41話
わたくしはラウル様の実家であるラルフローレン公爵邸を訪れていた。
すぐにルドルフがラウル様の私室に案内してくれる。陛下と父の命で来た事を告げると「若様をお願いします」と頭を下げられた。これには応庸に頷いておく。
わたくしはラウル様の私室に入る。中は上品に整えられているが。空気は暗く悲しげに感じられた。
壁際に控えていた侍女にラウル様の寝室に入る旨を伝えた。
「……まあ。若様の寝室にですか。鍵は掛けていませんので。お入りください」
「ありがとう」
礼を言い、寝室に繋がるドアを開けた。かちゃりと後ろ手にドアを閉める。
寝室の中はカーテンが閉め切ってあり薄暗い。わたくしは部屋の中央にあるベットに近づいた。
天蓋付きのベットでその薄布を手でどけてラウル様にさらに近寄る。淡い金色の髪が見えた。
わたくしはベットに力なく横たわるラウル様を見て涙が目に滲んだ。
「……ラウル様。遅くなってごめんなさい。来ましたよ」
小さな声で囁き、彼の傍らに寄り髪にそっと触れる。
柔らかながらもさらりとした髪は触り心地は良い。が、反応は返ってこない。
それに少しばかり胸が痛んだ。それでも目を閉じて傷の場所を調べた。視えたのは左側の脇腹から背中に至る斜めに走った切り傷だ。
とても深くさらに嫌な黒い霧のような物もある。これは毒というより呪いだ。
わたくしはすぐにまず、呪いを解くために聖魔法の呪文を唱える。
「……我、今光の精霊に請い願う。かの者の呪いを解き給え。祓い給え。ラルシャールよ、我シェリア・フィーラの声に応えよ!」
だめ押しとばかりに自分の名を言う。
たちまち、部屋に銀と金の眩い光が満ちる。それはわたくしとラウル様を包んだ。しばらくしてそれは消え、銀の髪と金の瞳を持つ若い青年が現れた。
『久しぶりだな。我が神子ーシェリア』
「お久しぶりです。ラル様」
『で、我を呼び出したということは。願いがあるのかな?』
「ええ。そちらにわたくしの婚約者の方がいるでしょう。ラウル様といって呪いをかけられています。その呪いを解いてください」
『わかった。シェリアの願いだ。叶えよう』
ラルシャールことラル様はラウル様の左側の脇腹に手を当てる。
『ラウルの呪いを解かむ。今、光の精霊ラルシャールの名のもとにかの者を癒せ!』
ラウル様の体が銀と金の光に再び包まれた。
少し経ってから目を開けるとラルシャール様の姿は消えている。ただ、ラウル様の顔色を伺うと先ほどよりも良くなっていた。血色が戻ってきている。
次に回復の術を続けて掛けた。
「水の精霊のルフレよ。かの者を癒し給え。我の声に応えよ」
淡い水色の燐光がラウル様を包んだ。わたくしは脇腹の傷に両手を当てた。
ルフレの淡い水色の燐光はたちまちラウル様の体に吸い込まれていく。手を離すと癒しの術と解呪は終わった。
わたくしはふうと息をついて寝室から応接間に出る。侍女に声をかけた。
「……解呪と回復術は掛けておきました。奥様のレアン様に知らせて」
「え。はい。今からお伝えしてきます」
侍女はそう言うと急いでラウル様の私室を出て行った。
わたくしはそれを見送ったのだった。
その後、レアン様がすぐにやってきた。わたくしはラウル様の呪いを解き、傷の回復術も掛けたことを伝えた。レアン様は泣きながらお礼を言ってくれた。
「……ありがとう。あなたが来てくれなかったら手遅れになるところでした」
「お礼には及びません。それにまだ、ライザーおじ様の治癒がまだです。案内をしていただけますか?」
「わかった。わたしが案内するわ。付いてきて」
レアン様はそう言うとわたくしを夫婦の寝室に案内してくれた。
寝室に入るとラウル様の時よりも強い呪いの気配を感じる。どうしてかと思いながらもライザーおじ様が横たわるベットに近づいた。
レアン様も付いてくる。すぐ横に立ち、ライザーおじ様の肩の辺りに触れた。
傷口は腹と左腕にある。わたくしはすぐにもう一度、ラルシャール様を呼び出して呪いを解いてもらう。
『シェリア。この人は先ほどの奴よりも呪いが強い。魔力を先ほどよりも消費する事になる。それでもよいのか?』
「かまいません。解いてください」
『……仕方ないな。やるよ』
ラルシャール様はため息をつきながらもライザーおじ様の呪いも解く。銀と金の先ほどよりも強い光の奔流が起こる。目を閉じた。
少し経ってラルシャール様の姿は消えている。ライザーおじ様に続けて回復術もかけた。腹の傷口を癒してから腕も同様にする。
「……レアン様。ライザーおじ様の治癒と解呪も終わりました」
「まあ。ありがとう。シェリアさん、何とお礼を言っていいか!」
レアン様がわたくしに駆け寄りそっと抱き寄せられた。柔らかな温もりに力が抜けてへたり込んでしまう。
レアン様はわたくしから離れると心配そうに声をかけてきた。
「シェリアさん。大丈夫?!」
「はい。緊張が解けたら腰が抜けてしまいまして」
そう言うとレアン様は見かけによらない強い力で助け上げてくれた。お礼を言い、立ち上がったのだった。




