15話
わたくしがラルフローレン公爵邸に行く準備をしていた時だった。兄が声をかけてきたのは。
「シェリア。俺も行く。というか、お前。ラウルんとこに泊まっただろ」
「…それのどこに問題でも?」
「な。未婚の若い男女が一つ屋根の下で寝泊まりするのは問題があるだろ。ましてや、同じ部屋だなどと」
わたくしは聞いていてアホらしくなった。
「言っておきますが。わたくしとラウル様は同じ部屋で同衾などしておりません。泊まったのは事実ですけど。部屋はちゃんと別々にしてありましたよ」
「ええ。そうだったのか。じゃあ、手は出されなかったんだな」
「…手は出されてません。何で婚姻もしていないのにしなきゃいけないんですか」
「すまん。俺が誤解していたようだ。まあ、けど今日は俺も同行するからな。あいつが心配だ」
「もう好きになさってください。けど、ラウル様に怒られてもわたくしは知りませんよ」
ため息をつきながらわたくしは呆れた表情で兄を見た。兄は言葉通り、馬車まで付いてきて一緒に乗ったのだった。
その後、ラルフローレン公爵邸に到着した。兄とわたくしは執事に出迎えられた。
「よくいらしてくださいました。今日はトーマス様もおいでなのですね」
「ええ。どうしても、来たいとおっしゃって。ラウル様はおられるかしら?」
「…その。ラウル様は王城に出勤中でしておられないのです。お待ちいただけるのでしたらご連絡致しますが」
「そうね。連絡してどれくらいでお帰りになるか聞いていい?」
わたくしが尋ねると執事は考え込んだ。
「そうですね。夕刻までにはお帰りになるかと。実は陛下と謁見があるそうで。そのために王城に行かれたのです」
「…なるほど。陛下に。わかりました、兄様と待っているわ」
「申し訳ありません。お役に立てず…」
「気にしないで。わたくし達はサロンで待たせてもらうけど。いいかしら?」
「はい。サロンでしたら奥様がよろしいとおっしゃっていました。ラウル様にはすぐに連絡します」
執事はそう言うと急いでわたくしたちをサロンに案内した。紅茶などの準備は侍女に任せてラウル様への言伝を他の者に任せに行ってしまった。
それをわたくしは兄と見送りつつもソファに腰掛ける。今は昼間なので日の光が窓から射し込んで暖かい。わたくしは花瓶に生けてある黄薔薇の花を見つけた。
以前にラウル様がこの花を摘もうとした時の事をまた思い出した。顔から血の気が引くのがわかる。
「ん。どうした?」
兄がすぐにわたくしの様子がおかしいのに気がついた。こちらをじっと見つめている。
「…何でもありません。ちょっと、気分が悪くなってしまっただけですから」
「ちょっとどころじゃないだろ。今日はもう帰るか?」
「大丈夫です。ラウル様が戻られるまで待ちます」
兄は大分、心配そうにしている。わたくしは大丈夫だからと言って侍女が気を利かせて置いていった紅茶を口に含んだ。
紅茶の香りはダージリンでいい香りがする。けど、頭痛がしてきてカップをソーサーに置いてしまう。
「…シェリア。どうした、顔色が本当に良くないぞ」
「ごめんなさい。兄様、ラウル様が帰っていらしたらわたくしは先に帰ったと。お伝えください」
きっぱりと言うとわたくしは立ち上がろうとした。けれど、くらりと目眩がする。足元が覚束ない感じがした。
「シェリア!!」
兄の呼ぶ声が聞こえたが。わたくしは意識が暗闇に落ちていくのを感じた。体から力が抜けていったのだった。




