10話
ラウル様の怪我も一週間も過ぎるとだいぶ、治ってきていた。ロウエン医師も後一週間もすれば、包帯が取れそうだと言ってくださった。
リエンともすっかり親しくなった。父や母もラウル様の元へ行くのを喜んでいてお土産を持たせてくれるようになっている。その間にエリック殿下とエルジェベータ嬢との婚約が正式に発表されていた。
エルジェベータ嬢はとある侯爵家の長女でなかなかの聡明なご令嬢らしい。容貌も美しく性格も穏やかな方らしいから王妃にはわたくしよりもふさわしいだろうと思える。珍しくらしくもない事を考えてしまった。
今はラウル様がいるのだから。わたくしは慌てて考えをまとめようと頭を振ったのだった。
「…シェリア。毎日、来てもらって悪いね」
ある日、ラウル様がそうわたくしに声をかけてきた。怪我はほぼ完治といえる状態になってきている。
わたくしはそれをいい事だとして喜んでいた。ラウル様は包帯が取れた右手で髪を撫でてきた。
「いいえ。気にしないでください。わたくしが好きでやっている事ですから」
「それでも、君が手当てを手伝ってくれていたからロウエン先生が助かると言っていてね。まあ、仲が良いのはよいことだと父上は言っていたけど」
「そうですか。おじ様がそんな事を」
わたくしは照れくさくなって顔を俯かせる。ラウル様は笑いながら髪を撫で続けた。
「シェリア。そんなに謙遜しなくていいよ。むしろ、堂々としていればいい」
「…それでも、恥ずかしいです」
「そりゃそうか。じゃあ、撫でるのはやめるよ」
ラウル様は髪から手を離した。わたくしは名残惜しいようなくすぐったいような感じで彼の顔を見れない。
ラウル様はくすくすと笑う。金色の髪は夕暮れ時の日の光できらきらと輝いている。薄い水色の瞳も優しい感じで見惚れてしまう。わたくしはこの方にはどう見えているのだろうか。
ふと、そんな気持ちがむくりと頭をもたげる。けど、それには蓋をした。ラウル様に気づかれたらどんな風に思われてしまうかわからない。
「シェリア?」
ラウル様が不思議そうに問いかけてきた。わたくしは曖昧に笑って窓を指差した。
「あの。夕日が綺麗だと思って。明日はよく晴れそうですね」
「…ああ。本当だね。すごく燃えるような夕日だ」
ラウル様は小さな声で呟く。わたくしは夕日によって赤紫色にも見えるラウル様の瞳に見入ってしまう。
「…ラウル様の目が夜明けの色みたいになってます。わたくしはどう見えるのでしょうね」
ふと、独り言を呟いていた。けど、ラウル様には聞こえていたみたいで赤紫色の瞳を見開いていた。
「え。わたしの目が夜明けの色って。シェリアは不思議な事を言うね」
「あの。ごめんなさい。つい…」
「ああ。こっちこそごめん。けど、わたしの目が夜明けの色か。シェリアの目は夕日の色みたいになっているかな。むしろ、朝焼けというか」
「朝焼けですか。橙色といったところでしょうか」
「…まあ、そんな感じだね」
わたくしはぼんやりと答えながらまた、夕日に視線を移した。ラウル様も同じように眺めている。
わたくしとラウル様はポツポツと会話をしながら夕日を眺めていたのだった。




