二十七話:勇者の三造3
シオンとメイは第二の予言を求めて、南の六台へ。
他人の悪意のために挫けてしまった勇者ミツクリを立ち上がらせ、共に南東にある予言の封印場所を目指した。
「勇者って選ばれてなるんでしょ。だったら自信あるんじゃないの? 私なんて言われて知ったみたいな感じなのに」
「まぁ、確かに候補に挙げられる奴らの中から選ばれた時は、俺ならやれるとか夢見てたけど。結局裏切られる程度の、半端もんで…………」
メイに答えるミツクリは、自虐でより自信を失くす。
シオンは人の通わない野原を、先を行く者たちが踏み折った草を辿るように進んでいた。
「私たちも同じような目に遭っている。ジンダユウも同じようなことありそうだけど」
「あ、それはあの人の顕現だとないっすよ」
ミツクリが苦笑するとメイが手を打つ。
「あぁ、あの仲間呼べるやつ。すごいよね。誰の顕現でも使えるって言うんだし」
「時間は短いが、あれは確かに強力な顕現だ」
シオンも言うと、ミツクリも頷いた。
「あれ、呼び出される側がジンダユウのこと仲間と思ってないと出てこないっすよ。だから俺みたいな失敗なくて、へへ…………」
呼び出せれば心から仲間と思っている者であり、呼び出せなければ背信の可能性がある。
「しかもジンダユウ自身がすっごい強気で、なんかあんな風について来いって言われると頼もしいだろうし。俺みたいに勢いだけと違って…………」
ミツクリは話ながら気落ちしていくのを見て、メイはシオンに囁いた。
「ジンダユウが言うとおり、なんかすねちゃうんだね」
「やれる者が、できない者にやれると言っても信じられないだろう。それで言えば、私たちはギリギリこなしている。その上でやれると言えば、やれないとも言えないせいだろう」
メイは素人で、シオンは記憶喪失だ。
それで鬼女にも立ち向かう二人に、ミツクリも嘘はないとわかったからこそ、勇者の自分ができないとは言えないでいる。
(すでに一歩を踏み出した。今からでも逃げられるのにしないなら、言うよりも覚悟は決まってるように思える)
シオンは自分で言っていて落ち込むミツクリの話を変えた。
「ケンノシンという方はどんな人だろう? 落ち着いておられたけれど」
「そう言えば、ミツクリもジンダユウもホオリも若いし。あの人だけ歳離れてるね」
メイが言うと、ミツクリはジンダユウに関することより気軽に話に乗る。
「実はケンさん、最初選ばれてなくて。もう少し若ければって言われてたんだけど、ケンさんの国で選ばれてた勇者が急死したんだ。それで予言が変わってケンさんが選ばれて」
「そんなことあるんだ。大変だね」
「ケンさんは国許で魔王が人を攫いに来た時には、他国でも救援に向かう烈士で有名でさ。だからもっと若ければって言う惜しむ声も強かったって」
落ち込むばかりのジンダユウの話に比べて、ケンノシンの話ではミツクリは楽しげだ。
ただそこに狼の吠え声が割って入った。
途端にミツクリを始め、同行する護衛隊が顕現を出して戦闘態勢を取る。
シオンは太刀に手を伸ばし、メイだけが遅れて顕現を露わにした。
「完全にこっち狙ってるなら、最初の二匹は落とす!」
ミツクリの号令で、他は待機。
同時に、ミツクリは弓を構えた。
その弓は最初から持っていたもので顕現ではない。
顕現として現れたのは矢筒である靫だった。
矢も入っていないそこに、ミツクリは道端の石を次々に放り込む。
すると次の瞬間、靫に石の矢が現れた。
「これが俺の顕現。靫に入れたものを矢にするんだ」
そう言って石の矢を番えたミツクリは、飛び出してくる狼の妖魔に一射。
遅れず次の矢を番えて二射。
どちらも過たず狼の目と口に深々と突き立った。
角の生えた狼の妖魔は、仲間がやられても怯まず牙を剥いて襲ってくる。
ただ最初の勢いをミツクリに殺されたことで、問題なく続く群れを討伐することができた。
「おぉ、すごい! すごいしゅって当たったね」
「いい腕だ。あれだけ動く相手を射抜けるとは」
メイが騒いで、シオンも褒めたものの、ミツクリは肩を落とす。
「いや、あれくらい練習すれば誰でもできるんで。この顕現、本当にただ矢を作れるだけで、大したことないっすから」
「自分で戦えないからって、女の子前に出すジンダユウよりかっこいいよ」
「え、いや、そんな…………え、へへ。こんなかわいい子二人にいいかっこしたいだけで」
「え、か、可愛い? …………え、へへ。シオンはわかるけど私なんて、そんな」
メイとミツクリは、お互いに照れて半端な笑い声を漏らしながら目を逸らす。
そんな反応を見て、シオンは首を傾げつつ聞いた。
「ジンダユウと比べてるようにも聞こえないけど、ケンノシンの顕現は何?」
「あぁ、うん。鉾で俺よりもずっとすごくて。風を纏って敵をなぎ倒していくんだ」
ミツクリは途端に生き生きとして話し出す。
「鉾の扱いもすごくて、大技ばっかりじゃないし。近づかれても全部跳ね返して、こうばったばったと敵をなぎ倒して走り回るんだ」
「ミツクリ、なんか具体的じゃない?」
「そりゃ、助けられたから」
メイに聞かれたミツクリは照れて頬を掻く。
そこに護衛隊から行く先の様子見を出す提案がされ、ミツクリは対応に回った。
シオンとメイは二人で目を見交わす。
「あれは、自分を卑下するだけじゃなく、憧れもあってひねてしまってるんだと思う」
「なんか、ジンダユウにはひねくれてて、ケンノシンさんには素直だよね。けどどっちも憧れてるんだろうなって感じは、する」
「ジンダユウには顕現の能力的に劣ると考え、ケンノシンには技量の上で劣ると考えてる」
「あー、自分よりもすごい人がいるって? まぁ、それで自身失くすのわかるけど。弓の腕すごいのとは別だと思うなー」
「同じ勇者と言うところで、余計に上手くやれなかったことに劣等感を覚えたんじゃないかな」
シオンとメイからすれば、即座に戦うことを選べるその判断と行動力の時点で、勇者として問題ないように見えた。
しかしミツクリ自身がそれでは納得しない。
それだけ研鑽していた弓の腕も、裏切りの前には無力だったのだから。
「何か気負わなくてもいいようなきっかけがあればいいんだろうけど」
「話してみたらけっこうおしゃべりだよね、ミツクリ」
シオンが考えるとメイが楽しげに笑う。
話を聞く間は弱音もなく、元気なほど喋っていた。
「私は何がわからないのかわからないから、上手く話しかけて弱気を紛らわせることができるかどうか」
「それでもいいんじゃない。ともかく知らないこと振って答え聞いてみたら?」
「メイも何かあったら助けてほしい」
「それはもちろん」
先へと進む間、ミツクリが落ち込まないよう、シオンとメイは話しかけることに決める。
「私はわからないのだが、空とはこういうもの? ずっと白い?」
「え、そこから? なんか思ったよりも大変そうっすね」
「いや、そう困らないですんでる。教えてくれるメイに出会えたのは幸運だった」
「えっと、それなら昔話で、天を作る巫女の話があるっすけど」
「え、巫女なの?」
ミツクリの話にメイも驚きの声を上げた。
曰く、空から落ちてくる災いを避ける笠として、巫女が天を作ったという。
しかしそうなると世界は暗くなる。
だから次には太陽と月と星を作ったと言われるのだと。
「そんなの無理だよ。本当に私巫女なのぉ?」
「まぁ、伝説だし。俺からすれば鬼女倒せるってところがすでに無理を通してるし」
不安がるメイに、ミツクリは十分奇跡的な力があるという。
シオンはまた別の疑問を投げかけた。
「では大地は? そこも巫女が作ったという伝説がある?」
「いや、そっちは最初にいた巨人が死んで大地になったとか」
「え、地面って、生き物なの?」
驚いて足元を見るメイに、ミツクリは考えながら説明をする。
「そういう存在って言うか、人間とは違うもので、命があって、大地が生まれて、人間が育ってって感じ。天ができてないから、その時には大地の上に火があって世界を照らしてたとかで、人間も住みにくかったって神話があるんだ。それで巫女が海を作ったらしい」
「また巫女? わかんなくなってきた。巫女ってすごすぎない?」
「まぁ、メイも俺より全然すごいし」
今まで元気に話していたミツクリが、突然落ち込み始める。
「ジンダユウは予言解放したし、勇者としてしっかりやってるのに…………」
「よし、だったら鬼女倒そう。それでおんなじ勇者だよ」
ミツクリの肩をメイが叩いて顔をあげさせる。
乱暴な励ましにミツクリの腰は引けたが、シオンはその腰を叩いて止まることを許さなかった。
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