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38話

わたくしがフィーラ公爵邸ー自邸に帰ってから丸一日が経った。


日付は変わり今は翌日の昼間だ。置き時計の短針は午後二時半を指している。フォルド王国では置き時計はかなり高価な品だ。豪商か貴族でもなければ持てない。

大体、時間は二十三時間が一日となっている。一週間が六日で一ヶ月は三十日間と定められていた。

一年が三百六十日だ。今は晩夏となっている。八月の終わりになっていた。ラウル様と婚約してから半年を過ぎ、十ヶ月に入ろうとしていた。もう一年が近くてウェディングドレスの準備もできていた。後は賓客に送る招待状の作成が残るのみだ。

それもラウル様と二人でしたが。わたくしは言われた通りにするだけでほとんど手がけたのは彼であった。



フィーラ公爵邸にラウル様がやってきたのは晩夏の八月の下旬だった。わたくしは両親と兄の四人で迎える。

「今日はようこそおいでくださいました。ラウル様」

父が笑顔で言うとラウル様もにこやかに応じた。

「ええ。お久しぶりです。フィーラ公爵」

「いやいや。ラウル様であれば、いつでも歓迎しますよ。シェリアも喜びます」

「ならいいのですが」

「まあ、立ち話も何ですから。サロンへどうぞ」

父がラウル様にサロンへどうぞと促した。わたくしも両親に続いてサロンに向かった。執事がドアを開けると父を先頭にして入る。

「さ。ラウル様、ソファへどうぞ」

父が言うとラウル様は中へ入って示されたソファに座った。母とわたくしも入った。

父は母と二人でわたくしの正面にあるソファに座る。ラウル様とわたくしがその向かいに座った。

「フィーラ公爵。式の日が決まりましたので。お知らせに上がりました」

「ほう。もうそんな時期になっていましたか。ではいつになりましたかな?」

「そうですね。九月の上旬に決まりました。まだ残暑がある中ですが。早めにわたしもシェリアとは結婚をすませておきたいですし」

さらりと言われて頬が熱くなった。

「…ははっ。ラウル様はシェリアを本当に好きなのですな。だが、結婚を急ぎたいのは離宮のお方の件が絡んでいますか?」

父は笑いながらもなかなか鋭い質問をした。が、ラウル様は臆することなく頷く。

「ええ。王宮でかの側妃殿が専横を極めています。正妃様はそれをひどく案じておられて。わたしに依頼をなさいました」

ラウル様はにこやかに笑いながら言った。わたくしは正妃様ときいてすぐにエルジェベータ様を思い出した。側妃はアリシアーナ様の事だろうか。

父はラウル様としばらくその事で話し合った。その後、話が終わるとわたくしの部屋に一緒に向かったのだった。



「ラウル様。結婚を急いだのはアリシアーナ様の事が関係していますね?」

部屋にたどり着いて早速ラウル様に訊いてみた。ラウル様は驚いたらしく目を見開いた。

「え。君、側妃と聞いただけでアリシアーナ様だとわかったのかい?」

「実は数日前でしたか。王城に陛下からお招きを受けて行っていたんです。その時に王妃様とエリック殿下の正妃の方とも会いました。エルジェベータ様といって。その方に「ラウル様と早めに結婚してくれたらアリシアーナ様を追い落とす」と言われました」

「へえ。そういう事があったんだね。私にもエルジェベータ様からお招きがあったんだ。で、陛下と王妃様も合わせた四人で王城にて会った。彼女から頼まれたよ。アリシアーナ様とエリック殿下を引き離すためにも協力してほしいとね」

ラウル様は苦笑しながら説明してくれた。エルジェベータ様の大胆さにはわたくしも驚きを禁じ得なかった。

「エルジェベータ様はラウル様にもお願いしたのですね。なかなかに用意周到な方だわ」

「ううむ。どうだろうね。エルジェベータ様は焦っている感じだったよ」

「そうでしょうか。わたくしはそうは思いませんでしたけど。ただ、エルジェベータ様は何でそんなにわたくしとラウル様の結婚にこだわるのでしょう」

そう疑問を口にするとラウル様は考え込みながら言った。

「…たぶん、アリシアーナ様がエリック殿下がダメだったら。私に鞍替えする可能性があると考えたんじゃないかな。もちろん、エリック殿下には弟君が二人おられるから彼がダメになっても代わりはいる。第二王子が十三歳で第三王子は十歳だからアリシアーナ様より年下だがね」

「それってつまり。ラウル様を王族に復帰させてアリシアーナ様が正妃になるという事ですか。そんなことになったら陛下やエリック殿下と対立して逆賊扱いになりかねません」

わたくしが言うとラウル様は頷いた。

「そう。エルジェベータ様や陛下方が恐れているのはそこだよ。アリシアーナ様は私に精神操作の術をかけようと近づいてきた事があった。さすがにいち早く気づいて無効の術で我が身を守ったが」

そうだったのかとまた驚いてしまう。わたくしはラウル様が無事だったことに安堵したのだった。

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