20話
その後、ラウル様はわたくしの邸で一晩泊まる事になった。父とお酒を飲むとの事でわたくしは早々と寝る事になる。メイアは呆れたような表情をしていたが。
わたくしは眠りについた。寝室は静かだった。メイアも下がり今は一人だ。
(…ラウル様は今頃、大いに盛り上がっているわね。父様も離さないだろうし)
ため息をつきながらやれやれと首を横に振る。ラウル様、二日酔いにならなければいいが。そう思いつつも深い眠りに落ちていった。
わたくしが身支度を終えて部屋にいたらラウル様がやってきた。表情はどこか辛そうだ。
「おはよう。シェリア」
「…おはようございます。ラウル様、二日酔いになられましたか?」
わたくしが尋ねるとラウル様は頷いた。
「よくわかったね。そうだよ、昨日はフイーラ公爵が随分と度数の高いお酒を勧めてこられてね。おかげで昨夜の記憶があまりないんだ」
「そうですか。父がすみません」
「ああ、君が謝る事はないよ。私の自業自得というか」
ラウル様は苦笑しながら言った。何を言ったんだ、父よと言いたくなる。
ラウル様はじゃあと言って部屋を出ていく。それを見送りながら父をとっちめてやろうと決めたのだった。
その後、わたくしは父の部屋に行った。ラウル様に度数が高いお酒を飲ませたのは何故なのかと問い詰める。
「…父様。ラウル様から聞きました。何でもかなり度数の高いお酒を飲まされたと。どういう事ですか?」
「どういう事と言われても。ただ、ラウル様はいける口だと思ったから呑むかと勧めただけだぞ」
「父様。言い訳はいりません。無理に呑ませたのでしょう」
ずいと近寄ると父は目を泳がせた。やはり、わたくしの予想は間違ってないようだ。
「…参りました。そうだ、シェリアを嫁に行かせると考えたら寂しくなって。お前を貰い受けるラウル様が憎たらしくなってな。それで度数が高いお酒を呑ませて酔わせた」
「何をやってるんですか。そういえば、今朝ラウル様とお会いしましたけど。元気がなかったのですが。父様は何をおっしゃったんですか?」
「それは。シェリアの気のせいだろう」
「父様。もしやとは思いますが。ラウル様に娘は嫁にやらんとか君ではふさわしくないとかおっしゃっていませんよね?」
頬が引きつるのを我慢しながら父に笑顔で詰め寄った。父は言いにくそうにしている。
「…ふう。確かに近い事は言った。だってな、シェリアは私にとってはやっと生まれた一人娘なんだぞ。それを他の男にくれてやるのが我慢ならなかった。トーマスは跡を継いでくれるから良いとしても。シェリアはいずれ、他家へ嫁ぐ身だ。黙ってられるか」
「父様。だとしてもラウル様に酷い事言いすぎです。ちゃんと後で謝ってください。でないとわたくし、しばらく口を聞きませんから」
「わかった。シェリアの言う通りにする」
父はため息をつきながら言うと仕方ないかと呟いた。わたくしはそれに聞こえないふりをした。
その後、ラウル様に謝罪の手紙を父が書くということで決着はつく。わたくしはひとまず胸を撫で下ろしたのだった。
翌日にラウル様はフィーラ公爵邸にやってきた。わたくしはいつものように玄関ホールで出迎えた。
「よくいらしてくださいました。今日はお元気そうで何よりです」
「ああ。出迎えをありがとう。シェリアも元気そうだね」
ラウル様はいつものように爽やかに笑いながら答える。
「それはそうと。君の父君からの手紙は読んだよ。一昨日の事で大変申し訳ないとあったけど。シェリア、何か言った?」
ラウル様は表情を真剣なものに変えるとそう尋ねてきた。わたくしは目を泳がせる。
「…ええっと。ラウル様は鋭いですね。確かにお説教はしました」
仕方なしにいうとラウル様は苦笑しつつもわたくしの頭を撫でてきた。
「まあ仕方ないか。シェリアにしてみたら黙ってられなかったんだろうし。けど、次回からは何かあってもせめてわたしに少しは相談してほしい。でないと心配でね」
「わかりました。次回からはそうします」
ラウル様は満足そうに笑いながらまたわたくしの頭を撫でたのだった。




