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五十五話:攻め上がる勇者3

 戦いとは、常に目の前に集中しなければ死ぬ。

 背後には死が迫っており、脇目も振らず進んだところで追いつかれることがある。

 そんな中で、全体に目を配ることのどれほど難しいことか。


 ジンダユウは開門のために後方で指示を飛ばしながら戦い続けている。


「はぁ、はぁ…………、あの人、なんで手伝ってくれないのぉ?」


 メイはシオンに守られながらも、敵を襲い開門を迫るという戦いの中、遅い愚痴を零した。

 都は濠に囲われ、防壁を巡らせてある。

 とは言え、広い都全てを覆うことはなく、攻められるだろう方向に厚く堅固な壁が作ってあるだけ。

 守りの薄い、大勢が踏み込めないような場所には、高いだけの柵が組まれているところもある。


 ただ、軍を通すための門を設えた壁は、高く堅固で、簡単には押し通れない。

 そんな中、メイは次々に味方へ力を与え、回復し、止まっていては狙われるため、逃げ隠れする。

 疲労にぼやくメイを助けて、シオンは応じた。


「あちらはまだ立場がある。それこそ、こちらが有利に動くために必要なものだ。ここで一緒にいても仕方がない」


 シオンは答えつつ、太刀で敵兵を切り捨てる。

 今は南門を開放するための戦いの途中。

 急がなければ他の門を守る兵からの救援、もしくは魔王の城からの増援が現れる。


(もっと悪いのは、内側から襲われているという報に接して、都の外で戦っている魔王軍が戻ってくることだ)


 そうなれば都の門を固く閉じて籠城し、中にいる勇者たちを確実に殺す。

 そうなる前に開門しなければいけなかった。


 だからこそ、魔王を裏切り味方に付いたアヤツが部下を連れて参戦してくれたならと。

 しかしアヤツはまだこの先、魔王の城の門を開けるという役割がある。

 さらには都の内部へ招き入れた時に、去り際言ったのだ。


『私は民の避難をします』


 その言葉にジンダユウも勇者として止めることはなかった。


 そのアヤツは合流した時に顕現を露わにしている。

 三面鏡であるその鏡の前に立つ、つまりアヤツと対面して話せば嘘がわかるという。


(あれはおかしなことだったな)


 シオンは血を払いながら改めて考える。


 勇者軍に戦う意志を問う中、誰もがその決意が本物だと認められた。

 ただメイだけは見るからに迷う様子で返事をし、そのまま嘘と判定されている。

 アヤツも仕方ないと受け入れたが、シオンも同じように嘘の判定が出された。

 それには当のシオンが首を傾げるしかない。


(それとも、質問が悪かったからか。私に魔王を倒すために戦う意思があるかと言えば、微妙なところだ。ましてや私は女だなどと、自分でも嘘か本当かわからない確認のせいで、アヤツの鏡を惑わせたかもしれない)


 見るからに女のシオンが女だと言っても嘘の判定になり、アヤツ自身が困惑していた。

 その後いくら質疑応答をしても、シオンの解答には明らかに嘘とわかることを本当としたり、見るからに本当であることを嘘としたり。


 結果として、やはりシオンの顕現が祭具であることが理由にされた。

 カガヤの呪いを無効にしたこともあり、他人に影響を与える顕現の能力を拒否するのではないかと。


「シオン! 右!」


 メイに言われて、シオンは右から突き入れられる槍を避け、そうように走って槍を握る敵兵を切り伏せる。


「開門! 開門だ! 外に追い散らせ!」


 ジンダユウの声が響くと同時に、門が開き、門を守っていた者たちは都の外へと追いやられた。

 その喧噪は魔王軍の背後からも見える。


 予定にない開門、さらには敵か味方かもわからない者たちが飛び出す異常事態。

 都の外で戦っていた魔王軍後方は混乱に陥った。


「あのカサガミって子、出て来ないね」


 メイは周辺の敵が追い散らされたことで、少しの余裕を持てた。

 シオンも都の守りだという三傑が現れないことに眉を顰める。


 見るのは都の北の端にそびえる六台、その上に建つ魔王の城。


「魔王の命令だけを聞くという。だったら、その命令を下す魔王を守っているのかも」


 まだ都の門を開いて、ここから外の魔王軍を追い散らし、勇者軍を招く必要がある。

 そのためには都の中も制圧しなければいけない。


「シオン! 顕現で火をくれ!」


 ジンダユウが狼煙を上げるために声をかけた。

 南門の解放を知らせるためだ。


 シオンが顕現を出して火を用意しようとする間に、西門から先に狼煙が上がる。

 そちらから入ったクロウとホオリは、合流せずに都を制圧する予定だ。


「きゃ!?」


 メイが飛び出してきた敵に悲鳴を上げる。

 ジンダユウはすぐさま顕現を使ってメイを眼前に召喚。

 シオンはメイがいなくなって、敵と相対することになった。


 武器としては難しい七支刀を使い、力任せの突撃を下に逸らす。

 そのまま七支刀の柄で強く相手を殴った。

 取り落とす敵の剣を蹴りやると、悔しげな呟きが聞こえる。


「くそ…………まだか」


 シオンはその言葉に眉を寄せ、今一度殴ってからジンダユウのほうへ向かった。


「抵抗が少なすぎる。これは何かの策かもしれない」

「確かに援軍が来ないのはおかしい。敵の本拠地だってのに」


 門を守っていた者たちは門の周辺のみにしかおらず、都の中から新手が出てくることもない。


 それにメイは、門の外を指した。


「でも、魔王軍はやっぱり魔王のためには戦わないみたい。ほら、私たちが押さえたのわかって逃げ始めたよ」


 メイが言うとおり、魔王軍は瓦解が始まっていた。

 状況だけ見れば、優勢。

 しかしその優勢は敵に誘われたようにも思える。


 そう訝った時、異変が起きた。

 シオンとメイ、ジンダユウ、その他周囲の味方が全て、膝から崩れ落ちたのだ。


「あ、く…………。なんだ、これ? 力が…………」

「ひ、ひどい風邪、ひいたみたいに、力、入んなぃ」


 ジンダユウが状況を確かめようとし、メイは自身の体調の悪さを口にする。

 シオンは周囲を見て歯噛みした。


「敵の、攻撃だ。魔王軍は、立っている」


 シオンは息を整える間に、周囲から新手が現れる。

 そうして思い描くのは、明らかな不調でもなお槌を振るった大将カタシハ。


(顕現の力、己の心の強さで、あれだけの動きができる者がいるのならば)


 シオンは無理に七支刀を振ることなく、持ち上がらない腕を最小限の動きで敵の攻撃を凌ぐことに専念する。

 一度制圧したかに見えた門だったが、様子を窺っていたらしい新手の魔王軍が、次々に集まっていた。


「女が二人だ! 巫女はどちらだ!?」

「どちらも殺せばいいだろ!」


 魔王軍は明らかに巫女狙いで襲ってくる。

 男は多すぎて勇者の判別がつかないこともあるだろう。


 シオンはメイを庇って立ち、ジンダユウは力を振り絞って仲間を召喚。

 自分と共にメイを守る形で庇う。


「これ、もしかして回復できる、かな?」

「できるならやれ」


 声にも力が入らないメイに、ジンダユウは敵の目からその姿を隠すように仲間を布陣させる。


 その間も、シオンは一手に狙われていた。

 それを周囲の勇者軍の者が不調を押して助けようと動く。

 しかし思うように動けず、助けに入れば次々にやられていった。


「シオン! 左!」


 メイが元気な声で忠告を叫ぶ。

 しかし悲鳴染みた声で、敵が狙っていることに気づけても、シオンは思うように反応できない。


(致命傷だけは、避けなければ)


 そう考えて胸を狙う刃に咄嗟に動いたが遅い。

 そう思ったシオンの目の前に、炎が走る。

 腕を焼かれた敵は悲鳴を上げて転げまわり消火を始めた。


「ホオリ…………?」


 姿は見えないが、確実にシオンを助けるために放たれた炎に、衰えは見られない。

 シオンはすぐさま顕現の炎を自らの動かない手として放射する。

 肉体が弱められても、心が折れていなければ顕現を操ることに支障はない。

 シオンは共に戦ったホオリの技を借りて、七支刀から炎を放ち敵を押し返した。


毎日更新

次回:攻め上がる勇者4

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