39話
わたくしはラウル様から詳しく説明された。
「その。エルジェベータ様の父君もアリシアーナ様の横暴さにはうんざりしていたようでね。しかも私やシェリアの結婚まで横やりを入れようとした。陛下やエリック殿下もさすがに彼女の専横が度を過ぎていると気づいたようだ。それでエルジェベータ様の計画に協力する気になったんだろう」
「そうだったんですか。エルジェベータ様はなかなかに賢いお方ですね」
「だと思うよ。私相手に堂々と「アリシアーナ様に横恋慕はしていませんね?」ときいてきたくらいだし。彼女は肝が据わっているね」
ラウル様が珍しく誉めているので意外に思った。
「ラウル様が誉めるだなんて珍しいですね」
「そんなことはないよ。ただ、エルジェベータ様は女性に生まれたのが不運だったね。男に生まれていたら宰相にもなれていたのにとは思うよ」
「はあ。確かにエルジェベータ様は王妃というより宰相向きといえそうですけど」
わたくしはそう言いながらも顔を俯けた。ラウル様がまっすぐに見つめるのを感じた。
「…シェリア。そんなに落ち込まなくても。私は一般論を言っただけだよ」
「ですけど。他の女性を誉められて良い気分はしません」
口を尖らせながら言った。するとラウル様はくすくすと笑い出す。
「シェリア。君、可愛い所があるね。エルジェベータ様の事はただの甥っ子の奥方で取引相手としか見てないよ」
「笑うのはさすがにひどいと思いますけど」
「ごめんって。本当に彼女の事は何とも思ってないから」
ラウル様が機嫌を取るためにわたくしの頭に手を置く。優しく撫でられた。
「シェリア。君は私の婚約者で初恋の人なんだ。そこは自信を持ってくれていいんだよ」
「…わかりました。疑ったりしてごめんなさい」
謝ると余計に撫でられた。仕方なくそのままでいたのだった。
その後、ラウル様は片付けたい要件ができたと言って再び王城に出かけて行った。それを自室の窓から見送る。エルジェベータ様や陛下と話すのだろうか。そう思いながら応接間のソファに座る。
「お嬢様。ラウル様は大丈夫ですよ」
そう言ってメイアがわたくしの前にランジュという薬草が混ぜられたハーブティー入りのカップを置く。薬草らしい苦みのある香りが部屋に漂う。
わたくしは無言でカップを手に取るとハーブティーを口に含んだ。ほんのりと苦みと酸味が混じって口内に広がる。すうと鼻から抜けるような清涼感も相まって気分を落ち着かせてくれた。
「…メイア。わたくし、ラウル様を疑ってはいないわ。ただ心配なの」
「そうですか。ラウル様はお嬢様を心配なさっていました。アリシアーナ様の事では随分と嫌な思いをしているからと」
「まあ、かなり嫌な思いをさせられたわ。でも終わった事よ」
そう言ってまたハーブティーを飲み込んだ。メイアが心配そうにわたくしを見つめる。ただ、静かに夕暮れ時へと時間は進んでいったのだった。
翌日、わたくしはいつも通りの時間に起きた。メイアに手伝われながら身支度をする。鏡台の前でメイアがわたくしの髪を結い上げていた。
不意にドアがどんどんとノックされる。とっさにメイアが髪を結い上げていた手を止めた。
視線だけでどうするかと問われる。わたくしは小さく頷いて答えた。それを是と受け取ったメイアがドアを開けに行く。
ドアを開けるとメイアの同僚のメリルという若い侍女が駆け込んできた。息を切らせながらもわたくしの近くまで来る。
ゆっくりと振り返りメリルに問いかけた。
「どうしたの。メリル?」
「あ。突然、押し掛けてしまい申し訳ありません!」
「謝るのは後でもいいわ。それより、息を切らしているけど。どうしたの。何かあったの?」
冷静に問いかけるとメリルは深呼吸をした。そうしてからこう言った。
「大変なんです。王城でラウル様とラルフローレン公爵様が怪我をなさって。何でも陛下も腕を負傷なさったとか。側妃のアリシアーナ様が主犯だと疑われて捕らわれたそうです!」
「…な。ラウル様が怪我をなさった?」
「ああ、どうしましょう。ラウル様は剣で脇腹を切りつけられたとか。傷は深いと聞きました」
わたくしは視界が暗くなるのを感じた。ラウル様が大怪我をした?嘘だわ、そんなの。
「お嬢様?!」
メリルとメイアの呼びかける声を最後にわたくしの意識は途切れたのだった。




