29話
わたくしがエメラルド夫人からの手紙を読んでみるとこう書いてあった。
<シェリア様へ
また、お手紙を送ってきて驚かれているでしょうか。
実は娘のエリカの代わりにフィーラ公爵邸を訪問しようかと思い、このようにお送りしました。本当に母君のシンディ様にも申し訳ないと思っていまして。そこで一人だと不安なので息子、つまりはエリカの兄のエルトンと一緒にそちらへ行こうと考えています。
もしよろしければ、母君にお伝えいただけると有難いです。
また、父君の公爵様にもよろしくおっしゃっていただけらと思います。
では、失礼致します。
エメラルド・スゥリエ>
そう書いてあってわたくしは驚いてしまう。まさか、エメラルド夫人が我が家に来ようと考えていたことにだ。しかも、ご子息のエルトン様といったらわたくしより一歳上の方だったはずで。
確か、背が高くてすらりとした爽やかな感じの青年だという記憶がある。
髪の色はエリカ嬢に似て栗毛色で瞳は母君と似た薄緑色のラウル様やエリック王子に負けない美男子だった。学園に通っていた頃、上級生になかなかの爽やか好青年がいると噂になっていた。
それがあのエリカ嬢の兄君だったとは。意外さになるほどねと苦笑が浮かぶ。
エメラルド夫人からの手紙を持って椅子から立ち上がる。母に知らせるためにだ。
母の私室に向かったのだった。
「あら、シェリア。あなたから来てくれるなんて珍しいわね」
私室に着いて応接間に入ると母がそう声をかけてきた。
「ええ。母様にご用があって。それで来たんです」
「わたしに用?」
「はい。実はスゥリエ侯爵家からわたくし宛に手紙が届きまして。差出主はエメラルド様です」
簡潔に言うと母は目を見開いた。
「あら、あなた宛にね。エメラルド様が珍しいわねえ」
「手紙にはフィーラ公爵邸をご子息のエルトン様と訪問したいとありました。エリカ様の事でお詫びをしたいと思っておいでのようです」
そう言うと母はふうむと考える素振りをした。
少し経ってから母は告げた。
「…そうね。エメラルド様とエルトン様にはこちらにいらしていただいても構わないわ。まあ、スゥリエ侯爵様やエリカさんが来るというわけにもいかないでしょうしね」
母の言葉にわたくしも確かにと頷いた。本人が来るのが良いのだろうけど。
それだとやりづらいとあちらは判断したのかもしれない。だから、母君と兄君が行くということになったのだろう。
かなり甘いと思うがエメラルド夫人なりの考えがあるという事なのだろうか。わたくしはそう思いながらも母に手紙を手渡した。
母はエメラルド夫人からの手紙を読んで眉間にしわを寄せた。どうしたのかと首を傾げるとああもうと額に手を当てて嘆くように呟く。
「…エメラルド様もお気の毒に。あんな馬鹿娘の代わりにわたしやシェリアに謝りに来るとは。ご子息まで同伴してどうなさったのやら」
ぶつぶつとぼやきながら母はふうとため息をついた。
「母様?」
「ああ。シェリア、ごめんなさいね。エメラルド様がこちらに来るとあったから驚いてしまって」
「はあ。驚いてしまったんですか。ご子息のエルトン様はわたくしも存じていますし。けどエリカ嬢もいらしたっていいのにとは思います」
わたくしがそう言うと母はそうねえと苦笑しながら扇で口元を隠した。
「確かにエリカさんがこちらに来るべきよ。けど、父君のスゥリエ侯爵は彼女に甘いらしいから。エメラルド様がエリカさんを我が家に行かせるべきだと訴えても聞き入れてはくれなかったんでしょうね」
なかなかに一筋縄ではいかない相手らしいのは母の言葉でわかった。まさか、スゥリエ侯爵が娘に甘ヶだったとは。エメラルド夫人は夫君や娘の扱いに困っているらしい。
そうわたくしは頭の中で結論づけながら母にきいた。
「母様。その、ご子息のエルトン様はどんな性格なのかはご存じありませんか?」
「ああ。エルトン様の事が気になるのね。何度かお会いした事はあるわ。そうね、物腰穏やかでなかなかに真面目な方よ。父君に性格は似ているかしら」
母は笑いながら説明をしてくれる。わたくしは頷きながらエルトン様の面影を思い浮かべた。
爽やかで穏やかな感じの方だった。遠目でしか見かけた事はないが。
友人のスーザンはスゥリエ家と家格が同じくらいの侯爵家の出身だからかエルトン様の事は知っていた。
わたくしは母とエメラルド様へのお返事をどう書くかを話し合ったのだった。スーザンにもエリカ嬢やエルトン様の情報について尋ねてみようと決めた。




