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マイズ山のものぐさ賢者  作者: 流堂志良
第八章 カデル・ツヴァイト・ドゥンケル
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エピローグ

 ライリアルは三日三晩、家で眠り続けた。

 一晩で回復したキャロルは、すぐにマイズ山に戻って来たのだが、眠るライリアルの姿を見て目を丸くした。

「まあ、ライリアル様……私たちが攫われたばっかりに……」

 その後で、申し訳なさそうにキャロルは悲しそうに表情を歪めた。

「まあまあ、その話は後で。先生が回復してからにしようよ。麓の村を見るのもいい勉強になるしさ。俺、もっと早くマイズ村には来たかったんだよね。直轄地だってのに、父さんってば止めるんだもん」

 トーマスの目の色はマイズ山に来て、一晩経っても治らなかった。

 それでもトーマスはケロリとしたものだった。

「俺を周りがどう邪険に扱ったって、俺は王位継承者。ヘマさえやらなきゃ、廃嫡なんてできないよ」

 変わってしまった目の色について、周りからとやかく言われる可能性があったがトーマスは恐れなど抱いていなかった。

 むしろこの状況を前向きに考えてるようだった。

「せっかく預かったリトミアの枝でしたのに」

「なっちゃったのは仕方ないよ。きっとその枝はいつか役に立つから持っときなって」

 ライリアルがほぼ魔法で行っていた家事は当然滞る。

 キャロルも慣れない手つきで洗濯をしていたのだが、料理だけはお手上げだった。

 ここで活躍したのは麓から様子を見に来たティアレスだ。

 ライリアルの目が覚めた時に食べれるようにとスープを作り、残る人たち用にも料理も作った。

「ここの道具、びっくりするぐらい使いやすい。ライリアルさんってば、こんなもの使ってたんだ」

 魔力を通すだけで、火のつくかまどや、簡単に水を汲める井戸を見て、ティアレスは羨ましそうにため息をつく。

「私も料理を覚えようと思いましたわ。こんなことはめったにないとは思いますが……何もできないのは歯がゆいですもの」

「うんうん、そうするのがいいよ。何なら、私が教えようか?」

 そんなこんなでティアレスが作った簡単な料理を食べて、トーマスは歓声を上げた。

「すごい、おいしい! ティアレスさん、嫁に来てください」

 とんでもないことを言うトーマスに、ティアレスは笑って返す。

 ティアレスには、キャロルもトーマスの身分を伝えていなかった。

「いやだー、もう。そういうのは五年ぐらい早いわよ」

 冗談としてティアレスはあっさり流して、付け加える。

「それに、私にはもう心に決めた人がいるんだから」

 悪戯っぽくティアレスは笑って、同じ席に着いた。




 目が覚めたライリアルはまず、自分の手を確認した。

 身体中の激痛は消えている。

「……あいつらは?」

 はっとして、ライリアルはまず普段着に着替えて部屋の外に出た。

「ライリアル様?」

 濡れた布を盆に載せて、ドアを開けようとしたキャロルとそこで鉢合わせする。

「キャロル、何だか久しぶりだな。私は何日寝ていたんだろうか?」

 ライリアルは無事な弟子の姿を確認して顔をほころばせる。

 キャロルもやっとライリアルが目覚めたので、ほっとして笑う。

「三日ほどですわね。トーマス様も、アーノルド様も心配しておりましたの」

「トーマスも、帰ればよかったのに。それで、あいつはともかく、トーマスは何してた?」

「これも勉強だからって、マイズ村の方に」

 キャロルが説明すると、ライリアルはため息をついた。

「こういう事には勉強熱心なんだな。それで、視察は続けると?」

「はい。どうしても、風の竜の住むところをみたいんですって」

 やれやれ、とライリアルは肩をすくめて歩き出す。

 そして、辿りついた居間にはアーノルドがいて、勝手に書庫から取り出したのだろう本を読みふけっていた。

 気配に気づいたのか、アーノルドはにっかりと笑う。

「よう、遅いお目覚めだな。もうすぐトーマスも帰ってくる。そしたら、今後の予定でも立てようぜ。どこから仕切りなおす? 俺がお望みのところまでバッチリ送ってやっから」

 色々文句を言いたいこともあるが、アーノルドには特に世話になった。

 彼の空間移動という特技がなければ、きっと今もまだトーマスもキャロルも助けられなかっただろう。

 それは自覚していた。

「今回のことは、世話になった。ありがとう……」

 照れくさそうにライリアルは呟いて、アーノルドの正面に座る。

「何だ、礼なんていいって。ま、どうしてもって言うなら、俺をアーニーって呼んでもいいんだぜ?」

「因果関係がわからん。……まあ、考えておく」

 視線を合わせずにライリアルはそっけなく言う。

 すぐにキャロルが空腹な彼の為に、ティアレスの作ったスープを運んできた。

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