12話
わたくしは朝になって目が覚めた。侍女がドアをノックしてきた。返事をすると侍女が四人ほど入ってきてカーテンを開けたりわたくしの洗顔などのための準備をする。
「おはようございます。シェリア様。まずは身支度をなさってください」
「…わかったわ。もう、おじ様方は起きていられるの?」
わたくしがきくと侍女は頷いた。
「はい。旦那様と奥様は起きておいでです。ラウル様も怪我が治ったので王城に向かわれる準備をなさっているかと」
「そう。じゃあ、急いで身支度をするわ。昨日着てきたドレスや靴はあるかしら?」
「あります。クローゼットにしまいました」
侍女が答えるのを聞いてわたくしはすぐにベッドからおりた。洗面所に向かう。慌ててタオルと歯磨き粉などを渡された。歯ブラシもある。礼を言ってから洗面所に入った。
洗顔と歯磨きを終えると髪を梳いてもらい、香油を付けられた。わたくしの好みを聞いていたのか柑橘系の香りのものだ。朝から薔薇の香りのものでなくて良かったと思う。
あれだけは受け付けないのだ。髪を綺麗に結ってもらい、昨日着ていたドレスに袖を通した。
靴も履いた。ドレスは昨夜の内に洗われて魔法で乾かしてからクローゼットに仕舞われていたらしい。
侍女が教えてくれた。その後、薄くお化粧も施して急いで玄関ホールに向かった。
そこには今出かけようとしていたラウル様の姿があった。きちんとスーツを着て磨き抜かれた革靴を履いている。ネクタイを締めて髪も上げていた。
そんなきちんとした姿の彼を見るのは久方ぶりだ。一気に心臓がバクバクと速く鳴り出した。
「…あれ。シェリアじゃないか。どうしたんだい?」
ラウル様が驚いた様子でわたくしに声をかけてきた。わたくしは深呼吸をしてから言った。
「あ、あの。ラウル様が王城に行かれると聞いて。急いで部屋を出てきたのです。お見送りくらいはしようと思いまして」
「え。そ、そうだったのか。いきなり、こちらに来るから何事かと思ったよ。でもまあ、見送ってもらうのも案外悪くないか」
「…そうですか?」
わたくしがわからずに首を傾げるとラウル様は苦笑いした。
「自覚がないのはなんと言うか。まあ、わざわざありがとう。けど、無理はしなくていいよ。君がしたい時にしてくれたらわたしはいいから」
「わかりました。では行ってらっしゃいませ」
「ああ。行ってくるよ。帰りは君も気をつけて」
ラウル様はにこやかに笑いながら手を振ってくれた。わたくしも自然と笑みを浮かべて手を振っていたのだった。
その後、わたくしは自邸に戻った。兄のトーマスや父に母も心配で夜も眠れなかったと言ってきた。謝りながらも自室に向かう。侍女のメイアが出迎えてくれる。
「あ、お嬢様。お帰りなさいませ。ラルフローレン公爵様のお邸からお戻りになったのですね」
「ええ、ただいま。昨日は心配をかけさせたわね」
「…いいえ。そんな事はありませんよ。わたしはお嬢様とラウル様の距離が縮まればめっけ物だと思っていましたから」
メイアに意外な事を言われてわたくしは固まった。めっけ物って何だ。わたくしはメイアを見た。
「あら。お嬢様、どうなされました?」
「メイア。今のはどういう意味なの。距離を縮めたらあなたに何か良い事でもあるのかしら」
「…良い事ですか。だって、お二人を見ていたらじれったいのもいい所なのですよ。ラウル様はシェリア様に対しては奥手でいらっしゃるから。いつ、深い仲になられるのかとヒヤヒヤもので…」
メイアはそこで言葉を切った。わたくしの体から冷気が漂う。わたくしはじと目でメイアを睨んだ。
「メイア。ラウル様を何だと思っているの。深い仲になれだなどとどの口が言うのかしら。じれったくて結構。ラウル様は一回は婚約解消されたわたくしを気遣ってくださっているのよ。だというのに、けしかけるのは何故なのか。詳しく説明してくれるかしらね?」
部屋の空気がひんやりと冷たくなる。メイアはしまったという顔をしているがもう遅い。
わたくしはその後、メイアにお説教をした。ラウル様の前で言ったら解雇すると脅したらメイアは泣きながら二度と申しませんと言った。
それを聞いた後でメイアを解放した時には昼間になっていた。わたくしはため息を深くついたのだった。




