第6章 24H Nürburgring 41
「それは言わない方がいいと思います」
「だよね。攻めろって言ってもいるし。まあ、あいつの好きにさせてやるわ」
ソキョンは、はかなげなため息をついた。龍一とのファーストコンタクトを思い出した。
あの時はアマチュア、無名の素人だったから、緊張でがちがちだった。Forza E World GPの予選をトライアウトとして。予選通過したら正式にチーム加入だった。
そこで、龍一は予選に通過し、チーム入り。プロデビュー戦となるForza E World GPで見事優勝を果たした。以後、チームメンバーとして、4シーズン、クルーと苦楽を共にした。
それも、このレースで最後だ。
チーム残留条件は、ツーリングカーと耐久双方で表彰台だった。ツーリングカーは勝ったものの、耐久では、自らのミスで順位を落とし。表彰台圏外。
プロとしての約束事である。お情けはかけられない。後からどんなに頑張ったところで、やめてもらうものは、やめてもらう。
「ソキョンさん、意外にセンチメンタルね」
「そうね、葛藤を感じているのね」
カースティとアイリーンは小声でひそひそ話をする。
「でも、Dragonは来季どうすんだろ?」
俊哉が言う。それを聞いた優は、
「わからん」
と言ったあと、さらに、
「よそがいらんという奴は、うちもいらねーんだよ」
そんなことを、そっけなく言う。
そう言っている間に、2台はピットイン。ピット作業を終えて、コースイン。
そんな2台の少し後ろに、AIカーの2台。
「ただいま」
と、アレクサンドラとショーン、マルタが帰ってきた。アイリーンはアレクサンドラとショーンとにハグした。
「残念だったわね」
「ええ。でも仕方ありません。これも、レースです」
「そうね」
マルタはソキョンとそんなやりとりをした。
時間は午後2時を回った。レースも残り1時間を切った。
「さあ、レーススタートだ」
龍一ははっきりと、そう言った。
「!!」
ヤーナはミラーでウラカンが迫るのを察した。来たのだ、仕掛けに来たのだ。
抜かれても問題ないから、行かせてもいいのだが。
ヤーナは、そんなことをしない。
ウラカンのラインを塞いだ。
風画流が実況する。
「おっと、ウィングタイガーのウラカン、Dragon選手、トップのX-Bow、Honey Bear選手に迫ります!」
「ルール上問題はありませんが、やはり周回遅れでのゴールはシムレーサーとしてのプライドが許さないのでしょうか? なんにせよ、残り1時間を切ってレースは面白い展開になりました!」
2階の観客やライブチャットのギャラリーたちは、おおー、と盛り上がった。




