を隠せません。私はさりげなく水筒を手渡し、それを飲む彼女の姿に心癒されました。目的の町へたどり着くと、私は羊飼いと別れ、長い関所の行列でを待ちながら、いっときのロマンスに上の空でした。


 私の順番がやってくると、兵士達が私を見て、早くしろと急かしました。私は急いで荷物と中身を確認し、税を渡します。


「はい、次」


 兵士はさっさと次の荷馬車の中身を確認しだしました。私が市場へ向かう大通りを進んでいると、羊飼いの女性が走ってきました。


「あの、落し物ですよ」


 羊飼いの女性は私の財布を持っていました。少々不審に思いましたが、こんなあからさまなもの取りがいるとも思えず、商談用の笑顔を作りました。


「あぁ、ご親切にありがとうございます」


 私はそれを受け取り、羊飼いと別れた後、中身を確認しました。安い銅貨が一枚足りないことに気づきましたが、自分のポケットに一枚の銅貨があるのを見つけ、ホッとしました。



 市場の賑わいは、なかなかのものでした。私は大小様々な麦や毛皮を売り、明礬を仕入れました。フランスに行けば、明礬の価値は跳ね上がります。私はこの買い物に満足し、宿を探しました。すぐに部屋に篭ると、財布と帳簿を確認しながら金勘定をしました。やはり、金というものは商人の命です。金を数えることで、私たちは存在するといっても過言ではないのです。


財布の銀貨を数えて、念入りに被害総額を確認します。それ以外には特に被害はなく、ホッと一息つきました。


 気持ちを落ち着けるために、宿主に水をもらいに行きます。取り敢えず一銭になるかどうかもわからない小銭を店主に渡して、水差しを交換しました。店主の微妙な表情が、銅貨の価値を物語っています。

 水差しを持って部屋に戻る途中、或る女とすれ違いました。あとになってわかったことですが、このときすでに私は騙されていたのでした。そう、彼女が私を困らせるのです。部屋に戻ると、私は水差しから水を木のコップに注ぎ、今後の旅路を考えていましたが、どうも先ほどのの羊飼あいのことが気になり、羊飼いならば教会にいるだろうと、この町の教会に向かいました。


 宿の主人に挨拶をして、扉を開こうとした。すると、後ろからから声がした。


「あぁ、そこのお兄さん!ちょいと助けてくれないか?お礼はたんとするから」


 面倒なことに巻き込まれそうだと思い、スルーしようとしました。ところが、男は後ろからかけてきて、肩を叩きました。


「まぁまぁ待ってくださいな。ちょっと重いものを運ぶだけです。お礼はしますよ。ほら、店長さんも、お願いします」


 店長は銅貨の時と同じ微妙な表情をすると、小僧を呼んできました。


「小僧をよこしてくれるのかい?ありがたいねぇ、お駄賃あげる」


 そう言うと男は小僧に黒い銅貨を3枚握らせました。そのとき、小僧は店長の方を向いて、なんとも恨めしそうな顔をしていました。


 小僧と私と彼で運んだのは、大きな木箱で、金属の塊のように異様に重かったので、不審に思いました。


 幸い一階だったのですが、腰を痛めそうなほど移動して、彼の部屋に入った後は三人とも汗だくでむさ苦しくて仕方がありませんでした。死にそうな顔で、小僧が飛び出して行きました。


 彼は私を招き入れ、良い紅茶を出してくれました。


「いやぁ、ありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ美味しい紅茶をありがとうございます」


 紅茶を持っているということは、当然お金に余裕があるということですから、無下になどするはずがありません。私、商人ですから。彼の自慢話などを散々聞かされまして、相槌などを打ちながら軽く流していました。


「ところで、貴方は舞踏会など興味はございますか?実は私主催をさせていただいておりまして、よろしければ、お礼にでも」


 舞踏会を主催するというのですから、金持ちでないはずがありません。ましてそこにくる人など……。私は心を躍らせました。金持ちと関係を持つ機会など滅多にありません。これを受けない手などない、私は飛びつきました。


「本当ですか!ありがとうございます!是非参加したいです」


 男は嬉しそうに頷き、手続きをしておきます、と言って日付と場所を書いた用紙を貰いました。そこには、そのままでも有数のホテルの名が書かれていました。私は舞い上がり、その1日の取引でもうすでに大成功を収めたよう思いでした。私は舞踏会の準備のため、意気揚々と町へと出かけました。


 えー、大都市というのはだいたい市場が大変混み合っていまして、それはもう、息苦しいのですが、その日は取引も大変順調に進み、帳簿も財布も存分に溜まりましてね。私は浮かれ気分で、宿に戻りました。そして、約束の時間にその場所へ向かいました。



 さて、最も上等な服を着て向かった会場には、きらびやかな衣装を身に纏った紳士淑女たちがおり、私はそのどれも大事なお客様と、丁寧に挨拶をしました。優雅な踊りをするものも、不恰好な踊りをするものもおりましたが、何よりこの世のものとは思えぬ食事の美味いこと、美味いこと。貧乏丸出しで食い意地を張っていますと、くすくすと笑う声が聞こえて、後ろを振り返りました。きらびやかな衣装を着た女性がいました。白い肌で、高い鼻を持った美女でした。つい恥ずかしくなり、食べるのをやめると、彼女はクスクスと笑いながら、よく食べるんですね、と言いました。


「いやぁ、お恥ずかしい。貧乏人には勿体無いお食事ですね」


 私は商談用の笑みで切り返しました。彼女は、楽しそうに私に名前を尋ねました。


「ふふっ、私はエミリアというものです。貴方は?」


「私はマクシミリアンと申します。行商をしております。いやはや、こんなとこに来れるとは、夢のようですよ」


「そうなんですか。どうでしょう、一緒にに踊りませんか?」


 そう言って彼女が手を差し出してきます。私はその手を取り、人々の踊る場所へと向かいました。人々は微笑みながら優雅に踊っています。中央のメインステージに立つ先ほどの男は、楽しそうに女性を両腕に抱えながら、鼻の下を伸ばしています。分かっていたこととはいえ、なんとも醜いものですね!私も似たようなものですが!


「あの人のああいうところ、あまり好きじゃないの」


 彼女は小さな声で囁いた。私は笑顔を残したまま、ゆっくりと頷いた。


「あの男、ああやって大金をはたいているけれど、そのうち運も尽きるわよ」


「演技でもないこと言うもんじゃありませんよ」


「ごめんなさい。優しいんですね」


 彼女は恥ずかしそうに下を向きました。踊りながらこんな余裕を持てるのは、やはり慣れているからでしょうか。私はきらびやかな衣装を汚さないように気を使いながら、彼女の踊りを楽しみます。楽しい時間はすぐに過ぎてしまいました。


 舞踏会も後半に遡ると、彼女との会話は弾み、私たちは旧友のように仲良くなりました。各々のグラスも空き始め、紅い頬が椅子に腰掛けておりますと、彼女は突然時計を気にしだしました。用事があるのかな?と思い、彼女に問いかけようとすると、彼女は私の肩に寄りかかってきました。恥ずかしさのあまり、真っ赤にすると、彼女は虚ろな目でこう言いました。


「ごめんなさい、送ってくださいますせんか?近くの宿なのですが……」


 私はその表情のまま頷くと、私は案内の通りの場所へ向かいました。



 その場所へ向かうと、これまた見事な建物が建っており、私は思わず口を開いたまま、しばらく佇んでいました。彼女が私の方を虚ろな目で見てきたので、我に返った私はそのまま帰りました。紅い絨毯に彩られた廊下を進むと、正面には陽気な神々の春が見下ろしていました。また、案内の通りに部屋へ向かうと、学堂に一同に集まる哲学者たちが、何かを語り合っています。杉の扉に金の装飾が施された扉を開けると、彼女の部屋がありました。彼女の部屋へ上がり、彼女をベッドに座らせようとすると、硬いものが私の肩をぽん、と叩きました。


「あんさん、わいの連れに何したん?」


振り返ると、額に傷のある大男がこちらを見ていました。さすがに肝が冷えましたね、この時は。

私は彼女のほうを向きましたが、すやすやと眠っていました。私はここまでの経緯を話しました

「ふぅん、そうかい。嘘はいかんぞ?」


 大男は私の首根っこを掴むと、ひょい、と床の上に放り投げました。私が激痛にジタバタと悶えていると、男は私の上にかがみこみ、


「なぁ、あんさん?わいの連れにした事、謝ってくれんかいなぁ?今なら命は助けてやれるんやけど?」

 野太い声が静かに響きます。私は自分の腰から財布を取り出しました。その手はどこに差し出したのかよくわからないほどに震えていました。


 大男は財布を取り、そこから高価な銀貨を概ね取り出すと、ほんの少しだけ残して私に放り投げました。


「生活できる分は返したる。あんさんは出来心でやっただけやでな。ほな、さいなら」


そう言って襟を持ち上げられ、部屋の外に放り投げられました。財布の中身を確認すると、黒ずんだ銅貨と 純度の低い銀貨が幾らか身を寄せ合っていました。


 男の部屋から、女と男の嬉しそうな声が聞こえました。



「……お恥ずかしい限りですが」


 マクシミリアンは陽気に言いました。


「笑い話って言ってなかったかしら?」


 マルガレーテが言いました。ピョートルはお腹を抱えて笑っています。


「あれ?面白くありませんか?」


 マクシミリアンは目を丸くしました。


「でも気持ちはわからなくはねぇ、くくっ……お前案外バカなんだな」


 ピョートルは嬉しそうに机を叩いて笑っています。マクシミリアンはニコニコとしながら、その様子を見ています。


 コホン、というアブラヒムのせきばらいに一同は再びアブラヒムを見ました。


「まぁ、女性も男性も、ハニートラップは気をつけるように。次は私ですが、テーマは自由テーマですね。この町にあるちょっとした噂でも、話しましょうか……」


 そう言うと、アブラヒムはのんびりと伸びをした後、彼らの前に手を差し出しました。


「手が伸びる事、知ってますかな?」


 そう言って、突然ピンと伸ばした手を前に差し出した。


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