17話
わたくしがラウル様の膝に乗った状態で馬車に揺られて少し経った。わたくしは体を固くしていたせいで疲れてしまっている。ラウル様はあまり疲れた様子を見せない。
「…あーその。なんだラウル。そろそろ、フィーラ公爵邸に着くから。お前、妹を降ろしてやってくれないか?」
「…なんでだ。このまま、シェリアの部屋まで運ぶ。せめて、邸に着くまでくらい良いだろ」
「お前な。見せつけられる俺の立場にもなってみろ。はっきり言って目のやり場に困るんだよ!!」
兄はとうとう我慢しきれなくなったのか頭をガシガシとかきながら叫んだ。というより、怒っているようだ。
「ふうん。だったら、見なければいいだろ」
「ああそうかよ。お前は昔からそういう奴だったよな。人の目も気にせずにシェリアを甘やかすとこが相変わらずというか」
「お前に言われたくない。トーマスだって婚約者のローズ嬢には甘いじゃないか」
「お前と一緒にすんな。人前ではさすがにわきまえてるよ。一応、家族の目の前なんだからいちゃつくのは遠慮しろよな」
兄はふて腐れたような表情をした。ラウル様はそれを冷ややかに見る。
「…ほう。これでも遠慮している方だが。何だ、お前はシェリアの手を握るのも駄目だというのか」
「ラウル。そこまでは言ってないだろ。手を握るくらいだったら良いが。節度を持てと言っているんだ」
兄は不機嫌そうにしながら言った。ラウル様は黙ってしまう。
「とりあえず、今度から気をつけてくれ。はっきり言ってお前は自覚するべきだ」
「何を?」
「シェリアにベタベタし過ぎな事をな。でないと人前でも気にしないでやりそうで怖くもある」
兄が言うとラウル様は眉間にしわを寄せて睨みつけた。わたくしは険悪になった雰囲気に困ってしまう。
結局、二人は黙りこくったままでいたので居心地の悪い時間を過ごしたのだった。
邸に戻るとラウル様はわたくしをやはり抱えたままで馬車を降りた。兄は諦めたようで何も言わない。ドアを御者が開けてくれて地面に降り立つ。
ラウル様と兄、抱えられたわたくしの三人で邸の中に入る。既に気がついていたのか我が家の執事
やメイアの二人が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。お嬢様。とラウル様ですか?」
執事が驚いたように言う。ラウル様は頷いてこう告げた。
「…ああ。その、シェリアが我が家で倒れてな。心配で一緒に来てしまった。部屋までは私が運ぶから案内をメイアに頼みたい」
「まあ。お嬢様がお倒れになるとは。でしたら、すぐにご案内致します。こちらですわ」
メイアが素早く先導して部屋へと歩き出した。ラウル様は後に続く。兄と執事はそれをぽかんとしながら見送った。
そうして、メイアがドアを開けて部屋に入りやすいようにしてくれる。ラウル様も同じようにして入るとソファにわたくしをそっと降ろした。
「シェリア。本当に顔色が悪い。後で医師を呼ぶといい。今日はゆっくりと休んで」
「ありがとうございます。ずっと、わたくしを抱えていたからラウル様もお疲れになられたでしょう」
「ああ。これくらいは平気だよ。むしろ、シェリアは軽いからね。疲れたといっても知れてるな」
ラウル様はそう言いながらわたくしの頭を撫でた。少し撫でてからじゃあと言って部屋を彼は去っていった。
しばらくしてから、メイアや周囲の勧めもあって医師に診てもらった。それによるとわたくしは心労と疲れから倒れたのではないかとの事だった。そういえば、最近はあまり寝ていなかった。食事もおろそかになっていたからそのせいだと自分でも気づいた。
貧血もあっただろうからメイアに滋養のつくものを用意してもらう。医師も疲れと心労には十分な睡眠と食事、休養が必要だと言っていた。わたくしは肉や野菜がふんだんに入ったスープと麦粥を食べてから早めに寝ることにした。
ベットに潜りこんで瞼を閉じる。すぐに眠気がやってきた。ラウル様の笑顔を思い出しながらいつの間にか深い眠りについたのだった。




