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1話

これはわたくしがラウル様と婚約してから、一カ月ほど経った頃の事だった。学園を卒業してわたくしはラルフローレン公爵邸を初めて訪問した。

ラウル様と執事、使用人の面々が玄関ホールで迎えてくれる。わたくしは膝を折ってドレスの裾を摘み、淑女の礼をラウル様にした。

「…今日はお招きいただきありがとうございます。ラルフローレン公爵閣下におきましてはご機嫌麗しくようございました」

丁寧に言うとラウル様は下げていた頭を上げるように言う。顔を上げると苦笑いをしたラウル様がいた。

「シェリア。丁寧な挨拶をありがとう。けど、わたしと君の仲だから。そんな風に堅くなる必要はない」

「まあ。それは失礼をいたしました。つい、癖で」

「…君は元々はエリック王太子の婚約者だったからね。わたしに対して丁寧にしなければと思うのは仕方ないだろうな」

今後は気をつけますとわたくしは言った。ラウル様は玄関ホールに立ったままでは良くないからとサロンに案内を自らしたのだった。



サロンに入るとラウル様は侍女に紅茶と茶菓子を用意するように言い付ける。執事や他の使用人達は既に仕事に戻り、わたくしとラウル様に紅茶の用意をする侍女の三人だけがこの場にいた。

茶菓子を侍女が少し経ってから持ってきた。シフォンケーキやクッキー、アップルパイが皿に盛り付けられている。わたくしが生クリームやチョコレートをふんだんに使った菓子をあまり好まない事はこちらの侍女達も知っているらしい。

「…君がシフォンケーキやフルーツタルトが好きだと母君が以前に教えてくださってね。それで料理長に作らせてみたんだが」

「ありがとうございます。甘すぎる物は苦手で。気を使わせてしまったようですね」

「いいや。君が気にする事はないよ。こちらが好きでした事だから」

わたくしは嬉しくなりながらも侍女がテーブルに置いたシフォンケーキを自分で取り分けようと立ち上がった。皿には取り分けやすいようにナイフなどが一緒に用意されていた。

ナイフでケーキを切り、専用の道具で皿にのせる。シフォンケーキには白い粉砂糖がかけてあるくらいでシンプルにしてあった。一つはラウル様の前に置き、もう一つは自分の前に置いた。

常に自邸でしているように振舞ってしまったことに今になって気づいた。侍女が呆気にとられた表情でこちらを見ていたからだ。

「あら、わたくしとしたことが。ごめんあそばせ」

ほほと頬を引きつらせながら、椅子に座り直したのだった。侍女はギクシャクと動き出したものの気まずい雰囲気はなかなか拭い去ることはできなかった。



そうして、お茶を飲みながらラウル様と一緒にご両親のお出でを待った。ラウル様は幼い頃に王籍離脱をして臣籍降下をなさっている。

そんな中で養子として引き取ってくださったのが先代のラルフローレン公爵閣下だ。今も健在でいらしてラウル様や他の貴族方への影響は強い。

そんな事を考えていたらラルフローレン公爵ことライザーおじ様とご夫人のレアン様がお出でになった。ライザーおじ様は白髪混じりの金茶色の髪と濃いめの青い瞳で長身の偉丈夫だ。

レアン様は見事な黄金の髪と淡い緑の瞳のご年齢を感じさせない美女である。お二人ともスタイルも抜群でお似合いのご夫婦なのだ。わたくしも将来はあんな風にラウル様となれたらと密かに思ったのだった。

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