33話
あれから、二カ月が過ぎた。
もう、結婚式まで数日しかない。ウエディングドレスの準備や結婚式の会場の下見などは済ませている。後は待つだけになっていた。
メイアがスーザンを先導してやってきた。
「シェリア。こうしてこちらで会えるのも残り少なくなったわね。結婚式が終わったらラルフローレン公爵邸に移るのでしょう?」
「ええ。そのつもりでいるわ。けど、実家には月に一度くらいは帰ってきていいと両親が言ってくれたの。だから、スーザンもそんなに寂しがらなくてもいいわよ」
「…あら。ばれていたのね。けど、そうね。ラルフローレン公爵邸にも予定が空けば、遊びに行くわ。そのつもりでいてちょうだいね」
「わかった。いつでも遊びに来て。スーザン」
「ふふ。でも、私があんまりシェリアを独り占めしていたら後が怖いわね。公爵閣下はヤキモチ焼きのようだから」
スーザンはわたくしに悪戯っぽく笑った。何のことかわからないが。ラウル様がヤキモチ焼きなのは本当なので頷いてはおいた。
「シェリア。お嫁に行っても私は友人だから。それは言っておきたくて。あなたが学園で悪役令嬢だと言われていた時は馬鹿らしいと思っていたわ。それにその噂を流したのはアリシアーナ様よ。言うのをつい忘れていたの。ごめんなさい」
そう言うとスーザンは頭を下げた。申し訳なさそうな表情で言われてわたくしは混乱した。
「え。わたくしが悪役令嬢だと言われていたのは聞いていたけど。噂を流していたのはアリシアーナ様だったの?」
「そうよ。私はラウル様から聞いて知っていたの。けど、口止めをされていたから言うに言えなくて。本当にごめんなさいね」
スーザンは先ほどよりも頭を深く下げる。わたくしは複雑になりながらも彼女に頭を上げてほしいと言った。
「スーザン。黙っていた事は悪いことではあるけど。ラウル様が口止めなさっていたのなら仕方ないわ。わたくしは怒っていないから」
「本当に?」
「ええ。ただ、驚きはしたわ。アリシアーナ様がそんなことをしていたとはって」
わたくしが言うとスーザンはやっと下げていた頭を上げた。目を見開いて何故といった表情をしている。
「…スーザン。アリシアーナ様やエリック様の事はわたくしにとってはもう昔の事なの。あの人たちがどうなろうともわたくしには何もできないわ」
「シェリア…」
「だから、スーザンも気にしないで。わたくしは今の事を考えたい。ラウル様との事をね」
そこまで言うとスーザンはくすりと笑った。「わかったわ。まあ、あの人にのめりこんでしまったのはエリック殿下の方だもの。アリシアーナ様が身分や財産目当てで近づいてきた事に気づかなかったのは殿下に非があるわ」
スーザンは人の悪い笑顔で言う。わたくしもそれには同意した。
「確かにそうね。いずれはアリシアーナ様の化けの皮も剥がれるわ。確か、彼女は正妃候補にはなれたけど。王妃教育をさぼりがちで王妃陛下がたいそうお怒りだと聞いたわ。ラウル様も今回は助けないとおっしゃっていたし」
「そう。アリシアーナ様、大変ではあるだろうけど。同情はしないわ」
スーザンはそう言ってティーカップを手に取る。静かに紅茶を飲む。わたくしも茶菓子を食べながらアリシアーナ様がエリック様以外の男子生徒ー例えば、当時の騎士団団長の子息や宰相の子息、筆頭公爵家の嫡男のお三方とも親しくしていた事を思い出す。ふうとため息をつく。
わたくしは注意や警告はした。けど、アリシアーナ様は一切聞く耳を持たなかった。だから、彼女が悪い。
王妃になりたければ、わたくしが受けてきた厳しい教育を受けないといけなくなる。しかも、短期間の間にだ。アリシアーナ様、あなたはその覚悟があったの?わたくしであっても音をあげるくらいに過酷なものだったのに。
馬鹿な人だわ、あなたは。せめて、宰相の子息辺りで満足していればいいものを。わたくしは胸中で毒づいた。スーザンと二人して苦笑したのだった。




