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三十八話:勇者の九郎2

 シオンはメイを促して砦に向かった。

 襲撃を受けた片付けと補修で、周囲は忙しくしている。


 それでも大将カタシハと直接戦ったシオンとメイが休みたいと言えば、床を掃いて、寝床を整えてくれた。


「無理無理無理! 女の子が寝てるところになんて声かけるんすか!?」

「起きろでいいんだよ。ほら、起こせ」

「控えめに声をかけるだけだろうに、全く」


 騒ぐ声にシオンは目覚める。

 声は、ジンダユウが起こすために声をかけろというが、ミツクリは恥ずかしがって騒ぎ、それをケンノシンが呆れている様子が聞き取れた。


 堂々巡りの押し問答を聞きつつ、シオンは隣で眠るメイを揺り起こす。


「なぁにぃ? うるさいなぁ」


 メイの声に室外で騒いでいたジンダユウとミツクリの声が止む。

 ケンノシンが溜め息を吐いて、外から謝罪した。


「すまない。改めて話をしたいのだ。身繕いをして、来てほしい」

「あいわかった」


 シオンが返事をすると、そのままケンノシンは退散する。

 置いて行かれたジンダユウとミツクリが慌てて追いかけるのが、シオンには足音で察せられた。


「メイ、水をもらえるか聞いてくるから、それまでに目を覚まして」

「うん、わかったぁ」


 夜を徹しての戦いで、他にも仮眠を取る者たちがいるためか、廊下に出ても人は少ない。

 ただ、起きている者は皆笑みが目立つ。

 何より意気軒高に魔王軍について話していた。

 そんな中、身繕いを終えたシオンとメイは、最初にジンダユウと話した広間へと向かった。


 ジンダユウ、ミツクリ、ケンノシンがおり、さらにクロウも車座になっている。


「はぁ? ヨウマルの奴、また勝手に。あいつは本当に落ち着きないな」

「どっちかって言うと、ジンダユウのほうが落ち着きはないよ」


 メイに言われてジンダユウは見る目がないと言わんばかり、眉をそびやかした。


「拙僧も西へ東へ移動し続けていたので、ホオリとは折々に会っていた。大丈夫だろう」

「三傑のアヤツを引き受け、こなしたのだ。考えなしでもないのなら、判断を尊重しよう」


 単独行動をこなせると信頼するクロウに、ケンノシンもホオリが単独行動をしていることに文句はない。


 ジンダユウが気を取り直して、床に広げられた二つの巻物を指した。

 巫女の予言だ。


「今回、従った結果、大将カタシハを討つことに成功した。今後は、予言をよく読み解き備える必要があるだろう。だが、あまり広めて無闇に動く者が出ては統率が取れん。だから、まず予言に関与してると言える者だけで、内容について話し合いたい」

「私は関係ないのでは?」


 勇者と巫女の中で、シオンが手を挙げて聞く。

 ただケンノシンは最初の予言を指して言った。


「往きつらむ救世の巫女の侘しければ、いみじき供を打ち連れまし、忍ぶることもなやましきに。ここで語られる巫女の連れ。これはシオンのことであろう。ならば、この先も巫女と共にあるべきと予言されたものだと考えていい」

「正直、シオンが一緒にいてくれると、私も心強いんだけど」


 メイも肯定したことで、シオンは笑みを向ける。


「知らぬところで自らの先を語る文書があるというのは変な気分だが、メイが必要だと言ってくれるならともに行こう」

「あ、わかるぅ。それとやっぱりシオンが一番心強いなぁ」


 メイが予言に語られることに同意すると、ミツクリが頷く。


「俺らは予言があって、それになぞらえて勇者になったけど。シオンは記憶喪失だしな」

「なんと。自らの由縁も知らずに戦いの場に立っていたのか」


 シオンの事情を知らないクロウが、改めて記憶喪失とメイとの関りを聞いて驚く。


「だから誠の士の物語も知らずに…………」

「それは私も知らなかったよ」

「はぁ? あんな有名なのに。…………いや、それともこっちだと広まってないのか?」


 ジンダユウが考え直す。


「え、本当に有名な話なの?」


 メイが確認すると、ミツクリもケンノシンも頷いた。


「おい、なんで俺の言葉を信じないんだ」


 ジンダユウの不満に、メイは目を逸らして聞かないふり。

 そこにシオンは考えながら言った。


「その誠の士の話は、少し、聞き覚えがある気がする」

「え、本当? 何か思い出せそう?」


 メイが身を乗り出すも、シオンは頭に手を当てて首を横に振った。


「いや、ギイチという名に、聞き覚えがあった、気がしたんだが」

「そうなると、話から名付けた誰かということもあろうな」


 ケンノシンがそういうほどに、有名な昔話。

 メイは思い出した様子で言った。


「そう言えば、シオン最初に黒髪の人知らないかって。その人がギイチとか?」

「あぁ、メイに声をかけられる前に、誰か黒髪の男がいた気がしたんだけど名前は知らない」

「いや、黒髪なんてそうそういないっすよ。だいたい白いし、ケンさんも珍しいくらいで」


 ミツクリが茶色い髪のケンノシンを指す。

 金髪のメイも今までに見た町人を思い描いて応じた。


「そうだね、黒髪って見ないかも。濃い色はいても茶色系。カガヤみたいな赤い髪も珍しいけど。黒は見てないなぁ」

「そうか。目も良くきかなかったから、私の見間違いかな?」


 退くシオンに、メイは何か言いたげだ。

 しかし言わない内にジンダユウが声を上げた。


「知らないなら教えてやろう。誠の士が仕えた将、その息子こそ、我が祖が仕えた本当の大王だ」

「大王って、魔王のこと?」


 聞き返すメイに、ジンダユウは察しの悪さに荒れる。


「ちっがーう。魔王はその在位の長さからそう言われるだけ。だが、本当の大王はその威徳により大王と称されたんだ。この陸を最初に統一したのは魔王じゃない。台国を作った本当の大王だ。そしてその大王にお仕えしたのがこの俺の祖先である」

「話した誠の士の話には続きがあるのだ。改心した王が将の息子に王位を譲り、乱世の平定を託した。その息子こそのちの大王。若かりし大王は王位を得た際の請願を実現するため、この陸の平定に乗り出したのだ。その時、大王が師と仰ぎ自らの行いを律した手本が誠の士」


 ジンダユウに続いてクロウも嬉々として話す。


「つまり、その大王は尊崇されていると思っていい?」


 シオンが言うと、ジンダユウとクロウは揃って頷く。

 メイは昔話と現状を比べて聞いた。


「けど今は魔王が治めてるってことは、その大王って魔王にやられたの?」


 それにはケンノシンが反応する。


「いや、大王は自らの妃であった者に、命諸共国を乗っ取られた。その後は、大王に従っていた者が新たな女王に反旗を翻し乱世が再び起きたそうだ。大王が統一した陸は、人々が争う地に戻ってしまった」

「で、その女王を倒したのが、讐の士と鬼女。その後は女王っていう共通の敵もいなくなってまた乱世らしいって聞いてる」


 ミツクリも知る昔話の顛末を語ると、メイは首を傾げた。


「魔王っていつ出てくるの? あと、鬼女ってあの鬼女? 誰かを選んで攻撃するの?」

「その時の鬼女は復讐を誓った女だな。讐の士も同じで、復讐を誓った武者だ。女王は乗っ取りのために大王に忠誠を誓う者たちを多数殺した。その者たちの怨讐を肩代わりした復讐者の男女だ。で、今いる鬼女はそれに似てるってんで鬼女って呼ばれてる。男っぽい見た目だったら讐の士って呼ばれてただろうな」


 ジンダユウは女王が倒れた後の乱世を治めたのが魔王だとつづけた。

 じっと聞いていたシオンは、頭を押さえたまま考える。


(聞き覚えは、ある。やはり私はこの昔話を知っている?)


 探す当てもない記憶を、シオンは半ば諦めていた。

 探そうと思う間もなく、国に関わる問題に巻き込まれたこともある。

 その上でシオン自身、メイを見捨ててまで失った自分の記憶に執着もなかった。

 ただ記憶を取り戻すきっかけになるかもしれない話を聞いては、気にならないわけでもない。


 しかし聞き覚えがある話を聞いても、シオンの胸に明るい兆しはない。


(魔王が現れるよりも前の昔話なら、少なくとも千年以上前の話。知っていたとして、なんの関係もないはず。なのに、どうしてこうも今の話に胸がざわつく?)


 今までにないことであり、不快に寄る感情。

 誠の士ギイチに関して聞いた時にはなかったもの。


(ジンダユウが、記憶を失くすのは酸鼻を尽くした状況のせいだとも。だとしたら、いっそ思い出さないほうがいいいいのかもしれない)


 シオンは良いものではないとして、考えるのをやめた。


毎日更新

次回:勇者の九郎3

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