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四十七話:三傑の嵩上3

 シオンとメイは枯れた川床で、息を潜めていた。

 場所は都から北東。

 川が運んだ岩ばかりが残る川床には、人では動かしようのない巨岩が転がっていた。


 そんな中、ホオリが先行して短く告げる。


「いたぞ」


 シオンとメイは姿勢を低くしてホオリの元へと小走りで向かった。


 岩に身を隠して覗き込むと、とぐろを巻いた蛇のような鬼女がいる。


「今までと同じくらい大きいが、形は全く違うな」

「うわぁ、蛇だぁ。え、あれって毒とかない? 大丈夫?」


 冷静なシオンに、不安がるメイ。

 対照的な二人に笑いつつ、ホオリは答えた。


「そもそも鬼女は触れるとどうしようもなく不調になるんだ。今さら毒とか気になるか?」

「う、それもそうか。けど、そう考えると鬼女ってなんだろう?」

「カガヤは呪いと言ってけれど。妖魔は獣が呪われた姿として、鬼女の元は想像がつかない」


 メイの疑問にシオンも首を傾げる。

 カガヤ曰く、海の底には表の世界と言われるところから落とされた悪性が沈んでいる。

 悪性が発する呪いを受けて妖魔は生まれ、さらに強力な素体を得て生じたのが鬼女。


「なんか伝説で鬼女って呼ばれた人いたらしいけど、関係あるのかな?」

「そこは似てるだけで名前を付けたから、いっそ鬼女って呼ばないほうがわかりやすいかもしれないけどな」


 混乱するメイに、ホオリは忠告した。


「ただ、カガヤの言うこと鵜呑みにしないほうがいい。本人も望んで魔王軍にいるんだ」

「嘘をついているように感じた?」


 嘘は感じられなかったシオンに、ホオリも同意する。


「いや、まったく。だが、本人がそう思い込んでて実は別に真相があるってこともある」

「あー、魔王全肯定だもんね。ありそう」


 諦めたように笑うメイの反応に、ホオリは眉を上げた。


「なんか、二人ともけっこう慣れたか? 鬼女を前に余裕があるな」

「そうかも」


 メイは笑って言うが目は泳ぐ。

 シオンは真っ直ぐにホオリを見て否定した。


「いや、まったく。見る度に大きさに圧倒される。今までは運よくことなきを得た。今回は他に人もいない。メイを守り切れるか不安はある」

「う、実は、私も、ちょっと怖い」


 赤裸々に告げるシオンに感化され、メイも恰好をつけるのはやめた。

 ホオリは素直さに大いに頷いてみせる。


「慢心するよりいいさ。本当なら拠点の人員引っ張ってくるつもりだったんだが。たぶん不調の原因はカガヤだろうな。で、俺たちは人数が少ないが、相手は手足がない。だったら、一つ試したい手がある」


 そう言って、ホオリはメイに顕現を出させた。


「顕現伸びてただろ? それを操って、こう岩の向こうに伸ばすとかできそうか?」

「やったことないし、やってみるけど…………」


 メイは固く瞼を閉じると力んで、ふと目を開ける。


「あ、けっこう伸びる?」

「顕現はあり方だ。自分でこれと決めてしまうと変化できないこともあるがメイは大丈夫そうだな」

「ホオリの刀も、伸縮自在なのか?」


 シオンに聞かれて、ホオリは刀の顕現を出して見せる。


「これは俺が振りやすい大きさに対して、快いと思う長さでほぼ固定だな。だから、扱いづらいままのシオンの顕現のほうが妙だ。心に従う場合、顕現は持ち主の扱いやすい形に落ち着くものなんだが」

「そうか、やはり妙か」


 顕現を出してシオンも念じる。

 けれどメイの領巾のように伸縮することはなく、七支刀の枝から垂れる領巾を動かそうとしてみても反応はない。


(まるで、私の顕現ではないようだ。けれど、こうしてこの心に従って現れるなら、これは私の心の在り方がおかしいということになるのか?)


 シオンが首を傾げる間に、メイは岩を蛇行するように領巾を伸ばしていた。


「よしよし。これでメイは岩に隠れて鬼女に見つからないように攻撃もできるな」

「あ、そっか。私を守ろうとするシオンが、自由に動けるね」


 ホオリに言われてメイも納得した。


「それなら、朱雀を倒した時に領巾が複数にわかれていた。それもしたほうがいいと思う。そのほうが鬼女に居場所を悟られない」

「う、あれ、けっこう疲れるんだよね」

「そうだな、顕現を大きく変えるのは消耗が激しい。ここぞという時には増やしてくれたほうが、きっと相手の虚をつける」


 そうして打ち合わせて、ホオリが岩陰から立ち上がった。


「それじゃ、青龍の討伐と行こうか」

「龍って言うより蛇だけど?」

「一応角はあるから蛇より龍には近いのか?」


 緊張を紛らわせるように茶化すメイに、シオンもつき合う。


 頷き合ってそれぞれ岩を盾に、一人ずつ移動を開始した。

 そしてメイの領巾が青龍の尻尾に巻き付いて戦いは始まる。


「あ、く…………。領巾に牙刺さると、痛いぃ」


 青龍は尾に巻き付いた領巾に牙をむいて攻撃し、メイは一人痛みに耐える。

 そこに、ホオリが炎を纏った刀で切りつけた。

 目元を火にあぶられ、青龍は領巾から口を離して顔を上げる。


 シオンもとぐろを巻いた胴体を切りつけつつ、攪乱のために移動を始めた。

 その間に、尾に巻きつけた領巾をメイは少しづつ青龍の体を上るように巻き進める。


「シオン、首がそっちに行ったぞ!」

「ホオリ! 合わせて火を!」


 メイは地道に、青龍の体を崩すために領巾を動かした。

 青龍の前に出た二人は、攻撃をかわしつつ、時には協力して領巾への攻撃を逸らす。


 少しずつ削がれる青龍、耐えて逃げるシオンとホオリが時間を稼いだ。

 その間、メイを探せず削られるばかりの青龍は焦るように攻撃を激しくしていく。


「もうすぐ首だ! いや、頭?」


 シオンは言ってすぐ不安になると、ホオリがメイへ指示を叫んだ。


「ともかく、これ以上の出し惜しみはいらない!」

「わ、わかった!」


 メイは朱雀を相手にした時の気持ちを思い出し、念じて領巾を見据えた。

 しかし枝分かれしたのは二つだけ。

 それでも新たに現れた領巾の先は、噛みつこうと口を開いた青龍の口に巻き付いた。


「あ、噛まれた!」

「駄目ならほどけ、メイ!」

「ま、まだまだ!」


 シオンに心配され、メイは強がって声を上げる。

 ホオリはメイの領巾が巻かれていない部分に火を走らせて援護をした。


 そうして時間をかけはしたが、領巾に巻かれた青龍の頭は胴体から落ちる。


「はぁ、はぁ」

「メイ、大丈夫?」


 シオンはすぐに、顕現を酷使して息を切らすメイの元へ駆け寄る。

 ホオリはまだ頭が落ちただけの青龍を警戒していた。

 しかし、体自体は領巾に巻かれて半分ほどになっている。

 ほどなく動かない黒い塊となって消え始めた。


「二人ともすごいじゃないか。本当にいっぱしの戦力だ」

「さすがに、ね。三回目、だし」

「実戦は経験として大きな成長につながる。ただ、メイは今回無茶をしすぎだと思う」


 シオンの言葉に、メイは笑って誤魔化す。


(それは、シオンもだよって、言えればいいんだけど。守られてるばかりの私が言ってもね)


 メイは言いたい言葉を飲み込んだ。


「悪いが、急ぎたい。予言を回収しよう」


 ホオリに言われて、メイはシオンの手を借り、石の社に手を触れた。

 途端に川床の上空に、予言の文字が広がる。


――打ち鳴すは身に沿う刃の惑ひてし

冴ゆる星はしらば落つる夢の際

霊屋に刻みつ名のありぬれば

割りなき咎に恨みうたふ声ぞ微せむ

ほしと天かく高殿をつきばや

ひさしければ毀れるたかみにふしなむ

高き君も台至りぬればあゆるのみ

たかきに追ふ者身を詰むる同じ煙なむ

首きりて今は春辺と咲くや世の花

そらなる御座ゐ給わば穢ひ捧ぐべきはさらなり

いとほしがりけるは叶わじ説くを許さじ

罪をすすがば契り置きし幸ふる地の給ふ

罪せらるるは緑も星もかれにける

尋ねて償へる思ひあらば今一度の知るしありなむ


 不穏な一節を目にした誰もが、魔王の治世の終わりを予言に見たのだった。


毎日更新

次回:三傑の嵩上4

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