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十一話:勇者の火織3

 メイが鬼女に集中攻撃を受けた。

 それを助けたのは、魔王軍の三傑と呼ばれるカガヤ。

 足が折れそうな高下駄から、ぽっくり下駄に履き替えて、シオンとメイの下へと走る。


「もう周辺に残ってんのはお前らだけだ! 退け! って、鬼女に追われてる? おいおい、鬼女が誰かを追い回すなんて今までになかったぞ!」


 カガヤは滑るように走って鬼女の前へ。


 その間もメイが狙われ、シオンは守るが、振るう太刀は鬼女を素通りした。

 ホオリは火を放つ刀を振って援護するも、鬼女はメイばかりを狙う。


「あ、火を放つ刀! お前、勇者か!」

「今はそれどころじゃないだろ」


 眉を吊り上げるカガヤに、ホオリは口の端を上げて応じた。


 鬼女は生き物を狙い、土地さえ枯らすように殺す。

 放っておいては国が枯れ落ちる。

 魔王軍と罵られる存在でも、軍として国を守る役割があり、カガヤも目の前の鬼女に向き直った。

 そもそも魔王軍が戦争もないのに周辺にいたのは、妖魔退治と鬼女が出現した際の対応のためだ。


「勇者、お前は後で潰す! で、そこの足でまとい二人!」

「あーん! 否定できないー!」


 メイはシオンに頼って逃げながら声を上げる。


「そのまま左回りでこっちまで走れ!」

「すまない! 助太刀、感謝する!」


 シオンは指示に従って、メイと共にカガヤの下へと走り込んだ。

 ただ、合流したカガヤは唖然としてシオンを見る。


「は? 感謝?」

「さっきも助けてくれたから礼を言ったんだが?」

「は…………はぁ? 違うし! 鬼女だから、我が君の敵だから、攻撃したら、たまたま!」


 カガヤは慌てたように叫ぶが、そこにホオリが訴える。


「いいからちょっと手伝ってほしいなー」

「わ、ごめん、ホオリ!」


 メイが気づいて領巾を嗾ける。

 鬼女は嫌がって、ホオリに突き出そうとしていた腕を引いた。


「嘘だろ? 鬼女が攻撃やめるなんて。我が君でもそんなことさせられないのに」

「我が君というのは魔王で合ってる?」

「はぁ? この国を支配する大王に不敬だろ!」


 カガヤは勾玉から鉄串を出しつつ、怒鳴りつける。

 言われたシオンは真面目に納得した。


「すまない、私は記憶がないんだ。この国の常識も知らない。その上で聞くが、この鬼女はなんだ? 倒せるか? 逃げて体勢を立て直すか?」


 シオンはあくまで状況を改善するために聞いた。

 カガヤも軍を率いる者として、驚きを横に置いて答える。


「ち! 鬼女は呪いの塊みたいなもんなんだよ。倒せるわけがない。けど、我が君なら弱らせて封じることができる。すでに鬼女の出現情報は都へ送った。我が君も軍を発していらっしゃるはず。あたしがやることはこいつをここに釘づけにして、今以上に荒らされるのを止めること」

「一人か? 軍は何故やって来ない?」

「はぁ? 本当に何も知らないわけ? 鬼女なんて触っただけで、逃げることもできないじゃん。さっきあんたたちも逃げ回ってたでしょ。兵なんて狙われる塊置いても邪魔」

「だが、カガヤはこうして助けに来てくれたのは何故?」

「ちっがーう! あたしは我が君のためにこいつを足止めしに来ただけで、あんたたちを助けるなんてしてないから! 勘違いしないで!」


 鬼女を牽制しつつ怒るカガヤだが、その背に庇われる立ち位置のシオンは頷く。


「そうか。それでも助けられたのは本当だ。感謝する。そして、たとえ役目だとしてもあまり前に出るな。危険だ」

「はぁ!? 本当なんなの! 誰が指図なんて受けるか! あたしは呪いに耐性あるから我が君から直々に鬼女の足止め命じられてんの! 三傑舐めんな!」


 カガヤは叫ぶと、四人で固まっていた中から抜け出した。

 鬼女に触れることも恐れず本体の前へと立つ。


「まずは止まれ! デカぶつ!」


 カガヤの勾玉が巨大化した。

 頭上に掲げた勾玉からは、黒い靄を纏った熱波が鬼女へ襲いかかる。


「うわ、本当に足止めた。カガヤって強いんだ?」


 驚くメイに、息を整えるホオリが応じた。


「鬼女はどうも予言にも語られる存在で、正体は不明だ。呪いの塊だってのも、一般には知らされていないだろうな。それと、鬼女は魔王がいるから存在するとも言われて…………」

「ふっざけんな、こら! 歴史勉強してから出直せ! 我が君が国を建てられる前から鬼女はいるんだ!」

「うわ、聞こえてたか。…………不勉強ですまないな! 加勢する」


 カガヤに怒鳴られ、ホオリは首を竦めると、また刀を構えて走る。

 メイはまだ息が整わず、シオンはその背を撫でていた。


「メイ、まだ鬼女はメイを狙ってる。辛いだろうけど気を抜かないで」

「うん、ありがと。あ、魔王が鬼女封印するっていうのは、本当だし、魔王軍もそれでうろついてるんだ。鬼女見つけたらすぐ魔王に知らせるの。ただ、すぐ封印解けるのか違うところに出てくるんだよねぇ」

「頻発するようなことなの? 封印以外に手は考えないのかな」


 素直に疑問を口にするシオンにまたカガヤが怒鳴った。


「守られる分際で文句ばかりか!?」

「おい、よそ見するな!」


 ホオリが忠告するも、カガヤが気を逸らした隙に、鬼女が前に出た。

 途端に、カガヤは鬼女の足元に飲み込まれる。


「あ、ぐぅ…………あぁぁああ!」


 苦痛の声を上げてのたうち回り、鬼女の下から転がり出るカガヤ。

 外傷はない。

 けれど体には煤のような黒いものがこびりつき、カガヤは掻きむしるように取るが、苦しみが続く様子でのたうち回る。


「「カガヤ!」」


 シオンとメイは走った。

 ホオリが炎で大きく焼いた瞬間、鬼女の足元のカガヤを二人がかりで引き離す。


 自身を引き摺るシオンとメイに、カガヤは苦しみの滲む声で叱りつけた。


「馬鹿! 我が君がいらっしゃるまで、弱い奴は、逃げてろ!」

「でも、この黒い、これついてると死ぬんでしょ!?」

「黒い、そうか。メイ! 領巾で包んで!」


 シオンの指示でメイは領巾でカガヤを包み込む。

 触れた先から煤のような黒いものは剥がれ、カガヤも苦痛が和らぐ様子が見られた。

 ただその状態では、メイもカガヤも動けない。


 そして鬼女はメイを狙う。

 ホオリは止めようとするが止まらず、気づいてシオンがメイとカガヤを背に庇うが、対抗手段はない。

 太刀を構えようとするのをカガヤが止める。


「顕現でもあの大きさどうにかできる力は稀だ! いいから、逃げろ! 少しは、ましになった!」


 カガヤはメイの領巾から片腕を出すと、胸に手を当て何かを引きずり出すように動かす。

 すると手には二回りほど小さくなった勾玉が現れる。


「ちょっと、顕現がそんな縮んでるんじゃ戦えないよ!」

「うるさい、あたしがやるんだ。やらないと…………!」


 顕現は心の具象。

 小さくなるようなわかりやすい弱体は、それだけ心身が弱っている証拠だ。

 鬼女の攻撃による苦痛が心まで影響を及ぼしている証だった。


 シオンはカガヤの様子を見て、自分の胸に手を当てる。

 すでに攻撃範囲に鬼女がいる。

 それでも慌てることなく自身の内側に意識を向けた。


(私に記憶はない。だが、心はあるはずだ。私は今、戦わなければならないと思っているのだから)


 カガヤが無理に顕現を出した時の、引き摺り出すような動き。

 それを思い描きながら、自らの心に念じて何かを掴む。

 その動きは最初片手だったのだが、シオンは自然と両手を掴んだものに添えた。

 そして目を開いたシオンの手には、剣の柄が握られている。


 青錆びた柄から伸びるのは、異形の刃。

 枝わかれして伸びる刃を、人は七枝刀と呼ぶ。


「これは、刀剣なのか?」


 シオン自身困惑するほどに異形。

 何故なら、枝として生える刃からは、領巾が伸び、火がともりとおよそ刃の態すらなしていない。

 燃える部分は錆びていながら金属とわかる刃が、何故か途中から木製になっている。

 不可思議な形というにも言いつくろえない、異様な顕現。

 心の形というにもおかしいそれに、シオンは確かな重みを感じて、柄を両手で握りしめた。


毎日更新

次回:勇者の火織4

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