21話
ラウル様と話しながら自室へ向かう。侍女のメイアも一緒だ。というのに何故か兄がやってきた。
「よう。ラウルじゃねえか。シェリアに会いに来たのか」
「見た通りだが。何か用でもあるのか?」
「別にねえよ。だが、妹に会いに来たんだったらどうして俺に挨拶がないのかね」
兄は嫌味たらしく言う。ラウル様は眉を寄せると兄を睨みつけた。
「…何でお前にわざわざ挨拶に行かないといけない。男に用はない」
「かあー。そうきたか。お前な、一応は俺の義理の弟になるんだぞ。だというのに素っ気ないにも程があるぜ」
「お前に言われたくない。というか、トーマスみたいに五月蝿い兄はお断りだ。フィーラ公爵だけで充分だな」
ラウル様が言い返すと兄は可愛くない奴と零した。メイアはまた始まったかと呆れの表情だ。
「何だと。五月蝿いとはなんだよ。お前、学園に通っていた時も似たような事を言ってたな。けどな、体操服やペンとかを忘れたりしたら俺が貸してやってたじゃねえか。それに娼館にだって一緒に行ったし」
さらりと兄はラウル様の黒歴史といえそうな事を言ってのけた。わたくしは唖然となる。
「トーマス。いくら何でも実の妹の前で娼館はないだろう。それにいつ言って良いといった。お前が無理やり引っ張っていったんだろうが」
「…あ。悪い。つい、口が滑っちまった。ラウルよ聞かなかった事にしてくれ」
「そういう訳にもいかんな。覚悟はしとけよ?」
ラウル様はにやりと悪い笑みを浮かべながら兄の腕を掴んだ。そして、二人で話したい事があるからと兄の部屋に行ってしまった。わたくしとメイアはそれを見送ったのだった。
その後、わたくしは自室に戻っていた。メイアがアールグレイの紅茶と茶菓子を幾つか持ってきてくれていた。まず、ベーコンとチーズ入りのスコーンとジンジャー入りのクッキー、そしてレモンタルトの三つがテーブルの上にある。
ラウル様でも食べやすいようにと甘過ぎないお菓子が用意されていた。わたくしはお茶をゆっくりと飲みながらメイアと話をしている。
「それにしたって遅いわね。ラウル様と兄様ったら何をしているのかしら」
「そうですね。あれからもう三十分以上は経ちますけど。どうなさったのでしょうか」
「うーん。様子を見に行きたいけど。お茶が冷めてしまうわ」
考え込んでいるとドアをノックする音が部屋に響いた。誰だろうと思いながらメイアにドアを開けてくれるように言う。
「…シェリア。ラウルだが、入ってもいいかな?」
ドアの向こうから聞こえたのはラウル様の声だった。わたくしはお茶の入ったカップをソーサーに戻すと立ちあがった。
メイアがドアを開けるとラウル様は静かに入ってきた。わたくしはすぐに彼へと歩み寄る。顔や手足などに視線を走らせて怪我がないか確かめた。
「ふう。トーマスを締め上げるのに時間がかかってしまった。いくら何でも君の前で娼館とか言わなくてもいいというのに。デリカシーが欠けているなあいつは」
「はあ。兄様を締め上げたんですか。確かにラウル様の恥になるような事は言うべきではないですけど」
「全くだ。けど、トーマスの様子がおかしかったな。前はあんなにつっかかるような事は言わない奴だったんだが」
「そうなのですか?」
わたくしが小首を傾げるとラウル様は苦笑した。
「ああ、悪いね。トーマスの昔の話をされても君が困るな。それより、良い香りがするね。お茶でも淹れたのかい?」
「ええ。メイアがアールグレイの紅茶を淹れてくれました。今日はラウル様の好きなジンジャー入りのクッキーやレモンタルトがありますよ」
「へえ。確かに美味しそうだ。スコーンもあるんだね。中にはベーコンとチーズが入っているものだろう?」
「はい。うちの料理長お手製です。わたくしも生地を捏ねたりするのを手伝いました」
へえとラウル様は感心したように返事をする。椅子に座って二人でテイータイムを楽しんだのだった。




