表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/80

十二話:勇者の火織4

 異形の七支刀を握って、シオンはすぐさま自らの顕現の欠点に気づいた。

 実用には使えない刃だということを。

 それでも現れたのは剣の形。


 ましてや、目の前ではすでに鬼女は腕を振り下ろしている。

 背後には弱ったカガヤと庇うメイが動けずにいた。

 シオンは退かず、七支刀を構える。

 そうして鬼女の腕を受け止めた。


「ぐ…………」

「馬鹿! すぐに放せ!」


 カガヤの助言でシオンは鬼女の腕を横に弾く。


「鬼女に顕現は触れられる。けど顕現も鬼女によって削られるんだ。これ以上打ち合うな」


 カガヤはまだ整わない息でそう忠告した。

 ただメイがその内容に首を傾げる。


「え、あれ? 私の領巾、そんなことなかったよね?」

「メイ!」


 メイがそう言って驚く間に、鬼女がまた攻撃を仕掛けた。

 シオンは迷わず、また七支刀で弾く。


(刀でもない、剣としても重心が取りづらい。これでは受けて弾くが精いっぱいか)


 鬼女が大きさの割に重さがないためにできる対処でしかないと、シオンは自覚する。


「と、ともかく! シオンより私のほうが、たぶんましだよね!」

「だから素人は引っ込んでろって言ってんでしょ!」


 立とうとするメイに、カガヤが一番戦いに慣れてないと見て止める。

 容赦なく追撃する鬼女に、壁のように走る炎が襲った。


「おいおい、喧嘩してる場合じゃないって」

「ホオリ、ホオリはどうやって攻撃をしている?」


 シオンが少しでも状況を好転させようと聞いた。


「俺は火を纏わせることで顕現自体に届かないようにしてる。シオンはあまり強度があるようにも見えないし、それ、術か何か出すための祭具の顕現じゃないか?」


 顕現は形で能力も推測できるはずのものだ。

 ホオリのように刀というわかりやすい攻撃的な形であれば、直接振るのは正しい。

 逆に領巾や勾玉は本来攻撃を目的とした顕現ではない。

 ただ、カガヤのようにその特性を術として放出し、攻撃に転用することはできた。


 シオンは、何を斬ることもできそうにない顕現を見る。

 ホオリは祭具だと言ったが、枝のように突き出た刃から伸びる領巾や火で何ができるか。

 そう考える間にも、炎を纏わせた刀を振るって一人鬼女の攻撃をいなすホオリ。


「炎を、纏わせて…………」


 シオンはそう言ってじっとホオリを見る。

 そして自身の七支刀に目を移した。

 柄と刃の間には鏡のように磨かれた真円がある。

 ただ、青錆びた柄と同様に磨かれていただろう端が残るだけで、全体は錆びたまま。


 それでもじっと見据えたシオンは七枝刀を構えた。

 瞬間、七支刀の枝に新たな火が生まれる。

 かと思えば、火は七支刀の刃全体に広がった。


「これなら!」

「えー? なんだ、その祭具? もしかして他人の顕現真似するのか?」


 ホオリがいなした鬼女の腕をさらにシオンが凪ぐ。

 途端に炎が鬼女の腕から煤のような構成物を剥いだ。


「くそ、勇者も鬼女の表面削ぐなんてわけわかんないことしてんのに!」

「いいからカガヤはじっとしてて!」


 カガヤが無理を押して立ち上がろうとするのを、領巾で狙いを定めていたメイが止めた。


 ホオリ、シオンと続けざまに攻撃を受け、鬼女の腕が浮く。

 その隙にメイは領巾を鬼女の腕に巻き付かせた。

 柔らかな領巾はすぐに振りほどかれる。

 ただ、鬼女の嫌がりようは目に見えて激しかった。

 さらに、ホオリとシオンが少し削いだのとは比べ物にならないほど、鬼女の腕が抉れる。


「はぁ!? ほんとなんなんだよ、それは!」


 いっそ腹立たしげに鬼女を攻撃するメイに怒鳴るカガヤ。

 シオンは気にせず、鬼女を見据えた。


「このままメイが領巾を当てられるようにしよう」

「そうするしかないみたいだな」


 ホオリも応じて鬼女に隙を作るため、斬りかかっていく。

 メイも真剣な顔で領巾を当てようと狙いを定めた。


 そんな三人に背に庇われた状態で、カガヤは驚くしかない自分の膝を殴った。


「ふ、ふざっけんな! この三傑のカガヤさまを守ってるつもりか!」


 無理をして立ち上がると、勾玉から針を乱射する。

 鬼女が嫌がるようにしたところで、動きが鈍りメイの領巾が肩に当たった。


 削がれていた腕ごと肩が大きく揺れ、鬼女は片腕を失くす。

 その目に見える好機に、カガヤはメイに指を突きつけた。


「あたしがお前を使ってやる! そこの勇者ともう一人は腕押さえろ! 領巾は首狙え!」

「鬼女の首や頭は、意味があるのか?」

「いやぁ、どうだろう?」

「けど、削ぎやすそうだしやってみよう」


 カガヤの指示にシオンが疑問を呈し、ホオリは半信半疑。

 ただメイはわからないからこそ従うことに決めた。


 そうして、シオンとホオリが残る鬼女の腕がメイに届かないよう牽制する。

 メイはその間に鬼女の首と思われる辺りに、カガヤの指示で領巾を伸ばした。


「あ、避けられた!」

「避けたってことは嫌なんだ! もっとよく狙え! 相手の動きを予想するんだよ」


 カガヤは鉄串を一本出して、鬼女の側頭部に突き刺す。

 明らかに弱体化した攻撃だが、鬼女が首を晒すように動かしメイが狙いやすくして助けた。


「ここだ!」


 カガヤの助力でメイは鬼女の首に領巾を巻き付ける。


「もっと巻きつけろ!」

「そ、そんなこと言われてもぉ。ここからどう動かせば?」

「だったらこっちに走れ! 移動して巻くように動け!」

「そ、そっか!」


 カガヤに指示されながら、メイは鬼女の後ろに回って領巾を半周巻き付ける。


 嫌がる鬼女の激しい腕の動きにシオンとホオリは必死にさばいた。


「シオン! 扱い慣れない武器で無理するな!」

「だが! この腕を自由にさせてはメイとカガヤが危険だ!」

「だったら、合わせろ!」


 ホオリがひときわ大きく火を刀にまとわせる。

 それを見たシオンも、同じく七支刀から火を噴き上げた。

 そして同時に、手首の辺りを斬りつける。

 挟みこまれるように火に焼かれた鬼女の手を、さらに二人がかりで押さえつけにかかった。


「引っ張って、もいじまえ!」

「なんかやだけど、しょうがない!」


 カガヤと共に背中からシオンたちのいる方向へ回って来たメイに、カガヤが命じる。


 メイが領巾を引っ張ると、空気が抜けるような、灰が落ちるような音が立った。

 同時に、鬼女の頭が浮く。

 領巾が触れた部分から灰が散るように黒い影が消えた。


「ん? 力が弱まった?」

「本当に首が効いたのか?」

「いいから! ともかく削れ!」


 シオンとホオリが困惑するところに、カガヤが攻撃を緩めるなと指示を飛ばす。

 メイもさらに鬼女の体に領巾を巻き付け始めていた。


 炎で削り、領巾で削いで、全員で必死に走り回りながら鬼女の体を小さくしていく。

 気づけば、動かなくなった鬼女だった黒い塊は、風に吹かれてさらさらと崩れ始めていた。


「…………か、勝った? え、これ勝ったの?」

「嘘だろ、鬼女を倒せた…………?」


 自壊し始めた鬼女に気づいたメイに、カガヤも困惑して身構える。


「はは、すごいじゃないか。鬼女を倒したぞ」

「メイ、カガヤ、無事?」


 ホオリが明るい声で確かに勝ったことを告げる。

 シオンは二人の無事を確かめるため、七支刀を片手に駆け寄った。


 崩れて行く鬼女がほとんど元の形もわからなくなる。

 ただ勝ったという事実と、危機を脱した虚脱に身を任せる前に、神経に棒を通すような喇叭が鳴り響いた。

 何者かの到来を知らせる音に、シオンとメイは困惑を顔に浮かべる。

 ホオリとカガヤはその正体に気づいて、同時に喇叭の響いた方角を顧みていた。


毎日更新

次回:魔王1

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ