34話
スーザンとしばらく話した。
彼女は夕刻になると息子がぐずるからと自邸に帰っていった。わたくしは部屋の窓から見送る。寄木細工の小箱が机に置かれていてそれを手に取った。
(ラウル様にはお礼を言わないと。それにしたって不思議だわ。東方土産をわたくしにくれるだなんて)
ふうむとうなりながら小箱を机に戻した。
ドアがふいに鳴らされてメイアが中に入ってくる。
「お嬢様。スーザン様がお帰りになりました。後、父君様が夕食を一緒にどうかと仰せです。いかがなさいますか?」
「あら。父様が珍しいわね。わかった、一緒にと伝えて」
「わかりました。ではお伝えしてきますね」
メイアはそう言ってドアを閉めた。わたくしはさてと窓に再び視線を戻す。空は夕焼けになっていて部屋の中は薄暗くなりつつあった。わたくしは明日が待ち遠しいと思う。
アリシアーナ様やエリック様の事では罰当たりなことを考えてしまったが。けど、あれがわたくしの本心なのだと気がついた。
ため息をつきそうになって我慢したのだった。
翌日はラウル様がわたくしの邸を訪れた。昨日、アリシアーナ様の事をスーザンから聞いたと話した。すると、困ったようにラウル様は笑う。
「おや。スーザン嬢から聞いたんだね。まあ、仕方ないか。彼女もシェリアが何も知らないままでいてもいけないと思ったんだろう」
「それで話してくれたんですね。けど、ラウル様から教えてくださってもよかったのに」
「ううむ。それはちょっと。私からは言いづらいよ」
わたくしはむうと眉を吊り上げて睨んだ。ラウル様は頭をぽんぽんと撫でながら怒らないでと言う。
「ラウル様。わたくしは子供ではありません。アリシアーナ様がわたくしの悪い噂を流していた事は薄々勘づいていました。ただ、スーザンだけでなくわたくしにも教えてくれていたら何らかの手の打ちようもあったのに」
「…シェリア。じゃあ、聞くけど。エリックとの婚約が解消されなかったらどうしたの。私と結婚はできなかったかもしれない。アリシアーナ嬢と彼を共有する未来が待っていたかもしれないよ?」
「ラウル様?」
「そうなったら私は謀反を起こしていたよ。エリックを廃嫡して君を無理に手に入れようとしていたかもな。君を誰の目にも触れないようにして」
ラウル様は口元は笑っているが目は笑っていない。冷え冷えとした昏い目でこちらを見ている。これは本気だとわたくしの警鐘が鳴った。
「…ラウル様。余計な事を言いました。ごめんなさい」
わたくしは謝った。ラウル様は苦笑して頭から手を離す。
「シェリア。こっちこそごめん。余計な事を言ったね。じゃあ、下に降りようか。夕食を食べて帰るよ」
それに頷いてメイアに目配せをした。すぐに部屋を出てメイアは下に降りていく。わたくしはラウル様と一階の食堂に向かったのだった。
夕食を食べ終えるとラウル様は自邸に帰っていく。それを門で執事と見送った後、父の執務室に向かう。昨日に話があるからと言われていたからだ。
父の執務室にたどり着くとドアを一緒に付いてきていた執事がノックする。父からの許可の返事があったので自分でドアを開けた。
「父様。お話があるからとの事で来ました。何かご用でしょうか?」
「ああ、シェリア。ちょっと陛下から手紙が届いてな。その事で話したかったんだが」
「はあ。お手紙ですか」
「うん。ちょっとこちらへ来なさい」
父に手招きをされてわたくしは執務机の脇にあった椅子に腰掛けた。
「シェリア。実はな、陛下からわたしやお前に依頼があった。何でもエリック殿下とアリシアーナ様との間にはまだ御子が生まれていない。そこでラウル様とお前の間に子供が生まれたら。養子にしたいとあった。もしくは娘であったら次代の王の妃にしたいとな。どうする?」
「え。わたくしとラウル様の間に子供が生まれたら養子に?それは本当ですか?」
「ああ。そう書いてある。陛下はな、エリック殿下にアリシアーナ様以外の身分の高いご令嬢を正妃に据えるおつもりだ。お相手はもう決まっていてな。アルタ侯爵家のエルジェベータ嬢だ。彼女との間に王子が生まれたらお前の娘を婚約者にせめてしたいらしい。シェリア、ラウル様にはお前から話してほしい」
「…ふう。エリック殿下はどこまでいってもわたくしに纏わりついてくるのね。でもまあ、もし娘が生まれたら王子のお相手にというのはわからなくもないですね。わかりました、ラウル様にもお話はしておきます」
「そうしてくれ。すまんな、シェリア」
わたくしはいいえ、気にしないでくださいと微笑んだ。疲れたように父がため息をつく。わたくしは一礼をすると執務室を出たのだった。




