24話
その後、ラウル様は自邸へと帰って行った。わたくしと父に母、兄に執事やメイアの六人で見送る。
馬車が遠くなるとメイアと兄がこちらをいい笑顔で見つめていた。冷や汗が出る。
「…今日は随分と起きるのが遅かったじゃないか。何かあったね?」
兄が言えばメイアもこちらを見つめてきた。
「トーマス様は心配なさっていたんですよ。なかなか、起きてこられないし寝室の鍵がかかっていましたし。ラウル様が何かなさったんだろうとは思いますけど。お嬢様、後でじっくりとお話しましょう」
「よくわかりましたね。まあ、時間が掛かってしまったのは否定できませんけど」
わたくしは本日三度目のため息をついた。兄とメイアは二人してにやりと笑ったのだった。
その後、わたくしはサロンに呼ばれた。そこには兄とメイア、母が座っている。嫌な予感がした。
「…シェリア。昨日の事はトーマスとメイアに聞いたわ。何でもラウル様と一晩を過ごしたんですって?」
「あの。母様、ラウル様とは別々の部屋で休みましたから。大丈夫でしたよ」
わたくしは焦りながらも言った。けど、母はふっと鼻で笑う。
「あなたも甘いわね。男を調子に乗らせると後が困るわよ。シェリア、悪役と学園で噂されていたくらいなのだから手玉に取るくらいでなくては駄目だわ」
「か、母様」
わたくしが慌てて言うも母は手に持っていた扇を持っていない方の手に打ち付ける。ぱしんと音がした。
「いいことシェリア。 ラウル様は見かけによらずなかなかに独占欲が強い方よ。あの方を操縦するのは難しいと思うわ」
「…母様。ラウル様は焼きもちやきではいらっしゃいますけど。操縦が難しいというのはちょっと…」
「シェリア。甘くってよ。男というのはうまく操縦してこそなの。旦那様も若い頃は浮気がひどくてね。しょっちゅう喧嘩していたわ。それで家出をしてやったの。半年は帰らなかったわ」
それは操縦とは言わないのでは?とわたくしは言いたくなったが。かろうじて黙っておいた。
「半年の間にあなたを身ごもった事がわかったからさすがに戻ったけど。旦那様には土下座をさせて謝らせたけどね。シェリアを身ごもって四月の間、旦那様とは別々の寝室で眠ってもらったわ」
「そうだったんですか」
わたくしが相づちを打つと母はふうとため息をついた。
「さすがにあなたが生まれて半年後くらいに旦那様から寝室を一緒にしてくれと言われてね。仕方なしに同じ寝室で眠るようになったけど」
初めて聞く話にわたくしは天井を仰いだ。父よ、一体どれだけ浮気したのか!母が家出したくらいだからよっぽど腹に据えかねたのだろう。
「だから、シェリア。ラウル様が浮気した時は母に言いなさい。後、ラルフローレン公爵夫妻にもね。ライザー様とレアン様だったら聞いてくださるわ」
そう言いながらわたくしの手をしっかと握った。返答に困ったのだった。
その後、母との話も終わりわたくしは自室に戻った。メイアや他の侍女が近寄ってきて着替えを手伝ってくれる。髪につけていたヴァレッタを外して薄化粧も落とした。
楽なベージュの足首丈のワンピースに薄紅色のカーディガンを羽織る。柔らかな部屋履きを履いてソファに落ち着いた。
「お嬢様。奥様のお話はあまり気になさいますな」
メイアがそう言ってきた。わたくしは苦笑しながら答える。
「あまり気にしていないから大丈夫よ。むしろ、参考になったかしら」
「だったらよいのですけど」
メイアはそう言いながらもハーブティーを淹れる準備を始めた。わたくしはふうとため息をつきながらソファの背もたれに寄りかかった。色々あって疲れる一日だった。




