四十話:勇者の九郎4
勇者の拠点で予言を囲んで頭を突き合わせていると、ジンダユウが言った。
「二つ目の予言は今回のことだ。だが最初の予言はなんだ?」
「救世の巫女のメイが旅するって話ならもう終わってるのかも?」
推測を呟くようにいうミツクリに、ケンノシンは首を横に振る。
「いや、そもそもこれらが順番どおりであるとも知れないのだ」
「あ、そうか。何処かに順番書いてないかな?」
メイは巻物を裏返して見るが、何も巻数を示す手がかりはない。
シオンは最初の予言の名詞と思しき部分を指す。
「高き君が魔王であるなら、花である巫女が大いに関係するはず。だが、実際には当人と会ってもは気にしていなかった」
実際に会ったからこそ言えることに、メイも頷く。
「私じゃ、救えないって言うし。その後カガヤと喧嘩しても無視だし」
「その言葉も気になる。何より予言を封じた当人だ。魔王は予言の内容を理解した上で対処もしていておかしくはないだろう」
クロウの言葉を受けて、考えていたジンダユウは顎に指をあてた。
「そう考えると、予言の内容も知れないままじゃ後手だ。少なくとも起こることを語ると同時に、従えば予言が実現する。だったら、手に入れない手はない」
ケンノシンもその方針には賛同する。
「それを目指すべきか。ただすでに二ヶ所から予言を得たが、どちらにも大型の鬼女がいた。他にもいることを考えて行動すべきだろうな」
視線を向けられメイは慌てた。
「え、あ、そうか。私じゃないと倒せないから…………」
「ただ場所がわからない」
シオンが冷静に言えば、ミツクリは真剣に言った。
「けど探さないと、相手は内容知ってるし、場所も知ってるし」
「うむ、後手に回っては予言の回収すら、あちらに罠を敷かれての苦戦が予想される」
クロウが状況の悪化を口にすると、ジンダユウは溜め息を吐いて明後日の方向を見た。
「はぁ、ったく。ヨウマルの奴、ここまで考えて先に動く、なのか?」
「ホオリがどうしたの?」
「あいつは、予言を探してた。たぶん先に動くってのは、俺らが予言を回収に動くと見て、先に目星つけとくって話だろ」
メイが聞くと、ジンダユウは粗雑に手を振る。
ジンダユウはもう一度息を吐いて、真剣な表情に変えた。
「大将がやられた。魔王軍は次に負けるなんて許されない。だったら、カタシハよりもずっと執拗に攻めてくる。そんな中、ここはもうガタガタだ。籠城するにも限度がある」
苦しい状況を教えられ、メイは息を呑む。
シオンは来るまでに見た、興奮した様子の者たちを思い浮かべた。
(籠るには、内側の意気が高すぎる。この状態で守勢に回っては、ジンダユウに批判が向く)
シオンが直感的に考えると、ジンダユウは同じことを口にする。
「次も同じ手は使えない。何より籠って戦うのは悪手だ。今はカタシハを倒したという自信と勢いがある。これを殺すよりも使うべきだ」
「え、それってつまり…………」
ミツクリが言葉に詰まると、ジンダユウは無理に笑って見せた。
「討って出る。もちろん目標は、魔王の城」
目標は、敵の本丸。
攻められるくらいなら、勢いに乗って攻勢に出ることをジンダユウは企図した。
「そのためには準備が必要だ。そして可能な限り兵を集めて、ともかく軍に踏みつぶされないだけの数がいる。カタシハ打倒の声に集まる者もいるだろう」
「では、予言はどうする? 拙僧が行こうか」
鬼女がいるというのに自ら危険を買って出るクロウに、ジンダユウは首を横に振る。
「いや、メイとシオンに任せる」
「え、二人だけ?」
メイは自身を指して驚きの声を上げた。
「ヨウマルと合流してあいつから予言の場所を教えてもらえ。こっちは攻めに出る準備をする。そっちはヨウマルを追って予言を回収するんだ」
「予言があるならば、反抗の勢いも強まるだろう。ましてやそれを予言の救世の巫女がもたらす。これは士気を大いに盛り立てることとなる」
ケンノシンは、メイが手に入れることの利点を教えた。
ジンダユウは頷きながら、二人を指してさらに言う。
「俺たちは顕現と共に、勇者として魔王軍に顔が知られてる。だが、お前たちは違う」
そもそも活動期間が四年の勇者に比べて、シオンとメイは数日だ。
魔王軍の一部しか、実際に救世の巫女を見たことはないし、従者の存在も知れてはいない。
広められたとしても、シオンもメイも年若い少女。
敵に警戒心を抱かせない外見だった。
「予言のこともある、念のため一人にはなるな。必ず二人でいろ」
「二つ目の予言の、ふみ行かざるべしさかしらに一人向かわば冥きにて、という部分か。一人で行ったこともない、手紙ももらっていない所へ行けば、死ぬ。そんな解釈でいい?」
シオンの確認を聞いて、メイは息をのんだ。
「ねぇ、それってホオリ大丈夫かな?」
素直な疑問と心配。
しかしそれに対して勇者四人は身を固くした。
ミツクリ以外はすぐに緩め、けれど揃っての反応は、その場の空気をあからさまに緊張させる。
その変化はメイにも確かに感じられた。
「何? え、何かあるの?」
「懸念事項があるのなら、共有してほしいのだが?」
シオンも促すが、勇者たちは顔を見合わせるばかり。
それほど言いにくいことだということはわかる。
シオンもメイも黙って待ち、その姿にジンダユウが諦めた様子で息を吐いた。
「あー、そのだな、これは、必ず当たるわけじゃない、巫女の予言とは別もんだということを念頭に置いておけ。その上で、俺たち勇者が予言で選ばれたのは?」
「聞いたよ。顕現で占いできる人からって」
メイが警戒ぎみに答えると、ケンノシンが引き継いで教えた。
「勇者を出すことに決めたのは、この陸以外の陸の国々が協議した結果。そうして予言で勇者として名が挙がった者が六人。その際、勇者としての資質を国から認められた。また、その先行きに対しても予言が成されている」
「先行きの、予言。つまり、不吉な予言を受けた者がいるのか?」
シオンが先を察して聞けば、ミツクリはばれたからこそ応じる。
「一番悪いっていうか、いいところない感じの予言をされたのが、ホオリって人で。俺は会ったことないけど、一人で行動したがるのって、もしかして何があっても周り巻き込まないようになんじゃないかなって」
「そこまで悲観的な者でもないな。だが、救いがないという予言はあまりにも不穏…………。ちなみに拙僧は、勝ち負けなしの勇者であるそうだ。故に、融和を志して活動するがなかなか、予言のとおりにはならん」
クロウはメイが不安がるので明るく自らの予言を教える。
また、勝ち負けなしと言われた割に勝敗は決していることから、予言も必ずしも当たるわけではないことを伝えた。
シオンは考え、ホオリを思う。
「救いがないという予言があったのなら、自らではどうしようもない。つまり誰かの助けを必要とするのかもしれない」
「そ、そうか。予言って、そういう解釈次第なんだよね」
メイは顔を上げて言った。
「うん、ホオリの所へ行こう。あの時助けられたんだし、今度は私たちで」
「うん、そうだね」
シオン応じ、その上で勇者たちを見る。
「もし他にもよろしくない予言を受けている者がいるなら、対処も考えて動く。どうか教えてほしい」
助けるためにこそ聞く心中を察して、ジンダユウは苦笑いを浮かべた。
「だったら、あいつだ。ツキモリ。あいつは死が迫り、勝ちの目が少ない。ほぼ悪いって予言だった。そのせいか、速攻で魔王側に裏切ったがな」
「うわー」
ジンダユウの説明にメイも呆れた声を上げる。
「それでなお、この陸に来たのか。いっそ剛毅だな」
勝てない、そんな予言を受けてなお、自らの運命から逃げるのではなく、足を踏み込んだ上で生きるために行動したことに、シオンは感心したのだった。
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