22話
わたくしはラウル様とゆったりとした時間を過ごした。婚約してから早くも三ヶ月が来ようとしている。結婚式に向けてドレスの仕立てや招待状の準備、式場の確保に式を挙げた後に移るラルフローレン公爵邸に運び込む荷物などやらなければならない事は多かった。
それを思い出してうんざりとなってしまう。ラウル様の方がやらなければならない事はわたくしよりも多岐に渡り大変なはずだが。
彼はそれを表情に出さない。それでも、何となく疲れているのはよく見ればわかる。最近わかったことだが。
あれから、一週間が過ぎた。ラウル様と今日は自邸に庭園を散策している。庭園には春に咲く花々が目を楽しませてくれていた。
「…シェリア。今日も泊まらせてもらってもいいかな?」
ふと、ラウル様が尋ねてきた。わたくしはえっと固まってしまう。
「今日もですか?」
そう聞き返すのがやっとだった。ラウル様はいい笑顔でのたまう。
「ああ。一回は私の邸で君に泊まってもらった事があったけど。あの時は一緒の部屋で休めなかったしね」
「…ラウル様。婚姻前の男女が同衾するのはいけないと思います。わたくし、父様に反対される気しかしません」
「そうかな。一回君の寝顔が見たかったんだ。それに夫婦になれば、毎日寝室を一緒にするわけだし。今の内に慣れておいてもいいと思うな」
ラウル様の言葉に顔に熱が集まる。とんでも発言を今された。
「ラウル様。冗談でもそんな事をおっしゃらないでください。そりゃあ、夫婦になれば寝室は一緒になりますけど。心の準備がまだできていません!」
半ば叫ぶように言った。けど、ラウル様も譲ってくれない。
「シェリア。心の準備はわかるけど。もうそろそろわたしも我慢の限界がきつつある。今までキスくらいしかしていないし。それ以上の事も結婚したらするからね。一緒に寝るくらいは許してほしいものだよ」
「ラウル様」
「わかってくれるよね?」
仕方なくわたくしは頷くしかなかった。顔は相変わらず熱かったけど。
あれから、夜になりラウル様は父に宿泊の許可をもらいに行ってしまった。わたくしはぼんやりと自室にて待っている。ハーブティーを飲みながらもどこか上の空だ。
メイアが心配そうにしている。こちらをちらちらと見ていた。
「お嬢様。ラウル様は今日はこちらにお泊まりになると聞きました。大丈夫ですか?」
「…ああ、大丈夫よ。ただ、一緒の部屋で寝ようと言われて」
わたくしが答えるとメイアは驚いたらしく目を見開いた。
「それは本当ですか?!」
「ええ。本当よ。ラウル様がご自分でおっしゃった事だわ」
頷くとメイアは大きなため息をついた。あんの野郎と聞き捨てならない言葉を呟いた。
「メイア?」
「…お嬢様。ラウル様はたぶん手を出すつもりでいらっしゃいます。まあ、行き着くところまではいかないでしょうけど。それでも気をつけてください。後、心づもりもなさった方がいいかと」
「そう。やっぱりね。おかしいと思ったのよ」
そう言ってわたくしもため息をついた。ハーブティーを口に運んだ。メイアもやれやれと呆れた様子だった。
わたくしは気持ちを落ち着けようと深呼吸をする。その時、ドアがノックされる音がした。
返事をすると中に入ってきたのはラウル様だった。何処と無く機嫌がいい感じがする。
「シェリア。父君が良いとおっしゃってね。だから、こちらで休ませてもらうよ」
「ラウル様。父様を丸めこみましたね?」
「…鋭いね。一緒に強めの酒を飲んでね。今、父君は夢の中だよ」
わたくしはラウル様の用意周到さに驚きを隠せない。この人は敵に回してはいけないな。そんな事を思ったのだった。




